12 約束、忘れないでよ
「わかった。しかし、おまえ、乗りたいって、ロア・サントノーレに行きたいのか?」
「そういうこと。子供だけでは乗せられないっていうんだよ。お金は払うと言っても、だめなんだ」
「なるほど」
「それと、オマエ、って呼ばないでくれるかな」
「ん」
「名前は、さっき言ったよ。アビタット」
「そうだな」
少年の言うとおりである。
子供の姿をしているからといって、少年のような言葉遣いをしているからといって、ホメムでない限り、十歳そこそこの子供であるとはいえない。
これまで生きてきた経験や知能は、蓄積されている。
再生のミスは、少なくなったとはいえ、依然としてあるのだ。
スジーウォン自身も経験している。指定しておいた年齢よりかなり若く、少女として再生されたことが。
「すまなかった」
「うん。いいんだよ」
そういって、アビタットはニコリと笑った。
「じゃ、まず、ロア・サントノーレまで運んでくれる飛空艇乗りに会いに行こうか?」
「ああ、頼む」
スジーウォンは、この少年がなぜロア・サントノーレに行きたいのか、聞かなかった。
アビタットも、自分たちがロア・サントノーレにどんな用があるのかを聞いてこなかった。
もしかすると、それさえも知っているのかもしれなかったが。
「でも、もし了解を取り付けても、今晩中に出発はできないかもしれないよ。そのときは泊まるところにご案内、だね」
「ということになるな」
「僕も連れて行く約束、忘れないでよ」
そういうが早いか、アビタットは足を速めた。
「監視カメラやマイクはいたるところにあるよ。でも、チェックの頻度は高くないみたい」
「長官の名前なんかは、口にしないほうがいいみたい」
「物資は豊富にあって、パリサイドとの戦争が近いことの実感はないみたい。普通の市民はね」
「兵士の募集が始まっているんだよ」
「街は地下深く何層にも広がっていて、この最上階が一番狭いんだ」
などと話しながら、アビタットは何度も街路を曲がりながら歩いていく。
時に小走りになったり、不自然なほど狭い路地に入り込んだりする。
「ほら、ここは下の階へ降りていく階段さ。気をつけていれば、街中に見つかるよ」
ロア・サントノーレ。
ユーラシア大陸、カイラルーシの街の一部、ということになっている。
五百キロほど北方に離れた飛び地で、大森林地帯の只中にある数百人ほどの小さな街。
徒歩で行けなくもないが、途中に大きな湖があり、かなり迂回しなくてはならない。しかも、活発な活動をしている火山帯を抜けていくことになる。
大森林地帯で、移動スピードも落ちざるをえない。しかも殺傷マシンが巣食っている。
おのずと、移動手段は飛空艇頼りということになる。
スジーウォンもスミソも、その街の名を、今回の任務が与えられるまで、知りもしなかった。
そもそも、世界中に六十三ある街の中で、飛び市街地を持っている街があることさえ知らなかった。
世界を救うため、という大層な言葉に送られてここまで来たのだが、状況を飲み込めているわけでもない。
早く任務を終え、できれば早くハクシュウに会い、ニューキーツに戻りたい。