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配下からの信頼が重すぎる  作者: きなこもち
第4章

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「連邦は知らぬまま…」

 


 聖冠連邦アルディウスの朝は、鐘の音で始まる。


 王城のように高い場所からではない。

 白い尖塔を持つ大聖堂の、もっと広く、もっと深く届く鐘だ。


 都に住む者たちはその音で起き、祈り、働き、食べ、また祈る。

 信仰が生活の骨組みになっている国では、音一つにも意味がある。


 だからこそ、聖都の空気が少しずつ重くなっていく時も、人は最初に“音”でそれを知る。


 鐘は同じ。

 祈りも同じ。

 だが、その間に流れる沈黙だけが、前より少し長くなる。


 最近の聖都がまさにそうだった。


 北方禁域。

 黒翼の終王。

 補助宮。

 そして、まだ輪郭を持ちきらぬ新しい異変の気配。


 連邦は白霜外界という名まではまだ掴んでいない。

 だが、“北で何かがさらに進んでいる”ことだけは、すでに誰もが感じ始めていた。


 信仰の国では、意味のない不安は長く続かない。

 人は不安に名を与えたがる。

 それが神の試練なのか、悪しき兆しなのか、異端の働きなのか。

 そうやって意味を置くことで、自分の中の揺らぎを整えようとする。


 けれど黒翼庭に関しては、その“意味”がうまく置けない。


 神敵と呼ぶには、あまりにも理がある。

 王と呼ぶには、人の外にありすぎる。

 災厄と呼ぶには、破壊だけを望んでいるようには見えない。


 その半端さが、信仰国家である連邦にはひどく相性が悪かった。

 白と黒で割り切れぬものほど、教義国家の内側では深く軋む。


 ---


 リュミエラは、朝の祈りのあともしばらく聖堂に残っていた。


 高い天井。

 白い石柱。

 色硝子越しの淡い光。

 香は薄く、空気は冷たい。


 大聖堂はいつも静かだ。

 だがその静けさは、無音ではない。

 誰かの祈りの気配が、床や壁に染み込んで、声にならないざわめきになっている。


 聖女としてここへ立つ時、リュミエラはいつも少しだけ背筋が伸びる。

 民衆が見る“聖女”の自分と、ただ一人の人間としての自分。

 その両方を、この場所では少しだけ強く意識するからだ。


 聖堂の白は、どこまでも清潔だった。

 磨かれた床石も、祭壇を囲む布も、朝の光を受けてほのかに色づく色硝子も、すべてが“正しい秩序”の側にあるように見える。


 だからこそ最近、その白さの中に立っていると、北で見た黒が余計に思い出される。


 黒翼の終王。

 雪と霧の向こうに立っていた、静かで、重く、そして“ただ壊すこと”へ興味がなさそうだった王。

 恐ろしかった。

 今思い返しても、あの場の空気の重みは胸の奥に残っている。


 だが同時に、ただの神敵と呼ぶには違いすぎた。


 神敵と聞いて思い浮かぶのは、もっと分かりやすいものだ。

 神への反逆。

 穢れ。

 秩序を壊すもの。

 だがあの王は違った。

 壊すというより、線を引いていた。

 越えたものと、まだ越えていないものを見ていた。


 今朝は、その記憶の上にもう一つ別の感覚が混じっていた。


 落ち着かない。


 理由ははっきりしない。

 不安に近いが、怯えとは少し違う。

 嫌な予感、と言うのが一番近いかもしれない。


「リュミエラ様」


 背後から声がして、彼女は振り返った。


 従者の若い修道女が、遠慮がちに頭を下げる。


「本日の午後、異端審問局からの使者が」


「また、ですか」


 つい言葉が先に出た。


 修道女は困ったように少しだけ笑う。


「はい」


 最近、その“また”が増えている。


 北方禁域の件以来、聖都の中では二つの流れがはっきりしてきていた。


 一つは、黒翼の終王を神敵として早急に整理したい流れ。

 もう一つは、そう呼ぶには何かが噛み合わないと感じている流れ。


 リュミエラは後者だった。

 理由は、理屈だけではない。


 あの時、直接会ってしまったからだ。


 黒翼の終王クロウ・レイヴンハート。

 静かで、重く、そして奇妙なくらい“ただ壊すこと”へ興味がなさそうだった王。


 恐ろしくないわけではない。

 むしろ、あまりにも恐ろしい。

 だが、その恐ろしさは“神敵”という言葉だけに収まる種類ではなかった。


「後で向かいます」


 リュミエラはそう答えた。


 修道女が一礼して去る。


 再び一人になると、聖堂の空気がまた静かに戻ってきた。

 誰かが遠くで祈りの終わりに膝をつく音が、小さく石床を打つ。


 リュミエラはゆっくりと息を吐き、祭壇の前へ視線を向ける。


「…何が起きているんでしょうね」


 小さく呟く。


 問いかけた相手は神かもしれないし、自分自身かもしれない。


 最近の北は、いつも“もう一歩先で何かが起きそう”な気配を帯びている。

 だが、その何かの形がうまく掴めない。


 戦だと言われれば、そうとも限らない。

 災厄だと言われれば、それだけでも足りない。

 神敵だと言われても、どこか引っかかる。


 なのに、確かに重くなっている。


 その時だった。


 胸の奥に、ほんの一瞬だけ奇妙な感覚が走る。


 音ではない。

 声でもない。

 だが、遠くで何かが“まだ眠っているのに、近い”ような違和感。


 リュミエラは息を止めた。


 今のは何だ。


 祈りの中で拾う啓示に似ている。

 だが、もっと曖昧で、もっと不確かだ。

 何かを見たわけではない。

 何かを聞いたわけでもない。


 ただ、“遠くのはずのものが、遠くない”とだけ感じた。


 それは位置の感覚ではなかった。

 距離ではなく、意味の近さ。

 まだ形になっていない何かが、もう自分たちの物語の外側ではなくなっている――そんな感触だけが、胸の奥を一度だけ撫でて消えた。


「…え?」


 聖女らしくない、ひどく素朴な声が漏れる。


 そして次の瞬間には、その感覚はもう消えていた。


 残ったのは、胸の中の小さなざわつきだけ。


 リュミエラは胸元へ手を当てた。


 鼓動は速くない。

 呼吸も乱れていない。

 なのに、何かだけが残っている。


 まだ起きていない。

 でも、遠くない。


 そういう、訳の分からない感覚だった。


 ---


 同じ頃、連邦の騎士訓練場では、アシュレイが木剣を打ち止めたところだった。


 乾いた音が止み、朝の空気が戻る。

 相手役の若い聖騎士は汗だくで膝をつき、アシュレイは軽く息を整えながら木剣を肩へ担いだ。


「ありがとうございました…!」


「ああ。よく踏ん張った」


 そう言って木剣を返す。


 彼は勇者として名を知られている。

 だが、本人にとってはまだ“役目の方が大きい”という感覚の方が強い。

 英雄扱いされることには多少慣れた。

 それでも、あまり好きにはなれない。


 特に最近は、黒翼庭の件がある。


 訓練場には朝の冷たい空気と、木剣の削れた匂いと、若い騎士たちの汗の熱が混ざっていた。

 本来なら、そういう分かりやすい現実の中にいた方が気は楽だ。

 剣筋は正しいか、間合いは適切か、足は死んでいないか。

 そういうことだけを考えていればいい。


 だが最近は、訓練の合間にも黒翼庭のことが頭へ割り込んでくる。


 黒翼の終王。

 黒翼庭。

 連邦の中では今もなお、“討つべき神敵”と“そう断じきれぬ王”の二つの像がせめぎ合っている。


 アシュレイは、はっきり後者だった。


 いや、敵でないと言うつもりはない。

 危険でないとも思わない。

 だが、だからといって“はい神敵、討伐”で済ませてしまうのは違う。


 実際に見たものが、その言葉を拒むのだ。


 黒翼庭の王は、ただ強いだけではなかった。

 ただ恐ろしいだけでもなかった。

 何が越境で、何がまだ越境でないか。

 そこを見ていた。

 ああいう目をした相手を“とにかく斬れば済む”に落とすのは、剣の側からしても雑すぎる。


「閣下」


 訓練場の外から声がして、アシュレイは振り返った。


 副官が近づいてくる。


「聖女様がお呼びです」


「今?」


「はい。少し、お急ぎのようで」


 珍しいな、と思う。


 リュミエラは必要以上に人を急がせることが少ない。

 彼女自身が落ち着いているからだろう。

 それが“少し急ぎ”となると、たいてい何か引っかかることが起きている。


「分かった」


 アシュレイは木剣を返し、外套を羽織る。


 訓練場から聖堂側の回廊へ向かう途中、彼はなんとなく空を見上げた。

 白い雲が薄く流れている。

 聖都の空は穏やかだ。


 なのに最近、北の方角だけが妙に重い。


 戦場の前の重さとは違う。

 もっと、“まだ何かが姿を決めていない時の重さ”だ。


(また名前だけ先に置くと、間違える気がするんだよな)


 心の中でそう思う。


 神敵。

 災厄。

 終王。

 どれも一面では正しいのだろう。

 けれど、そのどれか一つに固定した瞬間、大事なものを見落とす感じが拭えない。


 それが、今の黒翼庭を考える時の一番嫌なところだった。


 ---


 リュミエラの私室で顔を合わせた時、アシュレイはすぐに彼女の様子の違いに気づいた。


「どうした」


 単刀直入に問う。


 リュミエラは椅子へ座っていたが、普段より少しだけ指先が落ち着かない。

 乱れているほどではない。

 ただ、いつもなら迷わず揃える仕草が、今は一拍だけ遅れる。


「変なことを言うかもしれません」


「最近の黒翼庭の件は、だいたい最初から変だろ」


 アシュレイがそう返すと、リュミエラはほんの少しだけ笑った。

 その笑みがあるなら、まだ大丈夫だ。


「今朝、祈りのあとで」


「うん」


「一瞬だけ、妙な感じがしたんです」


「妙な?」


「ええ。何かが“まだ眠っているのに遠くない”ような」


 アシュレイは黙った。


 分からない。

 だが、軽く流していい話ではないとも直感する。


 リュミエラは、自分の感覚を安売りしない。

 何となく不吉、という程度で人を呼ぶような性格でもない。

 その彼女が“言葉にしづらいけれど無視できない”と言うなら、それは少なくとも彼女の中で相当引っかかっているのだ。


「神託みたいなものか」


「そこまで明確ではありません」


 リュミエラは首を横へ振った。


「見えたわけでも、聞こえたわけでもないんです。だからこそ、自分でも言葉にしづらいんですけれど…」


「でも、無視できない」


「はい」


 そういうことだろう。


 アシュレイは腕を組み、少しだけ考えた。


 連邦はまだ、白霜外界も眠りの痕跡も知らない。

 だが北で何かがさらに進んでいる気配だけはある。

 そこへ聖女が“まだ眠っているのに遠くない”と感じたなら、それは何かしらの連なりを持つ可能性が高い。


 しかも、それはたぶん戦の気配とも少し違う。

 敵が軍を動かした時の圧ではない。

 もっと、意味そのものがこちらへ寄ってくる感じだ。


「異端審問局には」


「まだ言っていません」


「正解だな」


 アシュレイは即答した。


 グラウスにこの話をしたら、おそらく“神敵の影響圏拡大”と即断する。

 間違っているとは言い切れない。

 だが、間違っていないとも言い切れない。


 今の連邦に必要なのは、名前を一つ増やすことではない。

 もっと慎重な観察だ。


「でも」


 リュミエラは少しだけ視線を伏せた。


「隠し続けることも、正しいとは思えません」


「隠す必要はない」


 アシュレイは言う。


「ただ、話す順番を間違えるなってことだ」


 それは最近、彼自身が強く思うようになったことだった。


 何でもかんでも“まず神敵”と置くと、見えなくなるものがある。

 北の王は、まさにそういう相手だ。


 リュミエラはその言葉を聞いて、静かに頷いた。


「…はい」


「法王猊下には先に伝えるか」


「そうですね」


「グラウスはその後だ」


 アシュレイははっきり言った。


 順番が大事だ。

 誰に何をどう渡すかで、その後の意味が変わる。


 連邦はとにかく“意味”を先に大きくしすぎる。

 それが強みでもあるが、今の黒翼庭に関しては弱みにもなる。


 ---


 その日の午後、聖都の一角にある異端審問局では、まったく別の空気が流れていた。


 グラウスは机の上の報告書を、二度続けて読み返していた。


 帝国経由の断片。

 商盟経由の薄い噂。

 魔導王国が北方禁域周辺の古地誌を大量に買い集めているという情報。

 そして、北の境界で何かがさらに動いているらしいという、まだ形を持たない不穏。


「…進んでいるな」


 小さく呟く。


 彼の部屋は整然としていた。

 紙の束は積み上がっているが、乱雑ではない。

 異端審問局の長らしく、必要なものだけが必要な位置に置かれている。

 壁際には教義書と裁定記録。

 窓から入る光は細く、部屋の隅まで明るくはしない。


 グラウスの目には確信があった。


 黒翼庭は、目覚めたあともただ守りに入っているのではない。

 何か次の段階へ手を伸ばしている。


 問題は、それが何なのか、連邦がまだ掴みきれていないことだった。


「審問長」


 部下が声をかける。


「聖女様の方からも、北方に関する報告が入る見込みとのことです」


「内容は」


「まだです。ただ、急ぎだと」


 グラウスは目を細めた。


 聖女。

 リュミエラ。

 民衆人気が高く、本物の善性を持つ少女。


 それ自体は良い。

 だが黒翼庭の件に関して、彼女は危ういとグラウスは感じていた。

 善性があるからこそ、あの終王の“理のある恐ろしさ”に迷いを持ちやすい。


 そしてその迷いは、連邦にとって命取りになりかねない。


「通せ」


 短く言う。


 部下が去る。


 グラウスは机へ指を置きながら考える。


 北の王は、厄介だ。

 なぜなら無差別ではないからだ。

 ただの怪物なら、討てばいい。

 ただの災厄なら、封じればいい。


 だがあの王は違う。


 選ぶ。

 裁く。

 そして“まだ全部を敵と見ていない”ような余地を残す。


 そこが最も危険だ。


 人は、完全な怪物より、理を持つ怪物に惑わされる。

 理を持つように見える神敵に、最も揺れる。


 それは教義の側から見れば、むしろ“より高位の異端”だった。

 穢れが露骨なら拒絶しやすい。

 だが理を持つ穢れは、人の中へ入り込む。

 善良な者ほど、“もしかすると”と思ってしまう。


 その“もしかすると”を許してはいけない。

 グラウスはそう考えている。

 だから彼は、黒翼の終王を恐れているというより、黒翼の終王によって連邦の側に生まれる迷いを恐れていた。


「大きくなるぞ」


 今度はもう少しはっきり言った。


「この件は」


 北方禁域だけでは終わらない。

 連邦の中でも、判断を迫る時が来る。

 その時、自分は迷わない。

 少なくとも、そうでなければならない。


 ---


 一方、法王庁の奥では、ユリオス十三世がリュミエラとアシュレイから話を聞いていた。


 法王は年老いている。

 だが、老いているから鈍いということはない。

 むしろ逆で、急いで言葉を置かない分だけ、人の話を最後まで聞く。


 法王の執務室は、聖堂ほど白くはない。

 木と石の落ち着いた色合いの中に、必要な聖具と古い書がある。

 整ってはいるが飾りすぎてもいない。

 権威を見せるためというより、長い時間の中で自然にそうなった部屋という印象だった。


「まだ眠っているのに、遠くない」


 リュミエラの言葉を繰り返し、ユリオス十三世は目を閉じた。


「はい」


 リュミエラは小さく頷く。


「明確な神託ではありません。ですが、見過ごすべき感覚でもないと思いました」


「そうでしょうな」


 法王はゆっくりと言う。


 アシュレイはその横顔を見て、少しだけ安堵した。

 この人の前なら、少なくとも言葉だけが先走ることはない。


「北方禁域の王に関する件は」


 ユリオス十三世が静かに続ける。


「一度でも直接見た者ほど、簡単な語で片づけられなくなる」


 リュミエラもアシュレイも黙っていた。


 その通りだったからだ。


「それは危うくもある」


「ですが、危ういからといって急いで名を置けば、さらに見誤ることもあります」


 法王の言葉は、穏やかだ。

 だが、穏やかなままで連邦の危うさをよく捉えている。


 今、連邦の中には焦りがある。

 神敵と断じたい焦り。

 断じきれないこと自体を不安視する焦り。

 そのどちらも、教義国家としては自然だ。

 だが自然だからこそ、勢いに飲まれやすい。


「猊下」


 アシュレイが口を開いた。


「北で、何か次の段階が始まっている可能性があります」


「そうでしょうな」


「ですが、まだ形が見えません」


「形が見える時は、だいたい手遅れです」


 法王は静かに言った。


 それは恐ろしい言葉だったが、否定できない真実でもある。


 形になる前に、匂いだけで動かねばならない。

 だが匂いだけで動きすぎると、今度は自分たちが先に崩れる。

 そこが難しい。


「今はまだ」


 ユリオス十三世はゆっくりと目を開ける。


「見よ。ただし、見たい形へ先に押し込めるな」


 それが法王としての判断だった。


 グラウスなら、そこにもっと強い言葉を置くだろう。

 だが今の連邦には、この緩さが必要なのかもしれない。


 リュミエラは胸へ手を当てた。


「はい」


 アシュレイも頷く。


 その場ではそれで終わった。

 だが終わっていないことは、三人とも分かっている。


 ---


 夜、リュミエラは自室の窓辺に立っていた。


 聖都の灯りは白い。

 遠くまで整っていて、美しい。

 だからこそ、その外側にある北の闇が、余計に深く見える。


 昼間の法王の言葉は、少しだけ彼女を落ち着かせた。

 少なくとも、自分の違和感をすぐ“誤り”として押し込めなくてよいと分かったからだ。

 だが、違和感そのものは消えなかった。


 今朝感じた違和感は、まだ消えていなかった。


 まだ眠っているのに、遠くない。

 それは何なのか。


 黒翼の終王に連なる何かか。

 あるいは、まだ別のものか。


 分からない。

 けれど、たぶんこれもまた“名前を置く前に見なければならないもの”なのだろう。


「…遠くないのに、眠っている」


 ひとりごとのように口にする。


 そして、ほんの少しだけ寒気を覚えた。


 もしそれが本当に北のどこかにあるなら。

 もしそれが、黒翼の終王の先へ繋がる何かなら。


 まだ終わらない。

 むしろ、これからもっと大きくなる。


 聖女としては、それを怖いと思う。

 一人の人間としては、できれば穏やかであってほしいとも願う。

 けれど、もう穏やかなだけでは済まないのだろう。


 窓の外の空は、静かに曇っていた。


 その曇りの向こう、ずっと北のどこかで、まだ姿を持たない何かが少しずつ近づいている。

 そんな気がしてならなかった。


 そして連邦はまだ、それに対して祈るべきか、警戒すべきか、名前を付けるべきかすら決めきれていない。


 それが今の連邦の正直な姿だった。



最後までお読みいただき、ありがとうございました!!

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