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辺境暮らしの便利屋冒険者、伝説のクランのリーダーに祭り上げられる 〜本人曰く「ただの日常」らしいです〜  作者: 盆ちゃん


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第140話:ただの外壁塗装と、腐界の粘菌魔帝の強制アートモニュメント化(総合ライフサポート企業の外装メンテナンス業務)

第140話:ただの外壁塗装と、腐界の粘菌魔帝の強制アートモニュメント化(総合ライフサポート企業の外装メンテナンス業務)

 黄金の城塞『日だまり郷』の朝は、大宇宙の理すらも平伏す圧倒的な平穏と、魂の奥底から理性を吹き飛ばすような極上のごま油の香り、そして弾ける油の暴力的なまでの香ばしさと共に幕を開ける。

 今日のアルドは、朝からキッチンの特大の揚げ鍋と巨大な羽釜に向かい、見事な手際と火加減で『特製・大幻獣海老と世界樹野菜の極上黄金天丼〜星屑の特濃甘辛ダレ〜と、天界アサリの潮汁』を仕上げていた。

「よし! メインは、大精霊の清冽な海流で育った特大の幻獣海老だ。殻を剥いて筋を切り、神仙小麦と天界の氷水でサックリと溶いた特製の衣を纏わせる。これを、幻獣のごま油と星屑の綿実油を独自の黄金比でブレンドした高温の油へ一気に投入する! ジュワァァッという心地よい音と共に、衣の中で海老の旨味が限界まで閉じ込められ、外はサクサク、中はプリップリの極上天ぷらに仕上がる! さらに、世界樹の森で採れた肉厚のシイタケ、甘みが限界突破している幻獣カボチャ、そして天界鶏の産みたて卵の半熟天ぷらも一緒に揚げていく。羽釜で炊き上げたばかりの神仙米の銀シャリの上に、これらの黄金に輝く天ぷらを豪快に積み上げるんだ! そこへ、幻獣の鰹節と神仙醤油、星屑のザラメを三日三晩継ぎ足して煮詰めた、秘伝の甘辛い天丼のタレを滝のように回しかける! 付け合わせには、大粒の天界アサリから濃厚な出汁をとった、磯の香り豊かな潮汁! 仕上げに三つ葉を散らして……熱々のうちに完成だ!」

 アルドがエプロン姿で、黄金の塔のようにそびえ立つ特大天丼と、湯気と共に圧倒的な出汁の香りを放つ潮汁をダイニングテーブルに運ぶと、その暴力的なまでの油とタレの香りに引き寄せられ、神竜ポチとモフモフの星狼シロがテーブルの下でちぎれんばかりに尻尾を振って待機していた。リビングのソファでは、特大モチモチクッションへと強制リメイクされた元・大宇宙の邪神ゼロ・アポカリプスが、ポカポカと温かいヒーター機能を放ちながら、平和なインテリアとしての職務を微動だにせず全うしている。

 この極上天丼朝食、一口食べれば幻獣海老の極上のタウリンとアミノ酸が全身の魔力回路を限界突破させ、潮汁の圧倒的なミネラルが血中のあらゆる疲労物質や致死の呪いすらも瞬時にデトックスし、魂の底から尽きることのない多幸感と絶対的な活力を湧き上がらせる『究極の超覚醒・和の心フルコース』である。

「うむ……! このサクッとした衣を噛み破った瞬間に弾け飛ぶ海老の甘みと、濃厚な甘辛ダレが染み込んだご飯が織りなす圧倒的な旨味のビッグバン! そして半熟卵の天ぷらを割った時の悪魔的なまろやかさの宇宙! 見るだけで我が魔界の闘争本能が、休日の昼下がりに老舗の天ぷら屋で特上天丼を掻き込む粋な老紳士のようにフニャフニャに溶かされそうになるわい!」

 元・魔界大帝サタナスが、箸を両手で震わせながら握りしめ、あまりの美味さにワナワナと肩を震わせて感涙に咽いでいた。

 そんな賑やかなダイニングの喧騒が一段落し、食後の極上ほうじ茶が振る舞われた後。

 アルドは、防音・防諜の魔法結界が幾重にも張られたリビングの長テーブルの上座に座った。その周囲には、『出張解体アシスタント』のレイヴン、『特殊クリーニング部門責任者』のエルミナ、『総合防犯システム責任者』のシノン、そして『最高財務責任者(CFO)兼・広報担当』のアーキヴァルという、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の頼もしき役員たちが顔を揃えている。

「さて、みんな。東方の廃都の粗大ゴミ回収(機巧邪神のリサイクルセンター化)も終わって、世界中のゴミ問題がすっかり解決したね。これもみんなのチームワークのおかげだよ。……それで、次なる『困り事』の案件は何か入っているかな?」

 アルドがニコッと微笑みかけると、CFO兼広報担当のアーキヴァルが、優雅な所作で立ち上がり、分厚いバインダーを開いた。

「はい、社長。我が社の次なるCSR活動として、今回は大陸西部の果て、『死の腐海遺跡』における、極めて深刻な外壁の腐食とカビの蔓延被害に関するご相談を受注いたしました」

 アーキヴァルは、手元の書類を指先で弾きながら、冷徹かつ完璧なプレゼンテーションを開始する。

「西部の広大な遺跡群に、長年封印されていた『腐界の粘菌魔帝・ディケイ・スライム』が目覚めまして。強烈な猛毒の粘菌と腐敗ガスを撒き散らし、周囲の建造物や自然を片っ端からドロドロの腐海に変えようとしております。さらにタチの悪いことに、その粘菌魔帝が生み出す『腐死の胞子獣ども(※触れるものを一瞬で腐らせる猛毒のカビ群)』が遺跡から溢れ出し、人々の街に雪崩れ込んでは、家の壁を溶かし、全てを絶望の腐敗に沈めようと暴れ回っているのです」

 アーキヴァルの言葉の裏にある「真実」を、大公レオハルトと元・大賢者ゾルタンは顔面を蒼白にしながら補完していた。

(腐界の粘菌魔帝だと……!? あれは世界のあらゆる物質を腐敗させ、星を生命が存在できない永遠の猛毒の沼へと変貌させる神話級の腐敗魔。それが覚醒したとなれば、西部諸国はおろか、世界の全生命が壁もろともドロドロに溶かされて死に絶える。本来なら全国家の浄化魔導士と聖騎士団を総動員して命がけの超極大防腐・隔離結界を張るべき、世界終焉レベルの絶望事態だぞ……!)

 しかし、アーキヴァルは一切表情を変えず、アルド向けに完璧に翻訳カスタマイズされた依頼書を読み上げる。

「近隣の国々からの要望は、この鬱陶しい壁にこびりついたガンコなカビやコケ(胞子獣群)の『徹底的な高圧洗浄(粉砕と浄化)』と『腐食の原因であるカビの親玉(粘菌魔帝)の削り落とし』、そして『防水・防カビ塗料による外壁塗装の改善』です。このまま放置すれば、家の壁がボロボロになって雨水が染み込み、隙間風や害虫が入ってきて人々が安全に生活できなくなってしまいます。我が社の社会貢献活動として、これほど迅速な対応が求められる案件はないかと」

「なるほど!」

 アルドは、依頼書を見て真剣な表情でポンッと手を叩いた。

「長年の雨風で外壁の塗装が剥がれちゃって、そこにガンコなカビやコケがびっしり生えちゃってるんだね! おまけに壁のヒビから雨水が染み込んで、家自体が腐り始めてるなんて、建物の寿命が縮むし大問題だ。綺麗で丈夫なお家を守るためにも、外壁の洗浄と再塗装は定期的にやらないと。よーし、さっそく僕たちの『総合ライフサポート』の出番だ!」

 アルドが立ち上がると、役職を得たクランメンバーたちも、一斉に気合い(殺意)に満ちた表情で立ち上がった。

「社長。壁にへばりつく鬱陶しいカビの塊(胞子獣ども)の解体と撤去は、この『出張解体アシスタント』にお任せを。腐った塗装を一つ残さず綺麗に削り落として、ただのチリ以下の仕事にしてご覧に入れましょう」

 レイヴンが、神具の斧をスクレーパー(皮すき)のように構えながら不敵に笑う。

「ええ。カビが撒き散らすガンコな悪臭や胞子(※致死の腐敗瘴気と猛毒)は、『特殊クリーニング部門』の私が、特製の高圧洗浄機(※極大の聖水浄化魔法)で一瞬にして洗い流し、無害化して差し上げますわ」

 エルミナが、美しく銀髪を揺らしながら自信満々に頷く。

「……作業中、古い塗料の破片や汚水(※魔獣の残党)が周囲の家へ飛散しないよう、『総合防犯システム責任者』として、現場の周囲に完璧な足場と飛散防止用養生シート(※絶対封殺の空間隔離結界)を張り巡らせておきます」

 シノンが、音もなく短剣を弄びながら冷たく宣言する。

「うんうん、みんな本当に頼もしいな! 外壁塗装は塗料が飛び散るから、窓枠のマスキングと足場の養生シートは絶対必要だし、しっかり下地処理をしてくれると助かるよ!」

 アルドは、メンバーたちの頼もしい言葉に満足げに頷き、自身の作業着(猛毒と腐食液を完全に弾く特製防汚ツナギと防毒マスク、安全帯)に着替え、手には巨大な塗装用ローラーと、真新しい防カビ塗料の入った一斗缶を握りしめた。

「よーし! それじゃあ僕は、特製『事象隠蔽の神仙ローラー』と『絶対防腐のミラクルペイント』を持っていくよ! 世界の人たちの綺麗なお家を守るために、邪魔なカビを落として、外壁をピカピカに塗り直してこよう!」

 こうして、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の社員一同は、高所塗装作業仕様(足場資材満載)に改造された魔導軽トラに乗り込み、大地がドス黒い腐海に覆われつつある大陸西部の『死の腐海遺跡』へと向けて出勤したのである。

 ***

 その頃、大陸西部の『死の腐海遺跡』の中心。

 世界の建築物と自然をドロドロに溶かし、全ての生命を腐敗の海に沈める大地の悪夢『腐界の粘菌魔帝・ディケイ・スライム』が、巨大な粘菌の体を蠢かせながら、傲慢な溶解音を響かせていた。

「ジュルルルル……! 素晴らしいぞ! この星の脆い物質を全て腐らせる我が猛毒の粘菌さえあれば、地上の生命など一瞬で溶け落ちて泥に還る! 見よ、我がもたらすこの圧倒的な死の腐海を!」

 粘菌魔帝は、巨大な触手を振り回し、無数の腐死の胞子獣たちを遺跡の外へと放った。

「愚かな地上の生命どもめ。我が目覚めたからには、もはやこの星に堅牢な壁などないと知れ! さあ、もっとだ! 全てを腐食させ、大陸全土を永遠のドロドロの沼に変えよ!」

「我ら腐魔の眷属の溶解力は絶対だ! この腐敗と猛毒の領域まで踏み込める者など、この世界にはもはや存在し――」

 ――キキィィィィッ!! バタンッ!

 粘菌魔帝が勝利の宣言を口にしようとしたその瞬間、猛烈な腐敗ガスが立ち込める遺跡のど真ん中に、四つの車輪がついた奇妙な小型の鉄箱(魔導軽トラ)が、神話級の猛毒瘴気と溶解液をものともせずにドリフト着陸する音が響き渡った。

 そして、軽トラのドアが「ガラッ」と無遠慮に開け放たれ、ローラーと一斗缶を持った青年の明るい声が、溶解のノイズを完全に打ち破ったのである。

「ちわーっす! 総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』です! 近隣の国の方々からご依頼いただいた外壁の高圧洗浄と再塗装に伺いましたー! ……うわぁ、こりゃひどい塗装の剥がれっぷりと、壁にこびりついたタチの悪い黒カビ(胞子獣)だね! こりゃ徹底的に塗り直しがいがあるや!」

 アルドは、防毒マスクのフィルターを確認しながら、プロの塗装職人としてのダメ出しを開始した。

「ナ、何奴ッ!? 我ガ絶対腐敗ノ領域ニ、地上ノ虫ケラガ何ノ用ダ!」

 粘菌魔帝が驚愕の粘液を飛ばす中、アルドの後ろから、レイヴン、エルミナ、シノン、そしてアーキヴァルが、それぞれの「清掃用具(兵器)」を手にして、圧倒的な威圧感を放ちながら腐海へと降り立ったのである。

「さあ、社長。まずはこの鬱陶しい壁にへばりつくカビの塊(胞子獣の群れ)どもから、綺麗に『下地処理ケレン』して差し上げましょう」

 レイヴンが神具の斧を構え、凶悪な笑みを浮かべる。

 総合ライフサポート企業の次なる社会貢献(能動的な悪の粉砕)が、死の遺跡で今まさに始まろうとしていた。

「ナ、ナンダ貴様ラハ!? 我ガ絶望ノ粘菌軍団ヲ『外壁のカビ』ダト!? 舐メルナ地上ノウジ虫ドモッ! 我ガ胞子獣デ、貴様ラノ血肉ヲ永遠ニ溶カシ尽クシテクレルワ!」

 粘菌魔帝の怒号と共に、遺跡を覆うほどのドス黒い腐食液と胞子を纏った魔獣群が、一斉にアルドたちに向かって致死の猛毒を放ちながら襲い掛かった。

「うわっ、このカビ、すっごくジメジメしてて嫌な臭いがする! 放置してたら家の柱まで腐っちゃって危ないぞ!」

 アルドは、迫り来る魔獣の群れを「長年の湿気で異常繁殖したタチの悪い外壁のカビとコケの塊」と完全に誤認し、塗装用ローラーの柄を強く握りしめた。

「社長、ここは我々『社員』にお任せを。汚水や塗料が外に漏れないよう、まずは私が足場と飛散防止用養生シートを張ります」

 シノンが音もなく跳躍し、遺跡の周囲を囲むように、無数の札(神仙の空間隔離結界符)を空中に投げ放った。

 ――ピィィィィンッ!

 瞬間、遺跡全体をドーム状に覆うように、透明で絶対的な強度を誇る『神仙の外壁塗装用養生結界』が展開された。これで、致死の腐敗瘴気や塗料の飛沫は一滴たりとも外の大地へ漏れ出すことはない。

「完璧な養生ですわ、シノンさん。では、私はカビが撒き散らすガンコな悪臭や腐食液(致死の猛毒瘴気)を、特殊クリーニングで綺麗に高圧洗浄して無害化いたしますわ!」

 エルミナが白銀の杖を天に掲げると、大宇宙の理を内包した『極大聖水浄化魔法』が、超強力な高圧洗浄機の水流のように周囲の狂気のカビを包み込んだ。

「ギィヤアアアアッ!?」

 万物を溶かす猛毒の胞子は、その浄化の光と水圧を浴びた瞬間、身に纏っていた魔力ごと完全に無力化され、ただの無害で綺麗な水飛沫へと変わっていく。

「フンッ! 魔力を抜かれたただの黒カビなど、ただのスクレーパーのマトだ! そして、邪魔な古い塗膜は私が綺麗に削り落としてやろう!」

 レイヴンが神具の斧を大上段に構え、無害化した魔獣の群れに向かって旋風のごとく突っ込む。

「外壁下地削剥斬ィィィッ!!」

 放たれた一撃は、魔獣の粘体ボディの「結合の隙間」を完璧に見切り、まるで壁にこびりついた古いペンキを皮すきでガリガリと削り落とすかのように、シャリィィィン!と見事な手際で綺麗に粉砕し、ただの無害なチリにしてしまった。

「ナ、何ィィィッ!? 我ガ無敵ノ胞子獣ガ、タダノ『高圧洗浄』ト『ペンキ剥がし』ノ前ニ、一瞬デただのチリニサレテイクゥゥッ!?」

 粘菌魔帝は、自らの絶望の眷属がものの数分で「ただのゴミ」に変わり、腐敗の臭いが消え去った光景に、驚愕のあまり巨大な粘液の体を激しく波打たせた。

「よし、みんなのおかげでガンコなカビと古い塗装は綺麗に剥がれ落ちたね! あとは、あの一番デカくて腐食液を出してる『カビの親玉(粘菌魔帝)』に、新しい防カビ塗料をローラーでたっぷり塗り込むだけだ!」

 アルドは、特製『事象隠蔽の神仙ローラー』を一斗缶に浸し、粘菌魔帝の巨大な本体へと向けて突撃した。

 ――当然ながら、その素材は常軌を逸している。塗料は星の創世の光を液化した絶対防腐ペイントであり、大宇宙のいかなる腐敗や神話級の猛毒すらも、物理的に『上から塗りつぶす』だけで完璧に無害化し、強固な皮膜で覆い尽くす『究極の塗装ツール』である。

「オノレェェェッ! 舐メルナ人間! 我ガ本気、世界ヲ腐泥ニ変エル『終焉ノ絶対溶解アビス・メルトダウン』デ、貴様ラゴト奈落ノ底ニ溶カシ尽クシテクレルワ!」

 粘菌魔帝が残された魔力を暴走させ、周囲の空間ごと全てを溶かす超巨大な猛毒の波を放ってきた。

「うわっ! 壁の奥から、すっごくガンコなドロドロの汚れが溢れ出してきた! でも、この特製ミラクルペイントの前には、どんなに酷い汚れも一発でピカピカだ!」

 アルドが粘菌魔帝の巨大な本体に向けてローラーを押し当て、容赦なくコロコロコロッ!と限界まで綺麗に塗りつぶしていった。

「バ、バカナァァァッ!? 我ガ最大奥義ノ超絶溶解波ガ、タダノ外壁塗料デ塗リツブサレタダトォォォッ!?」

「よし、ガンコなカビと汚れは真っ白なペンキで綺麗に覆い隠せたぞ! 最後に、この『事象固定のフッ素コーティング』を仕上げに塗って……あ、そうだ。このカビの親玉、綺麗に塗装して形を整えたら、凄く大きくて美しい彫刻みたいになってるね。ちょっと周囲の遺跡と調和するようにデザインすれば、世界中の空気を綺麗にしてくれる『超巨大な全自動・神仙アートモニュメント(超広域環境シールド)』にできそうだよ!」

 アルドが粘菌魔帝の本体に仕上げのコーティング(事象を完璧に保護する光の膜)を施し、事象調律の刷毛で美しい模様を描き入れて巨大な芸術作品へとリメイクすると、大宇宙の法則が完全にひれ伏した。

 暴走していた粘菌魔帝の禍々しい腐敗と猛毒の魔力は、瞬く間に漂白・調律されていく。

『ア……ァァ……。我ノ、世界ヲ腐海ニ沈メルハズノ力ガ、マルデ都合ノイイ【空気中ノ毒素ヲ吸収シテ浄化スル為ノ超高性能フィルター】ノヨウニ……!? イヤ、ペンキヲ塗ラレル度ニ、我ガ巨体ガ、異常ナマデニ心地ヨイ【絶対的ナ防腐力ト、極上ノ美観ヲ提供スル超大型アートモニュメント】ニ変換サレテイクゥゥゥッ! 私ノ存在ガ、世界ヲ絶望ニ沈メルノデハナク、コウシテ大陸ニ永遠ノ清浄ナル環境ト美シイ景観ヲ提供スル「極上ノ全自動・神仙シールド」トシテ機能スルコトガ、コレホドマデニ満タサレルコトダッタトハ……!』

 かつて世界を脅かした腐敗の化身は、アルドの「外壁塗装とコーティング作業」によって完全に浄化され、書き換えられた。

 万物を溶かす猛毒の粘菌魔帝は、気がつけば「死の腐海を美しく輝く巨大なモニュメント広場に変え、世界中のどんな汚染物質も一瞬で無害化し、強固な防護壁として24時間機能し続ける、超高性能な『永久・神仙全自動環境シールド(見た目は巨大で純白に輝く美しい彫刻壁)』」へと姿を変えていたのである。

「よしよし! 嫌なカビと腐食の被害は片付いて、すっごく綺麗で丈夫な外壁になったぞ! おまけに、これがあれば世界中の人たちが毒や汚れを気にせずに、安全な空気の中で暮らせるね。これで大陸の人たちも、毎日綺麗なお家で、安心して生活できるよ!」

 アルドがローラーを片付けて額の汗を拭うと、遺跡を覆っていたドス黒い腐敗ガスは一瞬にして晴れ渡り、眼下には美しく純白に輝く奇跡のアートモニュメントと、澄み切った空気が広がっていた。

 ***

 数日後。大陸西部を統べる諸国の王室や建築・環境ギルド本部。

 各国の王たちは、腐敗問題と猛毒が完全に解消され、前代未聞の超巨大な環境シールドが誕生したという報告書を見て震え上がっていた。

「ば、馬鹿な……。我が世界を腐敗の海に沈めるはずだった腐界の粘菌魔帝が、たった数時間で『完全な外壁塗装』をされ、あまつさえ粘菌魔帝が『超巨大な環境保護・外装インフラ』に転職して、国中の建築物の保護と空気を完璧に独占しているだと……!?」

 そこへ、冷徹な執事服に身を包んだアーキヴァルが、うやうやしく一礼して現れた。

「お初にお目にかかります、各国の代表諸君。総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の最高財務責任者、アーキヴァルでございます。この度は、我が社の『CSR活動(外装メンテナンスと環境保護インフラ整備業務)』をご利用いただき、誠にありがとうございます」

 アーキヴァルは、分厚いバインダーから【完全なる環境修復・外装シールド施設開発代金およびコンサルタント料の請求書】を取り出し、王たちの目の前にドンッと突きつけた。

「我が社の社長(アルド様)の理念により、今回は社会貢献として基本の塗装料金はサービスさせていただいております。……が、粘菌魔帝の完全浄化、環境の再構築、そして『大陸全土に極上の美観と安全を供給する巨大モニュメントの永続的な運用費』は、正当なビジネスとして請求させていただきます。お支払いは、各国の年間建築・環境収益の九割と、外装・シールドネットワークの独占プロデュース権で手を打ちましょう」

 アーキヴァルの冷たい宣告(合法的な超・搾取)と共に、王たちは完全に心をへし折られ、震える手で莫大な報酬の永続支払いにサインをするしかなかった。

 ***

 日だまり郷の黄金の城塞。

 静寂に包まれた書斎のデスクで、元・大賢者ゾルタンは、羽ペンをインク壺に浸し、新たな社史のページに文字を刻み込んでいた。

『〇月×日。大陸西部の死の腐海遺跡における外壁塗装、およびコーティング作業完了。世界を腐敗に沈める腐界の粘菌魔帝ディケイ・スライム(神話の厄災)を事象のローラーと防カビ塗料で塗りつぶし、立派な特大アートモニュメント(環境シールド)へと改修。猛毒汚染と建築物の腐食の修復を完了し、大陸全土の建築保護と環境浄化に多大な貢献を果たした。

 ……また、我が社のCFOの尽力により、世界各国からは莫大な賠償金と、外装保護・環境シールドインフラの独占管理権を合法的に譲り受けることに成功。これで我が社は、地下水脈、気象、海上物流、クリーンエネルギー、次元基盤、自然環境、気候、時間、信仰、光、水回り、大気、交通・物流、情報・娯楽、資源循環、通信網、医療・甘味、睡眠・無意識、清浄なる排気環境、生命の息吹(農業)、世界の視界と景観、食の鮮度(低温物流)、住環境と天候からの防壁、生命の癒やし(温泉)、世界の気候と空調管理、上下水道網、世界の資源循環とリサイクル、世界の光と電力(照明)、大地の基礎と地下交通(免震)に続き、ついに「建築物の外装保護と環境浄化」の覇権すらも完全に掌握したことになる。

 社長の「社会貢献」という名の大掃除は、もはや世界のあらゆる概念すらも呑み込み、世界は究極の平穏(我が社による完全支配)へと向かっている。大賢者たるワシの知能をもってしても、神話の猛毒スライムすらアートモニュメントに変える(物理的にローラーで白く塗りつぶした)この恐るべき企業の快進撃を止める術は、大宇宙のどこにも存在しない。』

 ゾルタンが深い溜息と共にペンを置くと、ドアの向こうから「今日のおやつは、朝の天丼のタレをちょっと使った、甘辛くて香ばしい特製みたらし団子だよー!」というアルドの無邪気な声が聞こえてきた。

 ゾルタンは「神々の絶望を記録した直後の団子は、ことのほかタレの甘じょっぱさが身に染みよう」とぼやきながらも、頬を緩ませて立ち上がった。

 最強の便利屋の「ただの外壁塗装」は、世界腐食の危機をただの外装メンテナンスとして解決し、粘菌魔帝の脅威を完全に終わらせただけでなく、世界に最高の環境シールド・建築保護インフラを誕生させてしまった。

 企業として躍進するクラン『黄昏の守護者』は、これより正式に外装保護と環境浄化の覇権をも握り、いかなる邪悪も日常のペンキ塗り業務として葬り去る、究極の平穏なる企業伝説をまた一つ、分厚い社史のページに深く刻み込んだのであった。

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