言葉の温度とあなたの声
妖たちは人々が寝静まった夜に生きる、人ならざる存在だ。人と関わり、交わった者も数多くいる中で、妖の性質を強く継いだ人間が生まれることもあった。
そうして妖と人間は関わり合い、時には対立もしていた。
そんな中、陰陽師や退魔士と呼ばれた人間たちが少なからずいた。妖たちとより関係を持ったのは、彼らだろう。
それはただ妖が視えるというだけでなく、自身も妖の血を引いているという場合もあった。
「俺は、古の陰陽師の血を濃く継いだ鬼だ」
星の散らばる夜空を見上げ、御空はそうぽつりと呟いた。
鬼の精鋭部隊が去り、空は夜になってようやく雲が消えていた。
背中合わせに座っているリオには、御空の表情までは見えない。
独り言のように、御空はリオに返答は求めずに続けた。
「安倍 晴明という陰陽師は、母親が妖狐であったという説があると聞く。どこまでが真実かは知らぬが……」
御空はその逆、人の力を持つ妖なのだ。
本来人だけが使うことができるはずの退魔の力を、御空は幼い頃から誰に習うでもなく扱えた。
妖でありながら退魔の力を使う御空は、同族の鬼たちの目にどう映ったか。問うまでもないその答えは『異質』である。
疎まれ、忌み嫌われた――その中には、わずかな恐れもあったかもしれない――御空の面倒を見た鬼が、たった一人だけいた。
「その人は……深緋殿の慕っていた、彼の叔父上だった」
御空の記憶の中に、家族と呼べる人はその人しかいない。生みの親は御空を捨てたか、あるいは早くに亡くなったか、御空はそれを知らない。
とにかくその鬼もまた、変わり者と呼ばれていた。だから御空に親近感を覚えたのだと、かつて彼は語った。
和装や古風な口調もまた、彼から教わったり、移ったりしたものらしい。
御空を連れ、彼は人里からも鬼の集落からも遠く離れた山奥へと移り住んだ。
「深緋殿はそれを、自分より俺が選ばれた末の決断だったのだと、俺に言ってきた」
けしてそういうわけではなかった。彼は同族だというだけの子供――御空と同じかそれ以上に、自分の甥も大切に想っていた。
ただ結果的にまわりにそう見えた上、彼ら二人をこれで厄介払いできると他の鬼たちは踏んだのだろう。
元より戦闘の才能があった深緋にそう吹き込むことで、御空への敵対心を植え付けた。
「俺のせいだ。俺さえいなければよかったというだけの話だ」
「御空は何も悪くないよ! 何もしてないのに……」
「存在するだけで、害となるものもあるのだ、リオ」
あたりまえのことのように、何の感情もない声音で御空はそう言う。
「でも、でも……っ!」
「……リオは俺に、少しだけ似ておったな」
その言葉に、リオは口をつぐんだ。
二人とも、歪んだ家族に哀しさを感じていた。ただ違ったのは、リオはまだやり直せたことだった。
しかしそれは全て、御空のおかげなのだ。御空が支えていてくれたから、リオはリエに向き合うことができたのだから。
ぱんっと音がした。
リオが御空の頬を平手打ちしたのだ。
「だったら、勝手なこと言わないで! わたしも姉さんも、他にも御空に助けられた人がいるんだから! 御空が自分のこと悪く言ったら、わたしたちは何だったの? だから……っ」
叩いたのはリオの方なのに、泣き出しそうなのもまた、リオだった。
「俺は……良いのだろうか? ここにいても」
「あたりまえでしょ! いなくなったら、許さない」
夜風が優しく吹く闇に、リオのガーネットの瞳が煌めいた。




