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リオ編

 リオは今日で17歳になった。


のそのそベッドを出ながら携帯端末を確認すると、同級生や友人たちからちらほらと祝いの言葉が送られていた。

無意識に口角が上がってしまう。


自室を出て階段を降りた所で鉢合わせた母さんにも「おめでとう」とハグを頂いた。


17歳になったからといって何か特別な事があるわけではない。


去年にも大人たちにそう言うと、まだまだ喜んではしゃいでいい年頃だろうに。と言われた。


14の頃から同年代達から離れ、父さんの漁業を手伝うようになって「すっかり気分までジジイになってるぞ。」と周囲からは言われた。


なんだか、最近、自分の表情が動いていないのでは、という疑惑が浮かんでいる。

なんせ、やたらと気分を聞かれたり、笑うと驚かれたりする。


鏡を見てなるほどと思わないこともないが、そもそも漁港のおじさんらに囲まれて生活しているから似てくるのも仕方がないだろうとも思う。


それはそれとして、

祝われるのは嬉しくはある。何もない日が祝われた日くらいにはなるからだと思う。

少し踵が浮いたまま顔を洗った。


今年の抱負とか、これからどうするのかを聞いてくる母さんをあしらいながら朝食を食べ、身支度をする。

どうするも何も父さんの船に乗っているだろうと思っていたが、

「彼女の一人でも連れてこい」と遠回しに言われた事に気づいたのは家を出る直前だった。


気に入りのゴーグルをかけて外に出ると空が緑色になっていた。


昨日までは赤だった。


どういう理屈かはよくわからないが、空の色は空の気分次第らしい。


10年くらい前に友人から言われるまでは、空の色が変わる事なんて当たり前と思っていたし、今もそれは変わらない。

「空の気分次第」と言っていた友人は今も学校に通って天体観測を続けている。


日付が変わる頃にかかってきた電話では、おめでとうと一緒に観測ロケットがどうのこうのと熱心に話をされた。


曰く、

百年以上前に宇宙に飛び立った望遠観測機が人類生存圏のはるか嘴側に新しく文明の痕跡を観測した。

とか興奮気味に言われた。


「それは船で行けんのか?」と聞いたところ

「話聞いてたか?」と怒り気味に返された。


祝いの電話じゃなかったのかよと熱心な説明にうんうん、へーと思っていたが、

緑色の空を見ると祖父のことを思い出してしまう。


リオが5歳の頃、尾翼側に気球で飛んで行ったトンチキなじいさんだ。


両親が働いている間なんかに、いつもじいさんの隣をついて回っていた。


ある日突然「ちょっと冒険に行ってくる」と言い出してその7日後には緑色の空に飛んで行った。

大陸の嘴方向から吹き続ける風に乗って、気球に乗って、尾翼方向に、


「ききゅうでかぜでいくんでしょ?どーやってかえりはどうすんの?かえりたくてもまたかぜでむこうにいくの?」

と聞くと


「そりゃあ、ハイパーハタラキ号だって帆をはりゃあ風上に行くだろ?帰る時になったらききゅー改造してウルトラハタラキ号にして帰ってくんのよ!」

と言っていた。


当時はリオも一緒に行く気満々で、家中を走り回って準備をした。

気に入りのゴーグルもその時にじいさんが買ってくれたものだった。


じいさん一人で行くと言われてからは大層拗ねて、いつまでたっても帰ってこない事に、時々泣いたりもした。


後から聞くと祖父は大病を患っていたらしい。父さんも母さんも止めたけど聞かなかったとも、止めづらかったとも言っていた。


世間でも少し騒がれたらしくて、新聞なんかにも載ったらしい。無謀な挑戦とか時代錯誤な自殺だとか。


今でこそ、そうだろうとも思うけれど、人に言われると結構むかついた。


10数年経った今もちょっとだけウルトラハタラキ号を待っている。


爺さんはどこかにたどり着けただろうか。


ウルトラハタラキ号 ウルトラハタラキゴウ


まだ冷たさの残る道を港まで歩くと、ハイパーハタラキ号 の上で、網を解いていた父が目だけをリオに向け「来たか」と言った。


リオも「おはよう」とだけ言い船尾の動力室に潜り込んで点検を始めた。

動力のチェックをしていると甲板から意外な言葉が降ってきた。


「今日は出なくてもいいんだぞ」


リオは少し動きを止めた後、また作業に戻った。


「なんでさ」

「いや、お前今日誕生日だろ。うん、おめでとう」


「うん、ありがとう、今日は出ないの?緑だから?」


手袋を外しながら甲板に出てみると父さんは微妙な顔をしながら頬を掻いていた。


「緑だからってお前、あー、いやまぁ……。」


「まぁって?」


「まぁ…、リオ、母さんから聞かなかったか?」


言われて思い返してみるが特に思い当たることはない。

昨夜遅くまで起きてたせいか、家を出るまでは結構寝ぼけていて、聞いてなかったのかもしれない。


「いや、わからない」

思い出せないものは仕方がないので素直に言ってみる。

父は説明してくれた。


「金入れといたから誕生日くらい、街に行ったり友達と遊んで来たらどうだって、言っとけって言ったんだがなあ。

毎回、付き合わなくていいんだぞ。母さんだって色々心配するし、まだ17、17になったのか、だろ?街に行ってナンパでもしてこい。」


言われて段々と思い出してきた、良い人捕まえてこいとかのついでに言われた気が、してきた。

ふむむとなる。


「俺が言うのもなんだけどお前モテるだろ、学校でもモテてたんじゃないのか?顔も悪くねえし、今は筋肉もついてるしな。こういうの女は好きだぞ〜。父さんもこれで昔は結構遊んでたしな」


リオは自分ではさほどモテるとは思っていなかった。

学生の頃も、同級生の子たちは年上がどうとか言ってる子が多かった気がする。


たまに港にくるねえさんたちやばあちゃん達からは可愛がられているけど、あれはモテるとは違う気もする。


「金も誕生日祝いの金だし今日は多めに入れたから、気にしなくていいんだぞ、たまにはパーっと行ってこい。あとお前、給料の方は全然手えつけてないだろ?」


言われてさらに思い出すのは父の手伝いをし始めてもらい出した給金だ。

働き始めたとはいえ実家にいる関係で増えていく一方の口座の数字を思い出す。


「これで連れてったら父さん怒られる気がしてきたな、ほれ、降りろ降りろ」


ぶつぶつと文句を言い始めた父さんに背中を軽く押されながら陸に上がる。


「わぁかったからあぶないから」


リオの少し拗ねた様子に気がついたのか父さんももう一押ししながら言ってくる。


「大丈夫だ、ちゃあんと戻ってくる、父さんが何年海の男やってると思ってんだ」


少し何の話かわからなかったが一瞬遅れて思い当たった。


「もう17だからそんな子供じゃあないよ」


「いーや、まだまだよ。ほらさっさと帰れ」


父さんが思い出しているのが、爺さんのことか、泣いていたガキの自分かはわからなかった。


どちらもかもしれない。


それから少しだけ出航の手伝いをして、途中通りかかる知り合いのおじさん達とおめでとうありがとうをしながら父を見送った。


早朝ということもあって人の少ない港町を尾翼の方に歩きながら、どうしようかと考える。


たまに友人と遊ぶことはあるけれど急に予定が空いてしまって、今日はすることがない。


手持ち無沙汰に家に帰ると、母さんが寝室に戻るところだった。


「おかえり、帰ったんだ。」


「ただいま、街にでも行って来いって」


「父さんは出ちゃったの?というかあんた朝寝ぼけて聞いてなかったね。」


図星を突かれて今度はぐぬぬとなる


「点検だけ手伝ってきたんだよ。まあたまには買い物でも行ってくる。」


母さんは呆れたような目線を向けてから「私は寝るからおやすみ」とそのまま寝室に入って行った。


普段の習慣からか地面が暖かい頃には眠くならない。

せっかくだからという気分も湧いてきて、仕事着から着替えて汚れを落とした。


携帯端末で所持金を確認しながら街までの列車に乗り込む、身支度に時間がかかったとはいえまだまだ早朝だからか人は少なかった。


列車に乗るのはいつぶりだろうか。


車内の壁に向かい合って設置された座席に座って反対側の窓の外を眺めると、海と山や畑が流れていく。

嘴の先端から街に向かう列車だから人が少ないのも当然ではある。


街に近づくにつれて人が増えていく。

皆、仕事か、学校か、用事があって乗ってるんだろうなとぼんやり思う。


鳥の形をした大陸の嘴からこの辺りで一番活気のある頭の辺りまで、せっかくだからという気分で、少し遠出しすぎたかもしれない。


列車から出る人波に乗って街に出ていく。

「リオー?」


どこにいこうか考えていると、学生服の女の子が声をかけてきた。


「リオ・ハタラキよね?」


近寄ってきた女の子の顔を眺めてみるけどいまいち誰だか思い出せない。


「マキだよ!学校の同級生の!わかる?」


同じ学校ということは地元も近くて、同級生ということは年も同じなんだろう。

名前も聞いたことがある気がするけれど、まだ思い当たらない。リオの視線は上を向いてしまう。


「あーあ、覚えてないんだー、席も隣だったことあるのになー」


その後もつらつらと文句を言う様子を見ながら段々と思い出してきた。マキ・カリタだった気がする。


「マキ・カリタであってる?」


「お、正解!いや遅いよ!」


彼女が何かにつけて文句を言ってる様子は、今も変わってないみたいだ。


「船乗ってんでしょー、仕事忙しーの?今日はなんかようじー?」


マキの矢継ぎ早な質問に少したじろいでしまう。


「うん、いや、なにしようかなって」


煮え切らない返事にマキは面白がりながらも不思議がってる様子だった。


「なにそれ、あたしはがっこー」


「見りゃわかるよ」


「そりゃそうか!」


リオがなにするでもなく、土地勘がないことを話してみると、胸を張ったマキは「じゃあちょっとだけ案内してあげよう!」と買って出てくれた。


「ねえー聞いたー?ジオがまたはしゃいでんのよ」


服を買うならあっちでー、映画を見るならあっちでー、ご飯を食べるならーと周りの建物を指差す彼女から出た話題は、比較的、記憶に新しい昨日の電話の相手の話だった。


「あれだろ?観測ロケットがなんとかって」


「そー!なーんか男連中はあいつと一緒になって宇宙にとんでくとか塩にのりだすとか言ってるよ!あいかわらずみんなげんきだよ!」


何かと思えば友人の近況を教えてくれたらしい。同じ学校なのか。


「仲良い奴はたまに遊んでるから知ってるよ。」


「あ、そーなんだ、でもなんかリオ落ち着いてる感じするからイメージ湧かないね。」


マキがリオの前に歩いて行って上から下まで目を向けてくる。


「なんか、ムキムキじゃない?やっぱ海の男だね!」


リオは港にくるばあちゃんみたいなこと言うな、とは思ったが口には出さないことにした。

隣に戻ってきたマキがまた口を開く。


「あ!もしかして今日誕生日!?おめでとう!?」


「よく知ってるね、ありがとう。」


「おめでとー!じゃあー今日はもしかしてデート?」


なんで誕生日だったらデートなのかはわからないけれどとりあえず否定しておく。


「いや違うけど」

「ふーん、へー、そーぉ」


二人で「ふーん」と言いながら歩いていると、いつのまにか周りは学生服を着た同年代だらけになっていた。


広い敷地の前で足は止まって、


「ここががっこー、多分ジオとかも来るけどいっしょ行く?」


部外者が入っても迷惑だろうと思い、「いやだめだろ」と断る。


「そ、じゃあまたね!たまにはあたしにも連絡頂戴ね!」


そう言って、先程連絡先を交換した携帯を振って小走りで門の中に入って行った。


少し眺めて、来た道を戻り始める。不審者だと思われるかもしれないと離れる足が少し早くなった。

風を背中に歩いてきたから駅から尾翼側に来たんだと思う。


なんとなく

すすめられた映画館に行こうと思い、駅にほど近いところまで戻る。


歩きながら建物を見ていると緑色が目に入ってくる。


映画館に辿り着く頃には普段とは違う疲れを感じていた。


たまに母に付き合ってくることもある映画館だが今まで一人で来ることはなかった。


映画館の外にあるポスターを眺める。


恋愛、ホラー、ミステリー、アクション、冒険、SF、ファンタジー、


いまいちピンと来るものはやはりない。というより、一度座りたい気持ちに駆られて映画館に入っていく。


映画館に併設された、開店したばかりの喫茶店を見つけ、窓辺の席で取ってきた映画のパンフレットを眺める。


注文した飲み物が届いた頃、映画の見出しの紹介写真が目に止まる。


そこには、気球に乗った男女の写真があった。気球から地上を見ている写真、ゴーグルをつけた短い口髭の男がニヒルな笑みを浮かべている写真。


気球も俳優も記憶にあるものとは程遠い外見をしていたが、祖父を思い出すには十分だった。


祖父はガハハと笑う人だったし、写真の俳優ほど若くはないが、なんとなく嬉しくなる。


説明文には、気球に乗って人類生存圏を飛び出し、海と塩の向こうにある伝説の楽園を目指す冒険譚のあらすじが書いてあった。


なんともファンタジーだとも思ったがそもそも祖父がしたことはそういうことだ。

もしかしたら、題材の一つになっているのかもしれない。


この映画を見ようと携帯端末で調べてみると公開日が4日後になっていた。


出鼻をくじかれてついまた空を見てしまう。


写真の気球か、思い出の中の気球が緑色に浮かんでいるような気がした。


今日はよく思い出す日だなと思いながら、窓の外を歩く人を眺める。


仕事着の大人、おしゃれをした人や学生服の同年代たち。


リオはふと自分の格好が頭をよぎった。

さほど、普段から気にしていない自分の服装だから周りから浮いている気がしてならない。


体を少し捻りながら自分の動きやすい服を確かめてしまう。

店内にちらほらといる人たちともなんとなく違いを感じる格好だった。


今日は服を見に行ってみようか、と考えたけど自分一人で行っても同じような服を買うだけだ。


明日はどうしようか、父さんの手伝いに戻るつもりではいるけれど、いっそ、海の向こうを見に行ってみようか。


思いついた考えに口角が上がってしまう。

首に下げたゴーグルを弄びながら、思考が巡る


塩に乗るとまでは言わないけれど、何も嘴より向こうがないわけではないから、たまに遊びにくる島の人たちの方にでも行ってみようか


結局、喫茶店から出ると嘴の方に歩いてしまう。


せっかくなのに、せっかくだから、と色々な考えが頭を巡る。


すっかり暖かくなった地面を踏みながら歩く。



 風上に行くのなら、やっぱり、


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