29 かみしめる幸せ
「ねえ、パパ、ちょっといい?」
「もちろん」
戦闘後の後片付けも、あらかた終わりつつある。
深夜にもかかわらず、エリアREFの住民達が集まっている。
今回の襲撃は少々大掛かりで、ゲートはかなり破壊されたが、エリア内への侵入は阻止していた。
「ここで話す? それとも場所、変える?」
「うん。パパの部屋で。じゃ、もう少し手伝ってくるから。後でね」
と、チョットマは瓦礫を運ぶ列に戻っていった。
イコマの部屋は狭い。まるで岩の隙間。
フライングアイの身で専用の部屋は必要ないが、ンドペキと同室というのも具合が悪い。
まだ誰にも、意識も過去も共有していることは話していない。
むしろ、話すときはきっと来ないだろう。
それを明かせば、チョットマは恥ずかしさのあまり、唇を噛むだろう。
恨まれるかもしれない。
なにしろチョットマは、ンドペキへのときめきをイコマに幾度となく告白していたのだから。
部屋の照明が点いたり消えたりしている。
最近、数分間、停電することもある。
エリアREFだからではなく、イコマの部屋だけが安普請でもない。
太陽フレアが極大期を迎え、送電網や通信に障害をもたらしているのだ。
ただ、今はまだ、被害は大きくない。
アギの意識が途切れることもない。
深刻に考えることはなかった。
東部方面攻撃隊が用意してくれたこの部屋。
世界中どこを探しても、リアルな部屋を持っているフライングアイは他にいないだろう。
アヤを救出してくれた大恩ある東部方面攻撃隊。
しかも今、隊長のンドペキとは意識を共有し、この苦境の時を共にしている。
イコマは幸せをかみしめていた。
ユウを探し続けた六百年が報われた。
今度会ったとき、どんなことになっていようとも、最初にキスしようねという約束も果たされた。
コンフェックスボックスでは、顔を見て、声を聴いて、バーチャルであれど抱き合って愛を確かめることもできるようになった。
そしてアヤまでも、戻ってきてくれたのだ。
これに勝る幸せがあろうか。
ンドペキの意識も、この幸せに包み込まれている。
ンドペキの場合はユウとともにスゥをも得た。
隊長として厳しい立場にあり、そんなほろりとする感情や踊りだしたい気持ちはおくびにも出さないが、そのンドペキの心情もイコマの心情そのもの。
そしてチョットマ。
イコマの意識としてもンドペキの意識としても、今や、かわいい娘そのもの。
そんなことを思いながらチョットマを待った。
話したいこととは、セオジュンの行方不明のことに違いない。
結局、あれから1週間ほど経つというのに、少年は姿を現さないし、何の情報もないまま。
しかも、同時にアンジェリナという娘の姿も消えていた。
ハワードの同僚、つまりレイチェルのシークレットサービス。
彼女の失踪についても、ハワードはじめSP達は首を捻るばかりだった。
「ねえ、パパ。セオジュンのことなんだけど」
息の詰まるような狭い部屋で、チョットマが話し出した。
いつものように、紫色のベルベットのスツールに座って。
「さっき、後片付けの人の中に、ニニっていう子がいたの、知ってた?」
「いや。誰?」
「セオジュンやアンジェリナをよく知ってる子。アンドロなんだけど」
三人で仲良しグループを作っていたという。
「彼女なら何か知ってると思って、聞いてみたんだけど」
チョットマはライラに紹介される形で、ニニと会ったという。




