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第36話

 目論見通り手薄になったモンスターの層を抜けると、そこには、1匹の大きな獣がいた。

 額には赤い石がはめ込まれ、その顔は爬虫類を思わせる作りだった。しかし肉体には青白い動物の毛が生えていて、爪は鋭く、また長く先端の丸い尻尾がゆるやかに動く様はなんとも言えない気味の悪さがあった。



「……よう。ようやく会えたな」



 僕はニヤリと笑い敵の顔を睨みつける。目の前の獣は、目をギョロギョロとさせてただこちらを眺めていた。



「シキ、みんな。これが最後の戦いだ。こいつを殺せば僕たちの勝利は確約される。最後まで油断はするな」

「わかってるわよ。ッチ、気持ちの悪い生き物ね。こいつが町をぶっ壊した元凶って考えると、許すわけにはいかないわね」



 シキが手に赤い炎を作り出す。僕も刀を構え、ほかの面々もそれぞれに武器を構える。

 そして、直後。目の前の獣は額の赤い石を光らせると、突如として僕たちの脇から大猪が現れ、メンバーの1人を吹き飛ばした。



「ッ!」



 鈍い音に僕たちは反応する、更に獣は額の石を光らせ、スティノドンやホーンドレイクなどがこちらへ迫り僕たちに襲いかかる。



「まずい!」



 僕は迫る大猪を刀で切り伏せる、同時に腕を振り下ろすホーンドレイクの攻撃を刀で受け、そのまま刃の上を滑らせる。そして刀を返すように振り、ホーンドレイクの腕を叩き切った。

 直後にスティノドンの尻尾が僕に迫る、地面を抉るように向けられたそれを僕は刀で受け、体を吹き飛ばされながらもなんとか最小限のダメージに抑える。

 途端、スティノドンの体を炎の槍が貫き、奴は血を吐きながら地面に倒れる。



「大丈夫、ハク!」

「ああ、助かった!」



 シキが奴を倒したらしい。僕が受け答えた途端、更なるモンスターが僕へと迫り、僕は現れた奴らに相対して刀を構える。



「クソ、キリが無い! 早くあの獣を殺さないとッ!」



 目の前にいるリノファングが僕を噛み砕こうと口を開け迫る。僕はそれを紙一重で避けると刀を横薙ぎに振り奴の体を切り裂いた。

 と、数体のフラウラビットが風のような速さで僕に襲いかかる。僕は集中してそれを目視し、角を突出させ肉薄する奴らを避けた。


 まずい、他のモンスターたちの攻撃が激しすぎて近寄れない。

 この作戦の要は僕たちがいかに早く赤い石の獣を殺せるかにある。故に少数ながらも最大戦力をこちらへ配布したのだ。このままでは、他の壁が決壊する前にケリをつけられなくなる。


 僕の焦りは自然と強くなっていった。いかん、まずい。呼吸を落ち着けろ、焦っちゃダメだ。落ち着け、落ち着け。


 が、しかし。突如目の前にスティノドンが現れ、僕がそれを目指した時には、奴は既に腕を振り上げていた。



「しまっ――」



 僕が呟いた直後。ズバリ、とスティノドンが全身から血を吹き出したかと思えば、奴はそのまま地面に倒れた。



「落ち着け、黒髪」



 そして。僕の脇から、金髪の女――ロベルタが剣を構えて現れた。



「一番冷静だったお前が焦ると全体の士気に影響する」

「――ロベルタ」

「それに、あの黒髪の女が怖がる」



 僕はロベルタの言葉を聞いてシキの方を見る。

 シキはこちらを見てほっと胸を撫で下ろしていた。僕はこの事態だと言うのになぜかむず痒くなるような気持ちにさせられた。



「ところでだが、気付いたか、黒髪」

「……なにがだ?」

「あの獣、私たちをバラバラにさせようとしている」



 ――なるほど。そう言われて僕はようやく、奴の狙いに気がついた。

 つまりは各個撃破させるつもりらしい。確かに、固まって連携を取られるよりかはそちらの方が幾分戦いやすい。



「よく見ているな。やっぱり君に話しかけたのは正解だったか」

「なにを言っているのかわからんが、ひとまず奴の狙い通りにされるわけにはいかんということだ。しかし逆を言えば。奴が私たちを散らせようとしているということは、」

「まとまってもらっちゃ厄介だと思っているということだな」

「ああ。つまるところ、奴自身はそれほど大したことはないということだ」

「そういうことだ。なら、全員でかかれば――」

「だからこそ、黒髪。お前たちが奴を倒してほしい」



 僕はロベルタの言葉を聞き耳を疑った。



「どういうことだ?」

「奴が私たちを散らせようとしているということは、攻撃が苛烈になるということだ。全員がアレに集中するわけにはいくまい。かと言って防戦一方では敗北は確実、この戦いは如何に早く奴を狩るかが重要なんだ。

 先までの戦いを見て確信した。ああ、お前とあの女がこの中で一番強い。散々劣等種と罵ってきたお前たちの方が、私たちよりも遥かにな。だからお前たちなんだ。誰よりも強いお前たちが、誰よりも早く奴を殺すことができる」



 ロベルタが僕の方を見ないで言う。僕は刀を構え、周囲のモンスターたちと睨み合いながら彼女の言葉を聞いた。



「だから、後は任せたぞ、黒髪」

「――僕の名前はハクだ。黒髪はただの身体的特徴だ。ついでに言うと、あの女性はシキだ」

「ハクとシキ、か。覚えておこう」



 ロベルタの声が少しだけ笑った気がした。僕はそれに合わせにやりと笑い、眼鏡の位置を正すと、



「――行け、ハクッ!」



 ロベルタが叫ぶと同時に、僕はシキの元まで一気に駆け寄った。


 シキが周囲のモンスターを焼く。僕が「シキッ!」と彼女に呼びかけると、シキは「ハクっ!」と僕の名を呼んだ。



「ロベルタからの提案だ。僕たちでケリをつける!」

「――あの調子に乗ったトカゲをぶっ殺せばいいってことね」

「ああ。理解が早くて助かる」

「ちょうど私もそうしたかっただけよ」



 シキがにやりと笑う。僕も同じく笑い、そしてモンスターの群れの中で赤く光るその存在を睨みつけた。



「さて、思い知らせてやろう。僕たちがどれだけ強いのかを」

「アンタとなら絶対に負けない! ちゃっちゃと片付けてやりましょう!」



 僕とシキはそしてモンスターの群れの中へと突進した。


 シキが光の矢を出現させ、それをモンスターたちに放つ。体を貫かれたモンスターたちは血を吹き出しながら倒れ、僕たちの前に道ができる。

 空いた道の先には赤い石の獣が見えた。しかし奴が額の石を光らせると同時に道がモンスターたちによって埋められる。僕は勢いよく迫った大猪を目視すると、息を深く吐いて奴の体を叩き切る。更に僕へと襲いかかる竜や四つ足の獣を見ると、体を大きく回転させ周囲のモンスターたちを一気に切り倒す。


 道がまた空き、例の赤い石の獣が先程より遠ざかっているのが見えた。どうやら僕たちが戦っている間に距離を開けようとしているらしい。



「逃がすかっ!」



 シキが言うと、直後に赤い石の獣に向け氷の槍を放った。それは奴の足元へと突き刺さり、同時に地面に根を張るように奴の足と地面を凍らせ繋ぎ止めさせる。赤い石の獣が悲鳴をあげる、僕はそれを見て口元を笑わせシキと共に奴へと肉薄した。


 目の前に巨大な獣が見える。奴は焦ったように目を左右へと振り、僕とシキを交互に見ては逃れようと体をよじった。しかしシキが貼り付けた氷は極めて硬く、逃れることができない。


 と、獣は額の赤い石をまた更に光らせ、直後にフラウラビットの大群が僕たちに向け突進してきた。僕が剣を構えると同時、シキが右手を広げ、魔力によるバリアを作り奴らの動きを止めた。



「邪魔すんなっ!」



 次いでシキは左手を広げると赤い石の獣に向けて炎の槍をいくつも放つ。それは奴の体を貫き、同時に獣は悲鳴をあげて身をよじった。

 直後、赤い石の獣が尻尾を鋭く振り、巨大な鈍器のようなそれを僕たちにぶつけようとする。僕はそれが肉体に到達するほんの一瞬前に刀を振り、奴の尻尾を切り飛ばす。



「シキッ!」

「うん!」



 僕は彼女の名を呼ぶと同時に高く飛び上がり、そして刀を大きく振り上げる。赤い石の獣が僕を見上げる、直後に奴は額の石を光らせまた何体ものフラウラビットを僕にけしかける。


 フラウラビットが僕へと突進する。僕はそれを見て体勢を変え、空中で身をよじり体を大きく横回転させた。刀を振り回し、フラウラビットたちを切り、落としていく。そして僕はその勢いのまま赤い石の獣に迫り、そして奴の目を横薙ぎに切りつけた。


 赤い石の獣から血が吹き出す。奴は大きな鳴き声をあげ、痛みに身をよじる。

 刹那、シキが獣に接近し、同時に左手を赤く光らせた。眩しくなるほどの光が、直後により一層の輝きを増すと、



「――ハアアアアッッッ!!!」



 紅い炎の刃が手から飛び出し、獣をそのまま熱の剣で切り上げた。


 赤い石の獣が動きを止める。悲鳴は止み、苦悶した顔がその瞬間に凍りつく。

 一瞬の間の後に。獣の上半身がずるりと落ち、そして青い血液を吹き出し、その命を途絶えさせた。

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