34 私は頭が弱いけど
ニニが奥のベッドルームに眼をやった。
淡いラベンダー色のカーテンで軽く仕切られているが、ベッドが二つ並べられてあるのが見える。
ニニとアンジェリナのものだろう。
チョットマはさりげなく部屋を見渡して、
「素敵ね。ここ」と言った。
本心である。
「私、こんな素敵な部屋に住んだことない」
どこからか、ふわりといい香りが漂ってくる。
「女の子の部屋は、こうじゃなくちゃね」
ニニは無表情のまま、また、奥のベッドをちらりと見た。
「私は兵士でしょ。だからというわけじゃないけど、こういうふうに部屋を飾るなんてこと、今まで考えたこともなかった」
そろそろ本題に入らなくては。
ニニは、迷惑がっているふうでもないが、チョットマを無視するかのように、物思いに耽っているようにみえる。
「私、セオジュンとアンジェリナが今どこにいるのか、どうしているのか、知りたいと思って」
単刀直入に聞くことにした。
とはいえ、自分のスタイルとして、回りくどい話し方はできない。
「あなたなら、知ってると思うのよ」
ニニがようやく目を合わせた。
ただ、それは一瞬のことで、再び目をそむけてしまう。
困惑しているようでもなく、拒否しているようでもない。
孤独な殻に閉じ篭っているような。
そんな目をしていた。
最後にアンジェリナと一緒にいたのはいつ?
どんな様子だった?
そんなことを質問すればいいのだろうか。
あるいは、セオジュンに照準を絞って話せばいいのだろうか。
以前、ライラに初めて会ったとき、叱られたことを思い出した。
自分には、相手を重んじる気持ちも思いやりもなかった、と思い知らされ、泣いたあのとき。
しかし今、悄然としているニニを前にして、何を話せばいいのか、チョットマには分からなかった。
「ニニ……、力になりたいのよ……」
パパなら、こういうとき、どう言うんだろ。
「もし、あなたが知らないなら、私のパパが探してくれると思うんだ。優秀な探偵も友達みたいだし」
チョットマはニニが何かを隠している、とは思っていなかった。
話すことができないのかも、となんとなく思っていた。
「私は頭が弱いけど、パパは」
ニニは目を伏せたままだが、ようやくかすかな微笑を見せた。
「ねえ、卒業式の日……」
何かあったのだろう。
チョットマは自問するように言った。
初めてニニがまともに顔を上げ、口を開いた。
目元が潤んでいるようだった。
「あの日……。ううん、その前に私たちのことを話すわね」
ニニの声が、今までとは違っていた。




