舞散る桜が乱れる刻に
空の色が、黒を濃くした。闇がより力を持ち、光を押しのける。
リオの後ろには御空が立っていて、その右手はバチバチと音を鳴らす電気を帯びていた。それが先程深緋の大太刀を弾き飛ばしたのだった。
「……目覚めたか」
舌打ちをし、深緋はリオたちから大きく距離をとる。同時に隠し持っていたらしい短めの日本刀――脇差を手にした。
「リオ……」
「御空遅すぎ! ほら、バトンタッチ」
リオを見て、何か言いたげな御空が一歩近づいてくる。わかっていたことだ。リオは御空を責めようとは思っていない。
だからただ、ぱしんと手を叩き合う。
「うむ、まかせろ」
互いにぼろぼろのリオと御空は、それでも目を合わせると力強くうなずいた。交わす視線には、いつのまにか確かな信頼が存在していた。
「極力傷つけたくはないのだが……貴殿はかなりの強さだからな。手加減をして敗れるのがこちらとなるのは、重々承知だ」
「お前の……その余裕ぶった態度が気にくわん。半端者のくせに、何様だ。私自身の手で、お前を倒してやる。手加減など、こちらから断る!」
御空も刃桜で出した日本刀で深緋に応戦する。
何度も刀が交差し、高い金属音が辺りに響いた。ぶつかり合い、火花を散らす。
「消えろ、半端者!」
「少し前の俺ならば、それを受け入れただろう。しかし、リオを傷つけた貴殿には、俺とて思うところはある」
と、御空が後方へ下がり体勢を整えた。その身体がまとう雰囲気が変化するのが、離れた場所で見ているだけのリオにも感じられた。
まるで、リオが変化するときの空気のようだ。
金の瞳が輝きを増している。そして御空の側頭部には角が現れていた。深緋たちほどの大きさではないが、それはまぎれもなく鬼の角だった。
「桜花春乱!」
強い風に桜の花が乱れ、舞う。辺りは一面、儚いはずの花の薄紅色に支配される。見えない風を形にし、桜はより激しく荒れ狂った。
そんな中、唯一消えない金色は、御空の瞳だけだ。あまりの嵐に、リオでさえ気を抜けば身体が持っていかれそうなのだが、金だけは揺らぎもせずにそこに在った。
桜と共に風が去ったとき、残っていたのはリオと御空の二人だけだった。




