37 俺は俺の仕事をしているだけ!
「セカセッカスキ! 政府にたてつく気か!」
「いえいえ、滅相もございません。俺は俺の仕事をしているだけ!」
にやりと笑って、
「しっかりつかまってろよ。気分が悪くなったって、降りるわけにはいかねえぜ」
と、機体がまた一気に上昇を始めた。
かと思うと、急降下だ。
「セカセッカスキ! ふざけているのか!」
「いえいえ。お客さんにフライトを楽しんでもらってるのさ。これもサービスってやつ!」
窓の外の景色がめまぐるしく変わっていく。
とはいえ、雲海と抜けるような青空だけだが。
普通の人間なら、とうの昔に三半規管がいかれているだろう。
スジーウォンやスミソは平気だったが、アビタットもサブリナも平然としていた。
「さあてと、どうするかな」
この飛空艇なら、街の戦闘機など、振り切ることは容易だ。
「それとも、こいつを試してみるかな」
位相を瞬時に変え、敵機のレーダーからも衛星からも、姿をくらますことができるという。
「まあ、やめておこう。逃げたと思われるのは癪だからな」
無線が叫んでいる。
「止まれ! 引き返すんだ!」
戦闘機も無人で自動操縦。
無線は管制官。
それなりについてくる。どの程度の攻撃力があるのだろう。
「行かせるわけにはいかない!」
「セカセッカスキ! 考え直せ!」
「お客さんをここで死なせるわけにはいかないだろ!」
戦闘機は少なくとも四機。
「まあ、そういうことになるだろうな。サブリナ。予想はしてたんだろ。どうする?」
どんなに脅されてもセカセッカスキは余裕綽々で、サブリナに意見を求めている。
戦闘機をもてあそぶかのように、上下左右に激しく位置取りを変えている。
万一ここで撃墜され、空中に放り出されたら、フル装備の兵士でもさすがに無事ではすまない。
ただ、スジーウォンは少しの不安も感じなかった。
それほど、セカセッカスキの態度は自信に満ちていた。
奥の手もあるのだろう。
「そうねえ」
サブリナの方も、悠長なもの言いで、逡巡してみせる。
「逃げるのはいつでもできるとして、もう少し彼らから情報を得たいわね」
などと、呑気なものだ。
「了解」
と、セカセッカスキが再び管制官と通信を繋いだ。
「おい。聞きたいんだが、なぜロア・サントノーレに近づいてはいけないんだ?」
相手は押し黙ってしまった。
「お客さんは、せめて上空からでも見物したいと言ってるんだぞ。故郷なんだとよ」
「なに! 故郷!」
「なんだ? 妙なところに引っかかるな」
「搭乗者はロア・サントノーレ出身者か!」
「まあ、そういうことになるのかな。俺は知らんよ」
まずかったかな、というようにセカセッカスキが舌を出した。
飛空艇乗りは、明らかに状況を楽しんでいた。
しかし、通信機から聞こえてくる声は、それを許すまじと気迫がこもっていた。
「セカセッカスキ! とうとう焼きが回ったな!」
「貴様を撃墜する十分な理由ができた!」
見れば、いつの間にか、戦闘機四機がすぐ後ろに迫ってきていた。
「ちいとまずいかな。遊びすぎたか」
セカセッカスキがスロットルに手を伸ばしかけたときだ。
「待って!」
「ん?」
「あれ!」
「あっ!」