表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/258

33 物騒な話

 カイラルーシ軍に阻止されたときの自分達の行動は決まった。

 飛び降り、あるのみ。

 ただ、そのときサブリナとアビタットに、妙に義理立てされても困る。

 彼らが深刻に思わないような、それらしき「任務」を、捏造しておくか……。


「実は……」

 どう話すべきか。


「我々もある人を探している」

 すらりとそんな言葉が口から出た。

 スミソが、ちらりと目を向けた。

 彼は知らない。私のもうひとつの目的を。


「数週間前、死んだ。ロア・サントノーレで再生されるはず……」

 言ってしまおう。

「私達のリーダー」


 今度は、スミソがはっきり目を剥いた。

 そして、かすかに舌打ちしたように見えた。


「彼に会いたいのよ」

 そして、ニューキーツに戻ってきて欲しいから。

「いろんな意味でね」

 ンドペキは優秀だし、信頼もしている。

 そこにハクシュウが戻って来てくれれば、どれほど心強いだろう。



 アビタットは、ふうん、と小さく頷いただけだったが、サブリナは興味があるのか、目をしばたかせた。


「そう。色々な意味で」

 そう応えたのは、スミソだった。

 彼にしてみれば、ハクシュウを出汁にしておくのはいい思いつきだ、と思ったのかもしれない。


 ハクシュウが同じものを追っていることを、スミソは知らない。

 あくまでペアとして選ばれた隊員。


 常に冷静さを失わないスミソ。

 しかも、臆病ではない。

 チョットマと共に、荒地軍を引き付けるために飛び出していったことは、まだ記憶に新しい。

 相手を引き込む精悍な褐色の素顔と落ち着いた声。そして安心感を与える話し方。

 破壊力は大きくはないが、俊敏性はチョットマに次ぐ。

 だからこそ、この任務にスミソを選んだ。


 スミソの一言で、サブリナもアビタットも口をつぐんだ。



 思えば、奇妙な作戦である。

 全貌が隊員に明かされることはなかった。

 今までなかったことである。

 ンドペキは、幹部には話しておくと言って、その本当の目的を話してくれた。


 地球を救うため。

 そして、チョットマの身を守ることになるかもしれないとも。

 ライラを通じ、エリアREFの市長とやらに、頼み込まれたことも。


 ただ、スジーウォンにとって、心を捉えたのは別のことだった。

 もし、ロア・サントノーレでハクシュウと出会えば、協力して任務を遂行することになる。

 任務のためにも、ニューキーツのためにも、ンドペキ隊のためにも、それがとても重要なことのように思えた。

 もちろん、自分のためにも。



 サブリナはもっと聴きたいという顔をしていたが、話はこれで終わりだ。

 探し人の名こそ出さなかったが、それはサブリナも同じ。目的は人捜しだと伝えたのだから、十分だろう。

 任務とはいえ、個人的な用件に聞こえただろうか。

 係わり合いになるほどのことではない、と伝わっただろうか。


「カイラルーシ軍がどれ程のものか知らないが、逃げおおせてみせるさ」

 そういって、スジーウォンは話を締めくくった。




「僕は」

 アビタットが話そうとしている。

 しかし、そう言ったきり、なかなか言葉が出てこない。

 ようやく発した言葉は、行かなくちゃいけないような気がして、というあいまいなものだった。


「ロア・サントノーレに知り合いがいるはずで……」

 言いにくそうだ。

「そいつに用がある、ということなんだけど……」

 

 アビタットの用件。

 こちらも人探し。

 どうでもいいこと。関係ない。


 疑念があるのは、サブリナの方だ。

 セカセッカスキがニューキーツに向かってくれるという、先ほどの自信に満ちた顔。

 会いたい人を忘れたことがないというのなら、なぜもっと早くに。

 なぜ今になって。


 そんな疑問も、食後のデザートのようなもの。

 眠りにつく前の儀式。

 どうでもいいこと。



「そいつは……」

 アビタットが話している。

 サブリナが真剣な顔をして、少年の話を聞いている。


 スジーウォンはふと思った。

 サブリナとセカセッカスキの間で、ある程度の話はできていたのではないか。

 店での話ぶりでは初対面とは思えない。

 カイラルーシ長官ジュリエットとセカセッカスキ。どんな関係が。

 サブリナは何を知って……。


「そいつを殺さなくちゃいけない」

 アビタットの言葉に、スジーウォンは我に返った。

「殺す?」

「ああ。そんな気が……」

「物騒な話ね」

「まあね!」


 アビタットがはじけるように笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ