10 道に迷ってるんだろ
「道に迷ってるんだろ」
少年は、アピタットと名乗った。
答えようがない。だが、迷っていることは明白だ。
黄色い光を放つ建物群の間を右往左往するばかりで、飛空艇を探すどころか、ホテルも、カイラルーシの街の全容さえ一向に掴めないでいる。
「そんなところを歩き回っても、どうしようもないよ」
少年が、ついて来いというように、また親指を立てた。
「こっちだよ」
むぅ。
少年がニヤリと笑った。
躊躇っている時ではないか……。
空は満天の星。
気温は急速に低下を続けている。すでに氷点下十四度。
氷混じりの強い風が吹き始めていた。
「ん……、では、案内を頼もうか」
「そうこなくちゃ」
シリンダーの中は想像以上に狭かった。
黄色い光は、シリンダー内部から発せられていると見えたが、そうではなかった。
厚さ二メートルはあろうかという壁自体が、光を発していたのだ。
部屋はがらんどう。中央に、狭い階段が地下に続いていた。
少年がまたほのかに笑って、降りていく。
スジーウォンとスミソは、
「行くか」「だな」と、ラバーモードで言葉を交わしてから、少年の後ろに続いた。
かなりの高低差を降りきったところに、頑丈そうな扉があった。
扉の左右に緑のボタンが二つ。
また、少年がにこりと笑いかけ、両手を広げて扉横のボタンを二個同時に押した。
扉が開いていく。
「簡単な仕掛けだよ。これでも、頭の悪いマシンにはできっこないことなのさ」
「おおっ」
扉の向こうには、眩しい光が満ちていた。
「ここが……」
夜とは思えないほどの明るさだった。
「そう。ここがカイラルーシの街」
喧騒が満ちていた。
スジーウォンは、すごい!という言葉をかろうじて飲み込んだ。
けたたましい音を立てて、三人を掠めるように、一人用の乗り物が次々と走り抜けていく。
溢れかえった黄色い光に、けばけばしいネオンサインが派手な色を点滅させていた。
さまざまな色の光線が天井を舐めていく。
「兵隊さんたちは、街の天井の上を歩き回っていたのさ」
スジーウォンは思わず、ポカンと口を開けて上空を見上げた。
天井は高い。
濃紺に塗られた天井にはさまざまなものが取り付けられている。
監視カメラや集音器はもちろん、数々のセンサーも無数に仕掛けられてあるのだろう。
猥雑で活気あふれる地下の街。
ニューキーツのような、どこかノストラジーを感じさせる街ではない。
多くの人が行きかっている。
子供もいるし老人もいる。ショッピングバッグを膨らませた婦人達もいる。
雑踏の中を兵士が駆け抜けていくが、誰も気に留める様子はない。
「あっ」
黒い獣が駆けていった。
「犬だよ。誰かが飼っているのさ」
スジーウォンはようやく声を出せた。
「あれもか?」
「だろうね」
牛が悠然と通りを横切っていった。
なんだ?
けたたましい音楽が聞こえてきたかと思うと、瞬く間に巨大な乗り物が通り過ぎていった。