森の奥
ここはノーブル王国。魔法使いと人間が暮らしている豊かな国。
そんな王国には、ひとつの噂があった。
——森の最奥に、1人の凄腕魔法使いがいる。
本当かどうかは、誰も確かめた事がない。
凄腕の魔法使いがいると言う森に、1人の女性が迷い込んだ。
彼女の名前はソフィー。魔物を退治する『風魔隊』と言う組織に入っている魔法使いだ。
空から周りを観察していた……のだが。
何の間違いか、箒から落っこちて森の中に来てしまった。
「まさか箒から落ちると思ってなかったよね……あはは」
箒がどこかに行ってしまい、探して歩いていた。
どんどん奥へ進んでいくと、開けた場所に出る。
そこには、立派な洋館がぽつんと建っていた。
「立派な洋館……。どうしてこんなところに洋館が?」
ソフィーは遠慮なく洋館のドアをノックして呼びかける。
「誰か〜誰かいませんか?」
何度か呼んでも返事が無い。
めげずに呼び続けていると、ドアがガチャリと開き無愛想な男性が顔を出した。
「あの、ここは?」
「見ればわかるだろ。家だ」
ぶっきらぼうに言い放つ彼に、むっとして言い返すソフィー。
「見ればわかるって、家じゃないかもしれないじゃないですか!!」
「お前……よく見たら傷だらけだな。ちょっと待ってろ、治してやる」
「え。あ〜、上から落ちちゃったからかな。大丈夫ですよ、舐めたら治る」
「小さい傷でも中に菌とか入れば大変な事になる」
そう言って奥に消えていった男性を見て、意外と優しい人かも?とソフィーは思った。
少しして、男性が救急箱を持って戻ってきた。
「魔法使った方が楽なんだけどな」
男性のつぶやきを聞いて、そう言えば森の奥に強い魔法使いが住んでいる、と言う噂を聞いたなと思い出した。
「あなたは、魔法使いなの?」
「……」
ソフィーの言葉に、男性はびくりと身体を震わせた。
「ちがう……俺は、魔法使いじゃ、ない」
「でもさっき、魔法を使った方が楽って」
「聞き間違いでも、したんじゃないのか」
「そうかなぁ」
それにしては、男性の声が震えている。
まるで何かに怯えているようだ。
「……ほら、治したぞ。さっさと帰ってくれ」
バタン、とドアが閉まり、ソフィーはひとり残された。
「何だかあの人、悲しそうな顔をしていた。何かあったのかなぁ」
男性の事も気になるが、それより箒を探さなくては戻れない。
どうしようかと悩んでいると、ドアが開き、さっきの男性が箒を持って出てきた。
「これ、お前のか。窓から入ってきたんだが」
「え、あ、うん」
「ほら。じゃあな」
再び閉まるドアに、ソフィーはため息を吐く。
「嫌われちゃったかなぁ」
初対面で嫌われるなんて、そんなに悪い事をしただろうか。
「ま、いいか。帰ろうっと」
ソフィーは箒に跨り、自分の家へと帰っていった。




