第796話 数が多い敵
地味に試した覚えのないアクアプリズンとポイズンプリズンの組み合わせでの複合魔法を提案してみたけど、そもそも発動するのか? まぁもし駄目だったら、ヨッシさんの毒を混ぜた魔法産の水を作って代用すればいいや。
「なるほど、その組み合わせか。確かそれだと……ポイズンスフィアだったか? 通常よりも大きめの毒の球体に閉じ込めて、効果時間中に毒ダメージを与え続ける複合魔法だったはずだ」
「おっ、アルが知ってたか! それじゃちょっと水球の中央に空洞を作るから発動よろしく!」
「うん、それは了解。でも魔法越しに魔法って発動出来たっけ?」
「……確かここまで完全に覆っている場合は無理だった筈だな。魔法の中……今なら水球の中にまでならいけるが……」
「あ、マジか。それじゃ魔法発動用に穴を開けるけど……サヤ、ハーレさん、万が一の時はよろしく!」
「うん、任せてかな!」
「逃しはしないのです!」
まぁ思いっきりどの敵も弱ってるけど、万が一という事もある。念には念を入れておいて損はないだろう。えーと、アルとヨッシさんは同じ方向にいるから穴を空けるのは1ヶ所でいいな。
中の空洞も複合魔法の発動に合わせて広げればいい。……よし、空洞とそこに繋がる穴が用意出来た!
「アル、ヨッシさん、任せた!」
「おうよ! 『アクアプリズン』!」
「ちょっと消費が激しいんだけど……神経毒と溶解毒の複合毒での『ポイズンプリズン』!」
「凶悪な毒なのさー!?」
「……あはは、確かにこれは凶悪かな」
複合魔法として発動した……ポイズンスフィアだっけ? その範囲に合わせて水球の範囲を調整して、ヨッシさんの2つの猛毒を混ぜ合わせた凶悪な毒の球にサメとかの敵が包まれていく。
あー、でも流石にどっちも昇華になっていても5体同時には拘束は出来なくて、拘束出来たのはマグロとウツボとエイで合計3体か。まぁ5体中3体が拘束出来たなら上出来だな。それにもう1体のエイとサメは俺の魔法産の水の中で苦しんでるしね。
「サヤ、ついでに水の方にいるサメとエイに電気魔法で!」
「え、それって海水の方は大丈夫なのかな!?」
「あー、多分海水ほどは電気の通りは良くないから大丈夫だろ」
「……これでまた敵が増えたらケイの責任だな」
「……それはアルの言う通りなんだけど、その辺の影響範囲も確認したいんだよ」
「あー、確かにそれは知っておきたいとこではあるか」
「だろ? 駄目なら駄目で、俺かアルで水に閉じ込めればいいしさ」
「……それもそうか」
「って事で、サヤ、よろしく!」
「まぁそういうことならやってみるかな。『略:エレクトロボム』!」
よしよし、海水ほどではないにしても魔法産の水でもそれなりには爆発するように放電したエレクトロボムの電気が流れていった。……ただ、ちょっと魔法同士が干渉はしてるね。
効果が増幅するような組み合わせだから相殺にはなっていないけど、操作可能な時間が少し削れたなー。それとサヤが心配していた海水への電気は……一応少しは流れていたけど、それほど範囲は広くなさそうだ。ふむ、これくらいなら近くに敵がいる状態で無ければ大丈夫みたいだね。
「わっ!? 少しだけど、こっちの毒にも電気が流れてきたね」
「……みたいだな。って、暴れ出したぞ!?」
「え、アル、それってどういう事かな?」
「分からんが、状態異常を重ね過ぎたのかもしれん!」
「もしかして電気で毒性が弱まったのかも?」
「あー、そういう可能性か!」
「ゲームのバランス的にありそうなのさー!?」
毒魔法で拘束中に電気魔法を叩き込んだ事はなかったから詳細は分からないけど、状態異常同士がお互いに邪魔をするという可能性は充分あり得るね。でも、そっちの毒に電気が流れるのは想定外だった!
ふむ、同じPTメンバーが使っている魔法だからとかそういう影響か? 少なくとも毒による麻痺と電気魔法による麻痺が両立するのはいくらなんでも強力過ぎるから、状態異常を引き起こすスキルを重ね過ぎるのは何かしらのデメリットがありそうだ。……これは多分検証されてるだろうから、合間で確認しとこ。
てか、毒で中の様子はまともに見えないけど俺の水の方に衝撃が伝わってきてるから、毒の拘束の中で敵が暴れてるね。水の中にいるエイとサメはもう微動だにしてないんだけど、毒の中にいる敵の方が元気なのが不思議な感じ。
「ケイさん、もう保たない!」
「ほいよっと」
ヨッシさんの言葉通り、中からポイズンスフィアが破られて……って、あれ? 改めて水球に閉じ込めようかと思ったけど、マグロのHPはもう殆どないな。ウツボは……あ、今経験値が入ったから毒で死んだっぽい? エイは地味に半分以上のHPが残ってるから、毒はあまり効果がなかったみたいだし多分毒持ちだな。
さて、とりあえずチマチマとサメとエイにぶつけてHPを削っていた砂を使って死にかけのマグロを一気に倒してしまおうか。せーの!
<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>
<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>
<ケイ2ndが未成体・瘴気強化種を討伐しました>
<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>
よし、これでマグロとウツボは撃破完了! マグロが瘴気強化種で、ウツボが残滓だったっぽい。ウツボが先に死んでたのは残滓と瘴気強化種との差なんだろうね。
「とりあえず2体撃破なのさー!」
「ヨッシの毒は強力だったかな!」
「まぁ雑魚敵相手だし、これくらい効いてもらわないと困るけどね」
ボス相手なら効かない毒や状態異常があるのは当然な気はするけど、普通の雑魚敵相手に応用スキルの毒が全然効かないとなると流石に厳しいもんな。
まぁそれでもエイにあまり効いていない……って、あー!? エイが水……な訳がないから海水だろうけど、空洞に海水を生成してその中を泳ぎ出した!?
「しまった!? さっさと空洞を水で埋めとくんだった……」
「……あー、そういう事もあるのか」
「でも海水は空洞の中で浮いているのです! あれなら多分エイは他にスキルは使えないはずなのさー!」
「あ、そういやそうだな」
今のエイは海水の塊の中を泳いではいるけど、それを実行する為には海水魔法による生成と海水の操作を使っている状況のはず。
スキルの発動中に新たにスキルは発動出来ないから、今の状況で可能なのは操作している海水を俺の水にぶつける……あ、そう考えてたら海水の塊が3つに分かれて、そのうちの小さな2つの海水の塊をぶつけ始めたな。
「ケイ、あれの威力としてはどんなもんだ?」
「んー、大して操作時間も削られてないし、水もほぼ減ってないから威力は低いな」
「なら焦る必要もないか」
「まぁそうなるけど……とりあえず砂でぶっ殺しとくか」
「数を着実に減らして行くのさー! なので、私も倒しに行くのです!」
「ほいよっと。魔法弾なら――」
「今回は応用スキルでいくから、魔法弾は必要ないのです!」
「あー、そういや応用スキルの投擲スキルには効果ないんだっけ」
「そうなのさー! だからこれで行くのです。『略:アースクリエイト』『爆散投擲』!」
「……なるほどね。って事は、投げるタイミングで穴を開けるか」
「ケイさん、よろしくです!」
「ほいよっと」
ハーレさんが爆散投擲のチャージを始めたら銀光の明滅が発生してるし、頻度的にはLv2での発動っぽい。この一撃で確実に中の空洞にいるエイを仕留める気だな。
うーん、この場合は俺はどうするべきだ? 空洞を水で埋め尽くして元に戻すという手段もあるにはあるけど、その場合だとあのエイが海水の操作を破棄して応用スキルで破壊に動く可能性もある。
プレイヤーなら現時点で俺の水の破壊を最優先にそれをやってくる可能性はあるけど、雑魚敵だからそこまでの行動はないはず。……多分。
ふむ、ここはハーレさんの一撃を着実に当てに行く方向性で考えるか。この場合ならエイの行動パターンを変えさせずに、ハーレさんの爆散投擲を直撃させるのが一番だな。
それなら……砂の操作で包囲しつつ、爆散投擲の着弾の直前にエイの海水を破壊してしまうのが良いか。まだ水の操作も砂の操作も時間には余裕があるから、問題なく実行は出来るはず。……変に行動パターンが変わらないように砂は水の中で待機させておこう。
「ハーレさん、直前にエイの海水を俺の砂で破壊する感じで良いか?」
「そこはお任せします!」
「おし、んじゃ任された! アルとサヤとヨッシさんは少し回復しててくれ」
「まだ他にも2体残ってるもんね」
「淡水で動きはないけど……意外とHPは減ってないかな?」
「……この状況でHPが思ったほど減ってないのが地味に不気味だな」
確かにアルの言う通りではあるんだよね。明確に魔法産の水の中でエイとサメはまともに動けないほど弱っているのは間違いないんだけど、地味にHPの減り方が遅い。
確実に種族の特徴として淡水が行動阻害になる弱点にはなってるようだけど、どうもそれだけでは殺しきれないように調整されてるっぽい?
まぁ水の昇華があれば、生成した水の中に海エリアの魚を放り込むだけで倒せるというとんでもない討伐効率になりそうだからその対策のような気はするけど……それでも現時点では効率が良さそうな気はするんだよね。
「何か嫌な予感がするから、アル、今のうちに調べておいてくれない?」
「……その方が良さそうだな。すぐに調べるわ」
「アル、任せた!」
今、可能性として思い至ったのは岩山エリアでのドラゴンが進化していたという話。通常の敵に発生するのかは分からないけど、長時間淡水で弱らせようとすると変異進化が発生するという可能性も否定は出来ない。
プレイヤーは死にまくる事で適応進化を発生させる事が出来るけど、敵の場合は条件が違う可能性があるんだよな。……もし適応進化に相当する変異進化が通常の敵にも存在するなら、今の戦法を続けるのは危うい。
「ケイさん、チャージ完了です!」
「……とりあえず先にこっちか。位置は……ここか!」
「穴の位置はバッチリなのさー! えいや!」
ハーレさんは俺のロブスターの背中に乗ったままだから魔法産の水の穴を開ける位置は分かりやすかったね。その開けた穴から空洞へ海水が流入していくけど、その中を通って銀光を纏うハーレさんの爆散投擲が突き進んでいく。
さて、ここからがタイミング勝負だ。おっと、エイは自身が泳いでいる海水の塊ごと回避の為に移動しようとしてるっぽいけど、そうはさせん! 砂の操作を最大加速でぶつけて、エイの海水を破壊する!
「おっしゃ、海水破壊!」
「ケイさん、ナイスなのです!」
「おうよ! くたばれ、エイ!」
そうしてハーレさんの爆散投擲が直撃する寸前のタイミングで俺の砂がエイの海水を破壊していき、その直後に魔法産の小石がエイに直撃して爆散していった。その一撃でエイのHPは全て無くなりポリゴンとなって砕け散っていく。
<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>
<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>
<ケイ2ndが未成体・瘴気強化種を討伐しました>
<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>
お、このエイは瘴気強化種だったっぽいね。とりあえずこれで3体目撃破! ふー、6体同時に相手にする事になった時は焦ったけど、なんとかなりそうだ。
そういやカモメはトビウオを咥えて空中へと戻っていったけど、海中に戻ってしまえば直前まで戦闘中であっても攻撃対象からは外れるのかな? うーん、海面に顔を出したら猛攻撃という可能性もありそう。
「っ!? ケイ、今すぐ水の操作を解除しろ!」
「やっぱり何かあったのか!?」
「説明はするが、それより先に――」
「解除を先に――」
アルが少し慌てた感じだったから俺も詳細を聞くのは後にしようかと思ったけど……どうやら手遅れだったようである。
さっきまで苦しんで身動きをしなくなっていたサメとエイの身体から、禍々しい瘴気が滲み出して卵状に覆っていく。……どうも嫌な予感が的中したっぽいね。
「って、え!?」
「ちっ、遅かったか」
何故か俺の魔法産の水がサメやエイに吸い取られるようにして消えていき、しばらくして卵状の瘴気が消えていく。
どう見ても進化っぽい演出の後には、サメとエイは共闘イベントで見た瘴気属性の敵のように瘴気を纏っていた。……それだけじゃなく、体表に青みが増してるっぽい?
「……アル、俺は水の操作を解除してないんだけど、どういう事だ? 操作してたから魔法吸収じゃないし、今の演出って進化だよな?」
「……プレイヤーでは確認されていない手法の特殊進化だとよ。条件は生成魔法で作った種族として苦手な環境に一定時間以上放り込む事で、瘴気が発生してその環境を取り込んで適応するらしい。どちらかというと纏属進化に近いみたいで、敵専用の纏属進化って考察になってるな」
「纏属進化!? え、俺の魔法産の水を取り込んで、纏水をしたって事か!?」
「……そうなるな。ちなみに瘴気属性も得て、通常個体より強いらしい」
「……まじかー」
うわー、プレイヤーが使うだけかと思ってた纏属進化を敵が使う条件があったりしたんだな。……種族的に弱そうな属性だと思っても、威力が控えめな手段で時間をかけて倒そうとするとこうなるのか。
弱点を狙うなら長期戦ではなく、短期戦でやれってことだな。一種のハメ殺し対策として用意されてる要素な気がするぞ、これ! あと、属性によってなりやすいのとなりにくいのもいそうだね。
「でも、これなら経験値も良さそうかな!」
「進化したなら、多分そうだよね」
「水属性と瘴気属性を得たからって、負けはしないのさー!」
ま、確かにサヤ達が言う通りだね。纏属進化に似た進化をして淡水への適応をしたとはいえ、それだけで絶対的な優位になった訳ではない。
単なるLv上げのつもりが色々と予定外の事になってるけど、所詮は雑魚敵だ。馬鹿げた数を集めさえしなければ、早々負けるような事はないはず!