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現実より、異世界生活⁉︎  作者: ちゃぐ
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2-11:原因はもう一人の私

 人格、すなわち個人の性格や人間性を指す。世界に自分と見た目が全く同じ人物が見つからない様に人格も二つとして同じものはないオリジナルだ。

 ほとんどの人間は体内に一つの人格を持ち、様々な体験から生涯生きている間、形を変え続けるだろう。だが、ごく稀に人格を二分化や多分化する者がいる。全くの違う人物が一つの体に二人、もしくは数人存在すると言うことになる。


——私がその例だ。


 片方が起きれば、もう片方は眠る。スイッチの様にオンオフが切り替わり、私の中に住むもう一人の人物とは顔を合わせることは無い。


 いつもは主人格の私が意識という名の手綱たづなを握り、行動を起こしている。

 だが、ふとした瞬間に奴は姿を現わす。横から私の握る手綱を強引に捥ぎ取ってしまうのだ。気づいた時にはもう遅く、切り離された意識はもう一人の副人格の奴が握り、操り始める。

 手綱を手放した主人格の私は霧の様にどこかへと消え、完全に人格が入れ替わるのだ。



——半日前——


 眩い光が視界を支配する。気付けば、騎士団長のガウェインが目と鼻の先に立っている。

 頰に強烈な痛みを感じ、ジンジンと脈打つのがわかる。

 団長の渾身の張り手が強制的に副人格が握る手綱をはたき落とし、その一瞬の隙を突いて、主人格である私が再び握ったのだ。私は再び離すまいと手綱を力強く握り直す。


 意識を取り戻すと瞬時に何が起こったのか理解した。


 意識を奴に奪われ、暴走し、拓真をボロボロになるまで攻撃を加えたこと。何より、手など一切抜いていない攻撃を彼に向けていた事。そして、この様な出来事が初めてではなく、幾度と体験している事。


 高揚した時、興奮した時、怒りを抑えられなくなる時、そんな時に奴は見えない後方から手を伸ばしてくる。体内に一つしかない手綱を手中に収める為に。


 拓真が倒れている。私が危害を加えた。正確に言えば、私の中のもう一人が、だ。手に持つ剣がそれを示すように血が地面に滴っている……はずが、今回は地面に一滴足らず血の痕跡は見当たらない。奴が意識を乗っ取った後は大概、レイピアか短剣に血糊のようにべたりと付いているのだが、どうやら今回はそうなる前に団長が止めに入ってくれたのだろう。


 自分が一体何をしたのか、どれほどの事をしでかしたのか、奇しくもこの場に居る私以外の者は知っているのだろう。自分が危害を加えた、その答えを知ってもそれに至る過程がすっぽりと抜け落ち、全くの別人に自分の体を操られるということに恐れを感じずにはいられなかった。


 前頭葉に痛みが走る。記憶の欠如が脳にダメージでも加えているのだろうか。

 団長にこの醜態の詫びを入れ、痛む頭を手で抑えながら倒れ込んでいる拓真の元へと近づいた。


「ごめんなさい……こんな事になって……」


 短い一言、二言を残し、その場を立ち去る事にした。私の中に居る違う人物が貴方を攻撃した、なんて伝えても、意味がわからないだろうから……。


 しとしとと降る雨が額を流れ落ち、目に入るのも気にせず、ガウェインの居る方向へと戻る。


「——入団の件での私の意見は取り下げます。彼は立派な騎士になりますよ。きっと……」


 ガウェインに自分の考えを変えた事を伝え終えると、私は高く大きい鉄製の門を抜け、城壁の外へと歩んでいく。


 団長に言った言葉は本心だ。彼は騎士団に入れば間違いなく剣の腕を段々に上達させていくだろうから。私が副人格と入れ替わってしまった理由も、彼との手合わせが楽しくなっていったのがきっかけだ。初心者とは思えない彼の身のこなしが私の心を躍らせた。

 そして、己のした事を考え直すためにもこの場に残るわけにもいかなかった。こんないつ、先ほどのように暴走するかもわからない、見張りなどという任務すら真っ当に遂行できない者がこの城に居る理由なんてない。何より、被害者である拓真の居心地がよくないだろうから……。


 その日はその足で街にある自宅へと戻った。


 気づくと自分が借りている部屋の鍵を鍵穴に挿している所だった。

 全身はびしょ濡れ、髪先から雫が落ちる。

 ノブを回し、扉を引いた。

 1ヶ月以上も部屋を留守にしていた為、中は湿気と埃っぽさが充満していた。

 部屋に入ると湿気を取り除くことは出来ないだろうが埃っぽさを無くすために足早に部屋の奥に位置するアーチ状に取り付けられた窓に向かう。

 雨が降っているのも関係なく、内側と外側、どちらにも開ける窓を内側へと全開にした。

 その後、濡れて冷えた体を癒すべく、浴室で熱々のシャワーを浴びた。


 動きやすい衣服に着替えると考えごとをするのも疲れ、そのままベッドに入り、目を閉じるとすぐに眠りについた。


 夜中、開けっ放しにしていた窓から冷たい夜風が部屋を巡り、毛布で首元までしっかりと覆っているヒルデの頰を少しぬるくなった風が撫でる。

 そのせいで一度、目を覚まし、開いた窓の方を見るが眠気の方が勝り、首元までだった毛布の位置を顔を覆ってしまうほどに引き上げ、再び眠った。


 朝。昨日は早くに寝床に入った為、自然と目を覚ましたにも関わらず太陽はまだ微かに見える程度に辺りは暗い時間。


 両手に乗る程度の丸い時計に目を凝らすと針はまだ早朝の5時を指していた。

 もう一度寝ようにも半日ほど眠った頭で、これ以上は寝れそうにない。

 仕方なく、本棚にあった適当な本を手に取り読み始めた。ぼんやりとした頭は文字の羅列を一文字一文字消化していくうちにはっきりとしていった。

 時折、思考が本の内容とは離れ、昨日の出来事へと飛ぶことがあった。

 城に戻った方がいいか? いや、戻っても迷惑を掛けてしまうだけ……少し時間を置いた方がいいか……。


 しかし、団長には一言掛けておいた方がいいだろう。一度、城に戻り、伝えてすぐに戻ってくる。


「……先に用事は済ましてしまおう」


 行くなら目立たない、人の出入りが少ない朝か夜が適当だろう。それにちょうど今は早朝だ。

 パタリと開いていた本を閉じると元あった場所に滑り込ませる。


「防具はいいか……」


 簡単な白いシャツの上に灰色でフード付きの上着、黒いズボンに着替えを済ませ、念のための短剣を持って外に出た。


 太陽は地面を照らし、すっかり辺りは明るくなっていた。

 ヒルデは太陽の光を防ぐかの様にフードを目深に被り、細い道を歩き始めた。


 やがて、入り組んだ路地を通り抜け、大通りへと出る。


「ぐ、ぎゅるる〜」


 気づけば、昨日の昼から何も食べていない。帰ってきてすぐに寝たヒルデは現在進行形で水分すら口にしていなかった。


 ポケットに手を突っ込むと数枚の硬貨の感触が指先に伝わり、城に行く前に少し朝食を食べて行くことにした。

 大通りへ出てすぐ近くに建つ、たまに行く店に立ち寄る事を決め、看板が出ている事を確認する。

『やってます』その白く書かれた文字を視界に入れ、入店しようと店に近づくと同じく店にやってきた客と肩をぶつけてしまった。

それが拓真とマリー。偶然の鉢合わせだった。


ーー現在ーー


「で、なんで居なくなったの?」


 ただただ理由がわからない、不思議だと言うようにマリーは首を傾げている。


 運ばれる3人分のコップに入った水に3人の視線が一時的に向けられ、私は視線を下に落とした。拓真とマリーがこちらを向いているのかさえわからないほどに。


「まぁまぁ、言いたくなければ無理に話さなくてもいいんじゃない。それより、何か頼もう。せっかく店に入ったんだし」


 拓真の姿はもちろん今の私には見えないが、おそらく金髪の王女様に言っているのだろう。彼の言った後半部分には私も同意見だった。こんな状況にも関わらず、私の胃袋は今にも悲鳴をあげそうだった。


「拓真は気にならないの?」

「もちろん、気になるけど……話は食べながらでもできるだろ」

「まあ、確かにそうね。すみません!」


 王女様は厨房にいるスタッフをテーブルに呼び寄せ、注文を始めた。


「これとこれ、あとこれも。ほかに二人は食べたいのある?」

「じゃあ、僕はコーヒーをお願いします」

「ヒルデはいいの? 拓真が奢ってくれるらしいから、好きなの頼んだほうがいいわよ」

「おい! 奢るからってたくさん頼んでいいって事じゃないから。必要なものだけにしてくれよ。まあ、でもヒルデも好きなの頼んでいいから……」


 彼はそう言って、おそらく硬貨入れだろう布袋を開けて中身を数え始めている。

 彼の口から小さく「うん、大丈夫」と呟くのが聞こえた。


「では、お言葉に甘えて、コーヒーとこのパンをお願いします」


 いつもなら断るのだが、なんだか今日はそれが面倒で、ありがたく頂くことにした。それより、早く食べたいという思いが強かったのかもしれない。


「以上でよろしいですか?」


 注文を聞いていたスタッフが最終確認をして、「大丈夫です」と拓真が言うと厨房に戻っていった。


 私はテーブルに並ぶコップを一つ手に取り、水を口に含んで喉へと流した。


「……怪我の方は大丈夫ですか?」


 あの後すぐにその場を立ち去った私に彼の怪我の具合を知る由もない。具合が気になったのと一緒に謝らなければ、そう思ったのだが、後から出てくるはずだった謝罪の言葉は喉の途中で押し止まった。なぜか、それは本人である私にもわからなかったが、許してもらえなければどうしよう、そう心の中で自分でも気づかないうちに思っていたのかもしれない。


「ああ、大丈夫だよ。痛みも引いたし、寝たらすぐに良くなった」


 その言葉から察するに昨日は痛みがあったということだ。

 現在、怪我を負っているにも関わらず、外目にはいたって元気そうに見える。しかし、反対に彼の明るげな表情を見るとつい先に出なかった言葉、申し訳ない気持ちが口をついて出た。


「その……申し訳……ありませんでした」


 椅子に座った状態で頭を下げた。もう少しで額がテーブルについてしまうところだ。


「えっ! ちょ、ちょっと顔上げてよ。な、なんでヒルデが謝るのさ、ははは」


 なぜか、理由はわからないが慌てふためき、最後には下手な笑いを浮かべる拓真の姿が目の前にはあった。一体、私が謝らないで誰が謝ると言うのだろうか。


「なんでヒルデが謝ってるの? 拓真が怪我した時、その場に居たの? もしかして、理由知ってるとか?」


 一方で拓真は私との間に何があったのかを王女様には話していないのか、何も知らない彼女は私のしたことを知ったらどんな顔をするのだろうか。軽蔑かそれとも激怒か、どちらにしろいい結果に転ぶことは見込めない。


「ちょっとマリー、そんなに詰め寄る様にして聞いたら答えられるものも答えられないだろ。それに……」


 拓真がまだ口を開け、話を続けているのを承知で割り込んだ。


「ええ、居ました。それに理由も知っています。彼に怪我を負わせたのは私です」


 空気が凍りつく音が聞こえ、時が止まっているのかと一瞬錯覚した。しかし、止まっているのは私たちの座る、大きな木のテーブルの周りの空間だけで、耳には他の客たちから発せられる雑音が滑り込んできていた。


 拓真は開けていた口を閉じられないでいる。マリーはまだなんの料理も運ばれていないテーブルに頬杖をついたまま硬直していた。


「お待たせしました。コーヒーと————で以上になります。ごゆっくり」


 誰一人、料理を運んできたスタッフに反応することなく、テーブルに料理が並んでいくのをただただ眺めていた。

 スタッフは別にその事に不思議がることなく、自分の仕事を済ませるとすぐに戻っていった。その彼の内心まではわからないが、変な客だと思われている可能性は大いにあるだろう。そう思うに足りる光景だったはずだ。リアクションを取らない方が難しいかもしれない。


 私と拓真の前には熱々のコーヒーが、王女様の前には色の濃いオレンジジュースが置かれている。テーブルの中央にはこれから私たちの朝食になるはずの物が並んでいる。


 私はカップに注がれたコーヒーから昇る湯気を呑気に目で追っていた。

お読み頂き、ありがとうございました。

ほんと物語のスピードが遅すぎてテンポが悪い! 書いてて、わかってはいるんですがあれやこれ詰め込んでいるとこんな結果になってしまう……まとめられるのか不安です(汗)

綺麗にまとめられるようになりたい(求)

まあ、私の事はこれぐらいにして、今回はヒルデの視点でしたが、次回からは拓真に戻る予定です。

ここしばらくの間は不定期更新になってしまうかもしれませんが宜しくお願いします!

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