第12章 お姫様?との出会い
現在アトラスの街は揺れる様に湧いていた。
色とりどりの花火が打ち上げられ、聞いたこともない異国の民謡が流れる。
屋台には人が集まり、恋人、友人、家族と思い思いに盛り上がっている。
そう、今日は年に一度の感謝祭だ。
何に感謝するのかは置いといて、王宮を中心にアトラス中から住人が集まっていた。
モテモテ騒動が一段落したので、リークも1人ぷらぷらと歩きまわっていた。
1人というのがたまに傷だが、アリアはほかの人と行くというし、何よりリークにとって初めてづくしの感謝祭は何よりの刺激になった。
驚いたのは、住人達が着ている服が浴衣に似ていたことだ。
みんな個々に着ているミニスカート丈のそれは、リークの目の保養にもなっていた。
しかし、最も驚くべきことはこれの比ではない。
無いのだ。差が。
現実世界では、特に歴史で習ったような身分の差がどこにも見当たらない。
本来他者との差を決定しているはずの境界線がない。
大金持ちも一般市民も皆同じ様な衣装を着て、踊り、歌い、騒いでいる。
何より国王まで一緒に談笑しているではないか。
この事実はリークにとってこの街の印象を更に良い方へと大きく傾かせた。
故に、このようなことも起こってしまうのは、少し悲しいことだった。
「姫様~俺たちと楽しいことしようぜ」
姫様という単語が聞こえ、思わず立ち止まってしまう。
同時に目の前で起こっている行為を見て大きく落胆した。
いるのだ。この世界にも。秩序を乱し、壊し、自己の欲求こそを第一に考える輩が。
リークはその考えに対して、賛成はしなかったが反対もしなかった。
感じかたは各個人によって違うだろうし、それは個人が決めることだ。
しかしながら、それを共有するのと押し付けるのは違う。
だからこそ、目の前で起こっている行為が許せなかった。
か弱き女性を複数人で取り囲み、脅す行為はリークの憎悪の気持ちをむくむくと大きくさせていった。
「やめろよ」
「ああぁ?」
いかにも取って付けたような不良声で振り向いて来るが、そのどれもが恐怖の色に染まる。
「や、やべぇよ。あいつ大蛇殺しのリークじゃねぇか!!」
明らかに畏怖の表情になっているが、これは少しばかり傷ついた。
俺って、そんなアダ名つけられてんのか......。
不良達に向けていた視線を姫様と呼ばれる人に移す。
姫様ことミリー王女はラウル国王の妹でもある。
見事なまでに艶やかなピンクの長髪に、あどけない顔。
しかもそれに負けないくらいの美しく清らかな性格ということで、アトラス1の人気を誇ると、街のおとこたちが鼻の穴を大きくしながら教えてくれた。
大きな二重の目には、同じく恐怖の色に染まっていたが、半分はリークに対してだろう。
さすがに悲しくなったので、続けて言葉を放つ。
「心配しなくても魔法を使わないから、はやく姫様を放してやってよ」
少々安心したのか、肩の力を抜いた者もいたがリーダーとおぼしきやつだけは違った。
「こいつがわかるか?」
突如ポケットから滑稽なほど小さなナイフを取り出して、ちらつかせる。
これに刺されてもどうということは無いのだが、どうするつもりだろうか。
「どうするつもりだ?」
すると不良は待ってましたとばかりに粘っこい視線を浴びさせてきて、ニヤリと笑った。
「こうするんだよ!!」
ミリー王女の肩を抱き寄せると、そのまま喉元にナイフを突き付ける。
思わず不良達に問いたくなった。
そんなことをして、一体どんな利益があるというのか。
自国の姫様だというのに。
答えはわかっている。
そしてこの結果を招いたのが俺だというのも。
だから.....。
「お前ら、やれ」
リークは絶え間なく続く暴力に必死に耐えていた。
ある意味で。
繰り出されるパンチやキックがあまりにも軟弱で、くらっているように見せるのが大変なのだ。
「キャー!!やめて、もうやめて!」
ミリー王女が泣き叫び、住人達もぞくぞくと集まってきているが、誰も止めることができない。
すいません。まったく痛くないんです。
すこしでも派手に見せようといたずら心まで出てきてしまい、吹っ飛んだりしている。
いつになったらこんな茶番から解放してくれるのだろうか。
いい加減こっちも恥ずかしい。
ちらっとリーダーの方を見る。
!?
自分たちが優勢と勘違いしたのか歓喜の色を浮かべたリーダーは思わず力み、ナイフを持つ手に力が入る。
小さくとも鋭利た刃が王女の皮膚を小さくえぐり、すこしばかり血も出る。
王女の顔が痛みに歪んだ瞬間、リークの中で何かが弾けた。
「交渉決裂だ」
小さく呟き、さらに小さく魔法を発動させる。
「......グラビティ・スタン......」
突如リークの身体から紫色の閃光がほとばしり、五人の不良達を包み込む。
「な、なんだ。これは!?」
不良達の顔が歪み、地面に這いつくばる。
重力系魔法。
リークがたまたま見つけた、三大元素魔法の外に存在する魔法。
古く、大賢者と呼ばれる偉大な魔法使いによって開発された、人工複合魔法。
効果対象に、任意の重さだけ重力を与える。
俺の場合、適当に5倍。や、やり過ぎかなあ?
特に痛めつけるのも面倒だったので、そのまま自衛団に預けて一件落着となった。
周囲からは拍手喝采が上がったが、リークにとってはまた悩みの種が増えるばかりであった。
さすがは王女様というべきか、俺に見せた畏怖の表情は一瞬だけで、今もお礼がしたいというので王宮に招待されていた。
最初は断ろうかとおもったのだが、好奇の視線は避けたかったし、何しろ......これは少々変態発言だが、ミリー王女をもっと見たかったので、おとなしく付いていった。
「先ほどは、どうもありがとうございました」
噴水の出前、夜になって美しくライトアップされた水は妙に艶かしく、その光りを受けるミリー王女の顔もまた驚くほど美しくなっていた。
放浪者に頭を下げるなんて、恐れ多い。
反射的にこちらもペコペコとお辞儀をしてしまう。
「うふふ、おもしろい方ですね」
「そ、そうですかね?あ、ちょっとすみません」
ミリー王女の喉元に手を触れ、短く魔法を唱える。
「ライト・ヒール」
少しばかりナイフで傷ついた喉がみるみる回復していく。
ミリー王女は少しばかり驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になる。
「ありがとうございます。今日はリーク様に助けられてばかりですね」
「いえいえ、姫様のためですから」
何か気に障ったのか、ほっぺを可愛くぷくっと膨らませ、つんと言う。
「姫様なんてあの人達みないに呼ばないでください」
「す、すみません。じゃあ王女様?」
「ミリーで結構です。リーク?」
「なら、僕もアスラで結構です。ミリー?」
「あ、アスラ......それが貴方のお名前なんですね」
「はい、呼ばれるのはミリーが初めてですけどね」
は、初めて。と、ほっぺをさくらんぼ色に染めたりして、思わず......か、かわいすぎる。
しかしながら、こんな状況になっても浮かんできた疑問は肥大するばかりで、思わず聞いてしまった。
「ミリーは僕が怖くないんですか?」
聞いてからしまったと思ったが、ミリーは思った以上に優しく暖かくリークを悟った。
「確かにアスラはとてもお強いですね。それは誰もが認めることです。でも私はそれが特別なことではないと思っています。強いというのはアスラの特徴であって、他の人と何ら変わりはないのです。少なくとも私はそう思います」
リークは心を打たれた。
こうも自分のことを見てくれいたなんて、自分の幼き考えが恥ずかしくなる。
「ありがとうございます。ミリー」
「では、改めてよろしくです」
「はい!!」
ミリーの笑顔は容姿の問題だけでなくリークの心を溶かしていった。
美しくも儚いミリーとの出会いはリークの曇り淀んでいた日常を、明るく晴らす太陽になっていた。
次回は多分ミリー視点です!




