43 真剣に考えるときが来た
ンドペキは迷っていた。
使えるものなら使いたい、というのが本音だった。
隊員達は疲れていた。
状況に倦んでもいる。
いくつもあるゲートの死守で精一杯の状況だ。
連日、小規模ではあるが攻撃を仕掛けられている。
休む間もないというのが、現実である。
そこに、新たな前線ポイントを増やし、負担を増やすのは躊躇われる。
隊員達に聞いてみるか。
そう思ったが、すぐに思い直した。
かつてのように、全員が顔を揃えて作戦会議を開くという状況にはもうない。
意見を聞いても、それが隊員達の本心からの意見かどうか、見極めることはできないだろう。
兵士となるにあたって、それぞれに何らかの思いはあったはず。その根幹に関わる問題だ。
しかも、ロクモン隊との融和は進んだとはいえ、レイチェルの事故の後、微妙な空気感があったことも事実。
「何度も申すが、わしは反対。そんな卑怯な手、使いとうはござらぬ!」
ロクモンはあくまで拒否。
パキトポークなどは、東部方面攻撃隊の恥とまで言った。
ハクシュウならどうするだろう。
ンドペキは、久しぶりにそんなことを思った。
街をアンドロの手から取り戻す。その目的のためには手段を選ばず。ハクシュウならそう言うだろうか。
それとも、名誉を重んじ、あえて苦しい道を進むだろうか。隊員だけならまだしも、市民の犠牲に目を瞑ってでも。
決めた。
「カットラインを使う。しかし、今ではない。いずれ」
パキトポークは幾分がっかりしたようだったが、さほどこだわりはなかったようで、
「やむを得まい」と、反応した。
ロクモンは顔色を変えたが、それでももう何も言わなかった。
「もう一度あの煙突を念入りに調べてからだ」
レイチェル騎士団が篭っているというシェルタの手がかりは、今もあのごみ焼却場しかない。
むしろ、連日、攻撃に晒され、シェルタ探しもままならないというのが実態である。
「十日間。もう一度、シェルタの入口探しに全力を尽くそう。それでも見つからない場合、作戦は練り直しだ」
すでに、あそこは徹底的に調べてあった。
新たな発見の可能性は低い。
「その上で、必要となればカットラインを使う。最後の手として」
作戦の練り直し。
それは、政府建物への、正面突入作戦への転換を意味する。
シェルタ経由のレイチェルの居住区への近道作戦は使えない。
「真剣に考えるときが来たようだ」
「同感だ!」
腕まくりしそうなほど、パキトポークがいきり立った。
「作戦の大筋は、前に話し合ったとおり」
「うむ」
「問題は、いつ実行に移すか」
話題は新たな作戦の吟味に移った。
政府建物内の状況は、かなり把握できつつある。
タールツーがいると思われる建物も、掴んでいる。
そこへ至るルートも頭に入っているし、万一の場合の退避ルート、そしてタールツーを取り逃がした時の追尾ルートも。
そして、隊をいくつかの小隊に分け、それぞれの役割も決めてある。
「特別なタイミングなど、あるか?」
ンドペキはコリネルスに聞いた。
「おいおい。見損なうなよ。いつでも準備はできてるぞ」
作戦のための武器弾薬、エネルギーパット、特殊な工具、非常用の通信機器、食料、救命救急のための用品など、携行品はいつでも手に持ちさえすればいいように集積してあった。
「よし。そっちはどうだ?」
パキトポークは、意見などあるか! と吼えた。
「今からでも行こうぜ!」
「うむ。ロクモンはどうだ?」
「うーむ」
こちらは慎重のようだ。
騎士団と連動してこその作戦、というのがロクモンの持論である。