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2 主役はやっぱり

 ここ北米大陸、世界に六十七ある街の一つ、ニューキーツ。


 アンドロが支配を強めつつある。

 街を治めてきたホメムのレイチェルがサリに刺されて地下水系に流され、人造人間であるアンドロのひとり、タールツーが暫定長官を名乗っている。



 しかも、もうひとつ、外憂がある。

 数百年前に地球を飛び立った「神の国巡礼教団」が解体し、そこから発展した「パリサイド」が地球に帰還し、定住を要求している。



 地球全体の問題であるパリサイドへの対応はさておき、アンドロとの攻防は喫緊の課題である。


 街を奪還するべく機会を窺っている東部方面攻撃隊、いわゆるンドペキ隊。

 このエリアREFの住民の支援を受けて立て篭もっているが、何度かアンドロの襲撃を受け、緊迫した臨戦態勢にある。


 そんな状況下での卒業式。

 パーティどころではないのだろう。



「主役はやっぱり、セオジュンなんだから」


 確かに、セオジュンの成績は飛び抜けている。

 二年飛び級で卒業し、十六歳という若さで政府機関、それも治安省への就職まで決まっているという。

 卒業パーティに主役というのも妙な表現だが、チョットマがお気に入りの少年なのだ。



「まあね」

「もう! 気のない返事!」


 チョットマは口を尖らすが、ンドペキ隊の隊員である彼女こそ、エリアREFでは一目置かれる存在である。

 いわば、噂の人。



「関心がないわけじゃないよ。いつからいないんだい?」

「昨日の朝。もう、丸一日経ってる!」



 イコマは部屋を眺めた。

 バーチャルで作られた部屋に、コンフェッションボックス経由でチョットマが訪ねてきたのではない。

 エリアREFの実体のある小さな部屋。

 窓のない小さな空間で、フライングアイとして対面している。




 思い出す。

 これと同じような会話をこの娘としたのは、わずか二ヵ月ほど前。


 あの時は、サリの失踪が腑に落ちないといって、バトルシーツを着たままの姿で駆け込んできたのだった。

 今日と同じように。




 あれからさまざまな出来事があった。

 イコマの身にもチョットマの身にも。

 そしてニューキーツの街にも。


「じゃ、チョットマ、君がしっかりしなくちゃ」


 チョットマ自身、わかっているのだ。

 仲良しになったセオジュンがいなくなったからといって、それにかまけている時ではないことを。




「じゃ、パパ。私、なにをすればいい?」


 しかしイコマは、この娘自身が隊員として、なにをするべきかを敢えて言いはしなかった。

 明日の生死もわからない今、それは彼女自身が考えることであり、隊長であるンドペキが伝えるべきことだからだ。


「ライラのそばにいてあげなさい」


 イコマは、ンドペキの意識としても、こんな風に言って、チョットマをできるだけ柔らかく包んでおいてやりたいと思った。



 サリの失踪の謎を解いてみせたあの夜以降、チョットマの立場に変化が起きた。

 周囲の彼女を見る目が大きく変わったということではない。

 彼女が大きな責務を背負ったというわけでもない。


 しかし、いずれそのときが来るかもしれない、という予感。

 そんな空気感。



 チョットマの無邪気ともいえる振る舞いも、裏を返せば、そのストレスから自分を解放させようとしてのことかもしれなかった。

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