〜最終章〜
ーーー
ー
「 椿、ミシェルとオリフィエルが帰って来るって。 貴女のお腹触りたいんだって 」
「 昨日も触ってたのにね? 過保護なおじちゃん達ねぇ 」
「 本当よね、煩くてごめんねぇ 」
いつからか” お母さん” と呼ぶようなった。 それは吸った息を吐くように本当に自然と。
お母さんは私のお腹に猫撫で声で声を掛けて、幸せそうに微笑んでいる。そんなこと言いながら、私もいつも気付けばこの子達に猫撫で声で話しかけている。
スミーは想像通りだったんだけど、驚いた事に、あのアドルフでさえ時折猫撫で声になるから面白い。
皆が見たことないほど過保護になって、屋敷の侍女達も、私が何かしようとするとマッハで飛んで来る。
「 椿、これを羽織って行きなさい 」
「 あったかーい! ありがとうお母さん 」
「 気を付けるのよ? 本当に気を付けるのよ? 」
「 分かってるって! ……ねぇ、ディアナが言ってたのって本当なのかな? 」
「 あぁ、お腹の子が男の子だって言ってたのよね? 」
「 そうそう、エルさんと本当かな~って言ってたんだけど。 ま、今日の検診で分かるしいっか 」
あっけらかんと言い放った私を見つめたお母さんと目が合って二人で微笑む。 そんな時、この屋敷の馬車の方から、急いで走ってくる特徴のある靴音が聞こえて来た。
「 あ、ラファエル! 」
「 ダメだ椿! 一人で階段を降りるな! 」
「 ……また始まった 」
虎並みのスピードで飛んできた夫は、階段を降りようとした私を大声で牽制して、急いで私の元まで駆け付けてその手を差し出してくれる。
そう、私はこの異常なまでの過保護に心底幸せを噛み締めている。
だって、こんな風に守られて幸せと思わない女なんて絶対居ないと思うから。
「 そうだ、一段ずつゆっくり…… 」
一歩ずつゆっくり降りて行く私の隣で、密着しながら手を添えてくれる大好きな夫。
大きくなったそのお腹で、私は階段が見えないけれど、全然怖くなんてない。 隣にこの人が居れば、何にも怖いものなんてない。
「 椿! 帰って来たら教えてね! みんな楽しみに待ってるから! お父さんも今日は急いで帰って来るわよ! 」
「 うん! お母さんじゃあ、行って来るね 」
ブンブンと手を振るお母さんに手を振りかえして、ここ迄来てくれた馬車に乗り込む。 案の定くっ付き回るラファエルにリードしてもらいながら。
いつも間にか椅子の部分にクッションが敷かれたこの馬車も、きっと夫の愛の証。
「 ねぇ、ラファエル? 」
「 どうした? 」
「 んふふ、あのねーー 」
ゆっくり進む馬車の中で、イタズラ顔で隣のラファエルに言葉を言いかけた時、ニヤリと唇で笑った夫は、私の唇に指を添えて、私の反応を伺うように妖艶になぞった。
思わず赤面する私にとてもご満悦そうで、何より。
そのままその指を顎の下に添えて、グイッと顔を持ち上げたラファエルは、そのまま私に甘ったるくて最高の深いキスをくれる。
顔を離したその時、頬に手を添え直した彼が極上の色気と甘やかした声で囁いた。
「 お前が言う前に先に私が言おう。 椿、心から愛してる 」
寄り添った二つの影から、涼やかな耳飾りの揺れる音がする。
『 グリーンアメジスト 』
この宝石の石言葉をど忘れしていた私がそれを思い出したのは最近。
照れ臭くて言えなかったけど、揺れるこの耳飾りの宝石が” 真実の愛”と言う石言葉を秘めていることを、帰りの馬車で彼に教えてあげよう。
そしていつか、子供達に教えてあげたい。
貴方達のお父さんは、この世で一番素晴らしい人だよって。
極上の愛を貴方達に贈ってくれるよって……ほら、だってお母さんを見て? こんなに幸せそうでしょう?って。
お母さんはお父さんにこの世に一つしか存在しない極上の愛を教えてもらったんだよって。
きっと、いつか。
そして大きくなったら、素敵な人と愛を育んでね。 愛を教えてもらって、愛を与えてあげてね。
そうね……でも、それまでは、お父さんとお母さんの愛を抱え切れないほど受け止めてね。
~ Fin ~
これにて本当に本当の完結です。
拙い文章でしたが、ここ迄お付き合い頂いた皆様、ブックマークをしてくださった皆様本当にありがとうございました!
読みにくい部分が多いかと思いますが、感謝でいっぱいです/ _ ;
もしかしたら、今度はあの人物語を書くかもしれません…もしかしたら、ですが。




