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第13章 お姫様の王子様

今日は国民の皆様が日頃の労働を労い、感謝し合う年に一度の感謝だ。


私も出来るだけ国民の皆様に近付きたく、祭には参加するようにしている。


他国では、貴族や王族と一般市民との間には身分という深く悲しい溝があるというが、アトラスはまったくとは言えないが、ほとんどない。


もともとはお父様がおつくりになった規定で、義務づけはしていなくとも、お父様のお気持ちを汲み取った国民の皆様が、協力して今のアトラス体制をつくりあげた。


お父様が亡き今、国民の束ねるのはお兄様のお役目で、私も最大限の助力をしている。


しかしながらミリーも18になり、そろそろ夫を迎えなくてはならなかった。


国王であるお兄様はお心に決めた方がいらっしゃるようで、婚約を断固拒否している。


そのせいあって婚約の話題は私に移るのですが、国王の助力をするという立場上、ここで婚約の話を進めなければ、お兄様にも迷惑がかかってしまう。


意を決していろいろな方とお見合いをしてみるのですが、他国の貴族は皆自分の権力に溺れ、色目だけで私を観察する。


それは、純情に生きてきたミリーにとって耐え難い拷問でもあった。


「はあ......」


「おっと、これは姫様じゃないかぁ。なんだい溜め息ついちゃって?何か悩み事かい?」


婚約のことを考えて思わず溜め息が出てしまい、それを心配したのか若い男性が声をかけてくる。


感謝祭だというのに、自らが盛り上げて行かなければならない立場だというのに......。


暗い気持ちを無理矢理押さえ込み、笑顔をつくる。


「大丈夫ですよ。ご心配おかけしてすみません」


すると何が可笑しかったのか、声をかけてくださった方がクックッと笑っている。


それも好意的ではなく、どこか不気味な。


よく見ると5人の男性に囲まれている。


背筋に冷や汗が流れる。嫌な予感は的中する。


「姫様~。俺たちと楽しいことしようぜ」


ニヤニヤしながら近づいてくる。


「い、イヤ!!」


まわりを見渡すが、ほかの男達に囲まれていてなにも見えない。


だ、誰か、助けて!!


「やめろよ」


え?


5人の声とは明らかに違う声がする。


少し高めで、とても強い意志を感じた。


「ああぁ?」


男達が不機嫌そうに歪むが、何故かすぐに恐怖の色に染まる。


「や、やべぇよ。あいつ大蛇殺しのリークじゃねぇか!!」


リーク?


あのファンベルトさんさえ破ったとされる魔法使いのことか。


何かと用事が重なり、顔を拝見する機会がないがお兄様からおもしろい男だと聞いていた。


!?


男達の合間から、リークたる青年がその姿を表す。


身長は高く、眉目秀麗な顔立ちをしている。


年もミリーとさほど変わらないだろう。


驚いたのは、リークの目に浮かぶ憎悪の強さだ。


今目があったが、自分に向けられてはいないとわかっていながらも、恐怖してしまった。


「心配しなくても魔法は使わないから、はやく姫様を放してやってよ」


ひょっとして私を助けてくれようとしているのか。


心の中に安堵が広がりかけたが、すぐに杞憂に終わった。


「こいつがわかるか?」


はっ!?


男が取り出したのは、爛々と輝くナイフでその鋭利そうな刃がキラリと光る。


「どうするつもりだ?」


リークの顔が怪訝そうに歪む。


「こうするんだよ!!」


きゃ!?


突如ナイフを持った男に肩を抱かれ、喉元にナイフを突き付けられる。


ミリーは、最早恐怖のため声が出なくなっていた。


リークの表情も何かを悟ったように暗くなり、両手を上げる。


「お前ら、やれ」


突然目の前でリークが暴行を受け始める。


なぜ反撃をしないのかとおもったが、それは自分がつかまっているせいだと知る。


絶え間なく暴力を受け、何度も吹っ飛ばされるが何度でも立ち上がる。


「キャー!!もうやめて!!」


悲鳴によって住人が集まってくるが、誰かにも止められない。


何故自分のためにそこまでするのか?


ただそれが問いたかった。


不意に喉元に激痛が走る。


自らが優勢だと思った男の手が力んだのだ。


悲鳴を上げそうになるが必死にこらえる。


リークも悲鳴一つ上げず、耐えているのだ。



リークが突然こちらを向く。


視線はそのまま喉に移り、その美しい目が殺気に満ちる。


「交渉決裂だ」


むくっと立ち上がり、襲いかかってくる4人の男達を右手だけで捌くと、ぼそりと何か呟く。


リークの体から紫色の閃光がほとばしり、男達を包む。


「な、なんだ?」


見れば、ナイフを持っていた男も地面に這いつくばっている。


リークをみれば、先ほどとは比べものにならないほど優しい表情になっていて、まわりからの拍手喝采に苦笑いをしている。


わたしの王子様......。


ふと自分でも何故かわからないがそんなことを考えてしまい、ぽうっと熱くなる。


「お礼がしたいのですが......」


本当はもっと話したかっただけなのだが、どうしても素直に言えず、なんとも変なお誘いをしてしまった。


リークは少々驚いたの表情を見せたが、やがてにこりと笑い、頷いてくれた。







リークの名前はアスラというそうだ。


呼ぶのは自分が初めてと言われ、自分でも子供だと思いながら心の中でガッツポーズしてしまった。


リーク改めアスラは僕は怖いかと問ってきた。


ミリーはあなたは特別ではない。故に怖いことはないと言った。





すでにミリーにとってアスラは特別な存在になっていたというのに。


わたしの知らないことをたくさんしっている。


わたしの王子様......。









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