21 花を手向けに
「やっ、ハワード!」
鉄の橋をハワード、その後ろからマリーリが渡ってきた。
「珍しいな、こんなところで会うなんて」
「元気かい」
ハワードが、少しばつが悪そうな顔をした。
「どこ行くんだい」
二人は大きな荷物を背負っていた。
「ほら、これ」
「おっ、すごいな。そいつは」
マリーリは大きな花束を持っていた。
生の花など、貴重な品物。
「昔、人にはそういう風習があるって聞いたもんだから」
プリブはハワードの言葉の意味がすぐにはわからなかったが、シルバックが、
「レイチェルのために?」
と言ったことで、花束の意味が理解できた。
「花を手向けに……」
ハワードは照れたように、肩をすくめた。
「水系へ、その……」
放流するのだという。
「そうなのか……」
なんと応えてよいか、口ごもっている間に、「じゃ、また」と、ハワードは通り過ぎていこうとする。
「その荷物は?」
シルバックの問いかけは、穏やかなものだったが、ハワードは幾分気分を害したのかもしれない。
そもそも、レイチェルが死んだのはンドペキ隊の落ち度なのだ。
「我々の、その、部屋もあるんです」
と、ハワードは早口に言った。
プリブは、また今度、顔を出すよ、と言いかけてやめた。
知られたくない、と言い返されそうな気がした。
ハワード達と別れ、二人は鉄の橋を渡り始めた。
「それはそうと」
シルバックが橋の中央で立ち止まった。
「火ねえ」
「この地下で、生の火を盛大に見ることができるのは、ここだけよね」
「ああ。だから、かなり探したじゃないか」
くまなく調べていた。
天井まで数十メートルほど。概ね立方体をした空間。
しかし、バーチャルも含めて、出入り口らしきものはない。
シルバックが天井を見上げている。
天井の四隅には、二メートル四方ほどの縦穴が上部に伸びている。
「あれを登っていったら、あっさり街の上空に出たぞ」
その内部にも何も発見できなかった。
「そうよね。あれはただの煙突」
「生贄も空振りだった」
生きた鼠を炎の中に放り込んでもみたりもした。
火に守られた何者かが、この下に潜んでいていて、顔を出すのでは、と。
臨戦体制で固唾を呑んで見守ったが、可哀想な鼠は焼け焦げていっただけだった。
「ねえ、プリブはどう思う? この下に何かいると思う?」
「さあな。大蛇とか?」
「蛇は暖かいところが好きでしょ」
「ふうん。いろいろ調べたんだな」
「そういうわけじゃないけど」
「大蛇がいるとして、シェルタの入り口は?」
「竜神様がシャルタの入口を守っている、とか、まさかね」
「ない。そんなありきたりなストーリーのはずがない」
「そうよねえ。ねえねえ、私が生贄になって、飛び込んでみようか」
「おいおい。やめてくれ」
「私が惜しい?」
「ん……、そうじゃなくて、万一のことがあったら困る」
「困る、だけ?」
「おい」
「だめか」
「当たり前だ」