18 緑色の髪
そんな話だけなら、ンドペキは一笑に付しただろう。
しかし、市長はこうも言ったという。
実は、その剣とやらを取り戻す依頼は、ハクシュウにしてあった、言うんだよ。
だが、今回の騒動が起き、ハクシュウは死んだ。
きっと再生時にはロア・サントノーレに向かうはずだ。
そういう約束になっている。
ただ、念のためにンドペキ隊からも人を出してほしい、とね。
「あたしゃね、アンドロとの対決も大切なことだと思うよ。でもさ、地球そのものが滅びてしまうんだったら、と思うとね」
ライラは、まるで世間話をするように言う。
「きっと市長も同じ気持ちだと思うのさ」
あえて、頼むとは言わない。彼女なりの、伝言の仕方なのだろう。
「何度も言うけど、あたしゃ宗教なんてものに興味はないよ」
装置の存在を隠すために、謎かけのような言い伝えとして残されたのだという。
「あくまでこれは科学の話」
ライラは、再びオーエンとホトキン、そしてゲントウという名を出した。
「カイロスってのも、本当はどうでもいいことなのさ。百年二百年も経てば、言い伝えはおどろおどろしくなるもんさ」
ライラは、市長の話はこれで終わり、ちゃんと伝えたよ、と席を立とうとした。
「ライラ、ちょっと待ってくれ」
「うん?」
「伝言はわかった。しかし、その市長さんとやらに会わせてくれないか」
「……」
「あんたを信用していないわけじゃない。もう少し話を聞きたい」
カイロスがどうのこうのはどうでもいい。
市長だというのなら、レイチェルのシェルタの入口の場所を聞けるかもしれない。
シェルタの入口の場所。
ライラは知らないという。
スゥもだ。
ハエワードらSPも知らされていないという。
頼れる人がいないのだ。
「それがね」
ライラは、市長には、まだ会わせられないという。
「でも、あんたは何度も顔を合わせてるよ。それどころか、話もしてる」
いずれ、名乗るだろうと煙に巻かれてしまったのだった。
ンドペキはためらった。
ライラは信用できる。
チョットマの。そして隊にとってもいわば恩人。
しかし、この茫洋とした話は……。
アンドロ軍と対峙している自分達にとって、あまりに現実離れしている。
地球人類を滅亡から救うため……、などと。
どうかしてるんじゃないか……。
いかれた伝説に振り回されるほど、落ちぶれてはいないぞ……。
とはいえ、ンドペキは、まず、スゥにどう思うかと聞いた。
スゥとライラは同業者。あるいは子弟。隣同士に住む昵懇の中。
驚いたことに、スゥは、あるいはユウであるJP01は、地球が破滅する日が近いという点に関しては、その通りだと言ったのだった。
だからこそ、地球に帰還したのだとも。
しかし、それ以上は語らない。
地球が破滅、人類滅亡……。
荒唐無稽すぎて、ンドペキには何の感慨も湧かなかったし、まともに受け取るつもりもなかった。
ただ、何らかの手は打っておくべきなのか。
これについても、スゥは明言しなかった。
市長はハクシュウには依頼してあったという。
これを聞き流すことはできなかった。
誰かをロア・サントノーレという街に向かわせるべきなのか……。
市長は今すぐにでも、と希望しているという。
ハクシュウに依頼し、改めて自分達に依頼してきたのなら、軍事的な要素があるということになる……。
スジーウォンとコリネルスとパキトポークとロクモンだけに図った。
話を聞いてすぐ、意外や、スジーウォンが名乗り出たのだった。
今すぐ、私が向かうと。
その剣を持ち帰り、あわよくばハクシュウと再会し、ここに戻ってきてもらう、と。
そしてスジーウォンは、供としてスミソを指名した。
隊員達に図りはしなかった。
チョットマの耳には入れられない。
これ以上、訳の分からぬ重荷を背負わせるわけにはいかない。
緑色の髪を持つ女性だからといって。
ただでさえ、レイチェルのクローンだったことで、彼女は傷ついたばかり。
クシの件もある。