1–10:明るい人、暗い人
「今更だけど、クルス置いてきちゃったわね……」
確かにそうだ。でも、外で待っているはずのクルスの姿は見えなかった。
しかし、色々あって、クルスの存在を完全に忘れていた。
「本当だ。どこに行ったんだろう。さっきのとこにはいなかったよね…」
「まあ、でも、いなかったから仕方ないんじゃない。それに、今更戻るのもあれだし、行きましょう」
置いてきていいのかな〜?でも、仕方ないよな、そう自分に言い聞かせる事にした。
(ごめんなさい、クルスさん…)
一階のパーティー会場に着くと、数時間前、この城に入ってきた時の広々とした広間にたくさんのテーブル、イスが並べられ、様々なところが飾り付けられており、ガラッと変わっていた。
この広間には沢山の人が行き交っている。そのほとんどがここで働いている従者や下僕だろうか。パーティの準備に追われ、忙しなく動いていた。
「みんな忙しそうだね。手伝った方がいいかな。僕も下僕としてここで働く訳だし…」
国王には明日からとは言われたが、どうせなら早い方がいいだろう。
しかし、それはマリーによって、呆気なく反対された。
「馬鹿じゃないの。何もわかっていない状態のあんたが手伝いに行ったところで邪魔になるだけ、ましてやこの忙しい時なのに……考えたらわかるでしょ」
なんだろう、マリーは僕にだけ言葉が強すぎる気がする。
「私もマリー様の意見に賛成です。邪魔になるだけですよ、拓真」
マリーだけでなく見張りのヒルデまでもが反対してきた。
僕はただ、忙しそうにしているのを見て、手伝った方がいいかと思って言っただけなのにここまで二人に反対されるとは思わなかった。
「ああ…うん…わかった。じっとしとくよ…」
流石に二人相手に反論できなかった。ましてや、二人の意見は確かに正しいと思ってしまったので、これ以上、何も言わないでおこう。
「そうね。それが一番いいと思うわ」
そうして、僕たちはパーティーが始まるまで、隅っこの方で雑談しながら待つことにした。
◇◆◇
「何してんのよ。もう始まってるわよ」
「ごめん、ごめん。ちょっとね……」
この会話の少し前に僕はトイレに行きたくなってしまい、マリーにどこにあるのか聞いて、トイレに向かうことにしたのだが、当然ヒルデも付いてくる。
無事にトイレまでたどり着く事ができた。流石にヒルデは中までは入ってこない。
中に入ると、そこで僕より年上であろう二人の若者に軽く話かけられたのだ。その二人は騎士の格好をしており、僕のことを知っているみたいだった。
「おい、お前。王女様が連れてきたっていう少年だろう。名は確か、拓真だっけ…」
「ああ…はい…そうです」
「やっぱりな、団長が言ってた奴だ。ほらな、リネス合ってただろ」
「・・・・・・・」
二人とも背丈が高く、百九十はあるのではないだろうか。話しかけてきた方は気さくな感じだが、もう一人のリネスという人は物静かで、どこか怖い。それに知り合いのこと無視してるし…。
「ここの事、何も知らないんだろう。気がついたら、巨大樹のところに居たって……」
気さくな感じの人が話しているのを遮るようにおとなしい方が言った。
「行くぞ…ヴァル…」
リネスという人は、小さく呟き、足早に歩いて行った。
「ちょっと待てよ、話聞きたかっただけだろ。悪いな、また今度会ったらその時はゆっくり話を聞かせてくれよな。じゃあ」
ヴァルという人もそう言い残し、前を歩く知人に追いつくため駆け足で行ってしまった。
会ったら話を聞かせてくれか、こちらに拒否権はあるのだろうか…いや、ああいうタイプからして無さそうな気がする。
嵐のようにあっという間に過ぎ去り、少しの間その場で、ぼーっとしていたが慌ててここに来た理由を思い出した。
(ああ、トイレに来たんだった。ささっと済ませて戻ろ。マリーに何を言われるか、わかったもんじゃない)
急いで用を済ませ、外にいたヒルデと広間に戻ったが、もう始まってしまったらしい。トイレで絡まれなければ、もっと早く戻ってこれたのに。
「ちょっとねって、もしかして迷ったの?」
「いや、騎士の格好した二人に話かけられてね」
「なんだ、そうなの」
彼女が納得か不満にしているのかわからない。どちらにも取れる感じだがもしかして、また、からかう気だったのか。どうも、マリーのことだからなのだろうか、はからずもそんなことを考えてしまう自分がいた。
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