第781話 トーナメント戦を終えて
とりあえず俺らのが開催したトーナメント戦は終了になったけど……今は5時前くらいだな。もっと時間が経ってたかと思ったけど、ベスタと十六夜さんの対戦以外は長かった訳でもないからこんなもんか。うーん、微妙に何をするか悩む時間だな。
「おし、それじゃ樹洞の立ち入りはいつも通りに戻すぞ。あー、十六夜の戦い方については本人が公表しようとはしてなかったみたいだから、その辺の配慮は頼むぜ」
その桜花さんの言葉に、樹洞の中で見学をしていた人達は頷いている。まぁ元々十六夜さんからの条件付けとして桜花さんとの接点が多い人達に限定されていたんだし、その辺は心配する必要はないだろう。
そしてこれからどこかに出向く人が多いようで、外で樹洞に入れるようになるのを待っていた人達と入れ替わるように大半の人が出ていった。
下手に残れば詮索されやすいからかもしれないけど……って、それは俺らも同じじゃん!? よし、名前を見かけた事はある人はいるけど、話した事がある人は見当たらないな。手早くこの後の予定を決めて移動してしまおう。
えーと、とりあえずトーナメント戦が終わってエンの近くにいるベスタと十六夜さんはこの後何か2人でやりそうだし、イブキと一緒に行動するのは……せめて羅刹がいる時がいいしな……。フーリエさんはどうなんだろ? フーリエさんなら都合が良ければこの後に一緒にでも――
「それじゃ僕はシリウスがログインしたみたいなんで、ここで失礼しますね」
「お、そうなのか」
「はい! これから明日に向けて特訓してきます!」
「おう、フーリエさん、頑張れよ!」
「ケイさん、明日はよろしくお願いしますね!」
そう言ってフーリエさんは俺らより先に桜花さんの樹洞から出ていった。俺と明日対戦するって話になってるし、一緒にやってるシリウスさんがログインしたならフーリエさんとしては俺が居ないところで特訓しておきたいってとこかな。
後で十六夜さんが使った岩での磨り潰しは俺も使えそうだけど、それ以外にもフーリエさん対策は考えとこ。そのまま同じ手段があっさり決まるとも思えないしね。
「なんだ、ケイ? 明日はフーリエと対戦をするのか?」
「あー、まぁトーナメント戦で俺と戦いたかったみたいなんだけど、仕様上で出来なかったからさ」
「ふむ、なるほどな」
「へぇ! それは是非とも俺も――」
「……イブキはどうしたんだ?」
思いっきり明日の俺とフーリエさんの模擬戦に合わせてやって来ようとでも言いかけてた雰囲気だけど、急に静かになった。
もしかして……あー、フレンド登録を確認してみたら羅刹ではないけどウィルさんの方がログインしているね。こりゃウィルさんからフレンドコールでもかかってきたか。
「急に来て急に帰る事になって悪い! 呼ばれたから戻りたいんだが……あー面倒くさいから、誰か殺してくれね?」
「……良いだろう。イブキ、こっちへ来い」
「おうよ!」
PT会話で聞こえている感じでは、イブキはベスタに殺してもらってリスポーンして行く気か。まぁウィルさんは2ndの木でログインしているから、単純な移動手段として早いんだろうな。無所属には群集拠点種へ戻れる帰還の実もないだろうしね。
「……ベスタ、それには俺も付き合おう」
「十六夜は後で話があるんだったな。……そのまま一緒に行動した方が楽か」
「おっ! だったら、俺と2対1で勝負でもやるってのはどうよ?」
「……ベスタ」
「……あぁ」
「え? ちょ――」
「「さっさと帰れ!」」
あ、イブキの言葉の途中でPTから強制的に抜けさせられたっぽくてPTメンバーの一覧から名前が無くなった。……ふむ、連結PTの相手のPTメンバーの加入や脱退の表示は出てこないんだな。
それにしてもイブキは希望通りにベスタと十六夜さんの連携によって瞬殺されたんだろうね。……うん、まぁイブキが来た事から始まった俺らが開催するトーナメント戦だったけど、これで本当に片付いたか。
「待たせたな。とりあえずイブキは仕留めて送っておいたから、これで問題はないだろう」
「はい! どんな風に仕留められたのかが知りたいです!」
「……あはは、確かにそれは気になるかな?」
「それは確かに気になるね」
「だなー。ぶっちゃけどう倒したんだ?」
ベスタと十六夜さんは平然と思考操作による無発声でのスキル発動を使いこなしてるから、直接見てない場合だと何をしたのか全然分からないんだよな。……まぁ俺もそれをやる事はあるけどさ。
「十六夜の生成した2つの岩で潰しながら、俺の爪刃双閃舞で斬り刻んだだけだ」
「……ふん、2人同時に相手をしたいなどと言うからだ」
「思った以上にエゲツなかったのさー!?」
「あはは、容赦なしかな?」
「……それはそうと、そろそろ移動しない? 地味に周りの視線が気になるんだよね」
「……だなー」
うん、途中から俺も気になってはいたけど、遠巻きに見ている人がチラチラといるんだよなー。流石に強引に聞き出そうとかしてくる感じはないけど、ここで何をしていたのかを気にするなという方が無理な話か。
ぶっちゃけその辺は俺らの都合じゃなくて十六夜さんの都合だから勘弁してください! これ、灰の群集のみんなだから今の状況で済んでるけど、以前の赤の群集とかだったら酷い目に合ってそうな気がする。……うん、そういう面では灰の群集で良かった。
「……俺が出した条件が原因か。すまないな」
「あー、十六夜さん、気にしなくて良いって。情報の開示は強制じゃないし、義務でもないんだからさ」
「そうなのさー! それに十六夜さんは普段から情報提供をしてるんだから、文句は言わせないのさー!」
「ケイ、ハーレ、今は名前を出すのはマズいかな!?」
「……もう遅そうだよ、サヤ」
あ、しまった。今のタイミングで十六夜さんの名前を出してしまえば、隠したい情報を持っている人が十六夜さんだという事がバレてしまう。てか、ザワつき始めてるし、完全にやらかしたー!?
「……十六夜って誰?」
「さぁ? でもさっきまでの限定してた状態と関係あるっぽいよな」
「あそこにいるのは『ビックリ情報箱』だし、そこから出てくる名前……?」
「あ、その名前、覚えがあるぞ!」
「え、マジで?」
「たまにここで見かける事がある! だよな、桜花さん!?」
「あー、悪いが他のプレイヤーに関する情報は本人の許可なしじゃ言えねぇよ。それとも何か? ここでお前らがやった事を誰にでも逐一報告されたいか?」
「……そりゃ勘弁。今のは俺が悪かったよ」
「ま、桜花さんやグリーズ・リベルテが関わってるなら悪巧みって事はねぇだろ」
「それもそうだなー。さっき入れ違いで出ていったのも検証勢が結構いたしな」
あ、とりあえず状況は落ち着いてはきたっぽい。流石は灰の群集のみんな! うーむ、最近減ってきたとは思ってたけどまだ『ビックリ情報箱』という呼び名からは完全には解放されないんだな……。
というか、さっき樹洞の中にいた人達の中に検証勢って結構いたの!? あー、よく考えてみれば情報共有板で見かける種族の人もチラホラいた気もするけど……プレイヤー名を知らないから分からんわー!
いや、情報共有板ってそういう半匿名が特徴だから、はっきりと種族で認識されている俺の方が異端か。……まぁそこは特に気にならないから別にいいや。
「……思ったより全然大丈夫そうかな?」
「そう……みたいだね?」
「……大丈夫だったのか?」
「とりあえず今いる人達は問題なさそうなのです!」
「……そうか。それなら良かったが、手間をかけてすまないな」
うん、サヤとヨッシさんが危惧していたような状況にはならずに済んだね。これなら長居はしないにしても、この後の予定を相談していくくらいは大丈夫そうだ。
「ケイ……というか、全員にだな。少し確認しておきたい事がある」
「ん? ベスタ、どした?」
「夜のタッグ戦に出る奴を決めるトーナメント戦についてだな。俺は2ndのタケノコをスキルLvを上げながらずっと見ている予定だが、お前達はどうするんだ?」
「あー、それは……」
そういや他の事をしたいからベスタに決定権を移譲してトーナメント戦になったけど、具体的に俺らが何をするかってまだ決めてなかったっけ。
「はい! 決勝だけは確実に見たいというか、実況がしたいです!」
「あぁ、ハーレのその要望については聞いているし、手配済みだから問題はない。普段から交流がある桜花に頼んであるが、それで構わないか?」
「おー、桜花さんなんだー! それは問題ないのです!」
「ん? ハーレさん、なにか呼んだか?」
「桜花さん、夜の決勝戦はよろしくお願いなのさー!」
「あぁ、その件か。俺としても楽しみにしてるからよろしく頼むぜ!」
「了解です! ところで解説とゲストは誰ですか!?」
ふむふむ、夜のタッグ戦に出る人を決めるトーナメント戦でも桜花さんの樹洞でハーレさんの要望していた実況は出来るように既に話は決まってるんだな。まぁ実況する時は桜花さんの樹洞でやる事が多いし、不動種の人の中では一番交流がある桜花さんなのはありがたいね。
それにしても大規模なトーナメント戦での解説とゲストか。んー、解説はレナさん辺りがしそうだけど、その辺はどうなってるんだろ
「解説は俺とレナで交代しながらやる予定だ。ゲストはまだ決まってないが、そっちについては誰が参戦するかがまだ分かってない段階だからな」
「お、レナさんはやるとは思ったけど、ベスタもやるんだな?」
「交代しながらって事は、沢山実況はやるのかな?」
「サヤの推測が正解だ。決勝戦以外の実況の方は灰のサファリ同盟やオオカミ組とかに交代でやってもらう事になっている」
「……あはは、それは大変そうだね」
「……だな」
うん、まぁ多分盛り上げる為に色々と予定は組んでいるみたいである。……ぶっちゃけ全部見ていきたいという気持ちもあるんだけど、Lv上げもしたいんだよなぁ……。
「……後でアルにも確認を取ってからになるけど、見ていくのはどうする?」
「うーん、見たいのは見たいんだけど、そろそろテスト期間も近付いて来たからLv上げを優先したいかな?」
「サヤは真面目なのさー!?」
「……ハーレ、私がいないからって赤点は取ったら駄目だよ?」
「あぅ!? ……頑張ります」
「……そういや試験が近いんだっけ」
「あぁ、そういやお前ら、アルマース以外は高校生だったな。……今の感じだと、テスト期間中はログインは無いと考えて良いのか?」
「あー、そうなるな」
えーと、確かテスト範囲が発表されるの来週で、テスト自体は再来週だっけな? 俺の成績は良くも悪く平均的ってとこだけど、中学生の頃に遊んでばかりいて一気に成績が落ちてVR機器を1ヶ月ほど没収された事があるからなー。
本格的に遊ぶと痛い目を見るのは確実だから、テスト期間になれば少しの間は流石に我慢か。そうなると1週間から10日くらいはまともに出来そうにないな。
「私達もそうなるかな」
「そだね。ハーレ、拒否はなしだからね?」
「あぅ……。下手したらVR機器自体が没収なので、頑張ります……」
「……しばらく痛手にはなりそうだが、リアルの事情は仕方ないな」
「……そうだな。もう少ししたら高校生……中学生も中にはいたか。その辺のプレイヤーのログインは少なくなりそうだな」
ふむふむ、こういう言い方をするって事はベスタと十六夜さんは高校生ではないんだろうし、確実に俺らよりは年上なんだろうね。まぁオンラインゲームで年齢を理由に偉そうにするのは無しだと思うし、ベスタや十六夜さんとしてもそういう振る舞いはないから安心だ。
あ、そういやラックさんはハーレさんの同級生だから高校生だし、多分他にも高校生とか中学生のプレイヤーはいるよな。テスト期間が終わって戻ってきた時に今と同じ状況のままになるんだろうか? ……いや、それは今考えても仕方ない。
「とりあえず、ログイン出来なくなる前日には連絡しとくよ。まぁログインボーナスを貰いに来るくらいはするかもだけど」
「あぁ、それは了解した。それで結局、今日はどうするんだ?」
「……テストが無ければ見ていきたいとこだけど、Lv上げを優先するって事で。みんな、アルに確認を取ってからになるけど、それで良いか?」
「テストは気が重いけど、それで問題なしです!」
「……あはは、まぁVR機器の1ヶ月没収は避けないとね?」
「ハーレ、私とヨッシと一緒に勉強会かな!」
「うー! 頑張ります!」
VR機器はゲーム専用機ではないから、ホームサーバーで仮想空間を作ってしまえば距離が離れててもそういう勉強とかは可能だもんな。
サヤは成績が良いとか前に言ってたような気もするし、ヨッシさんはハーレさんに教えるのはいつもの事だろう。ハーレさんの赤点回避はサヤとヨッシさんにかかってるね!
「ケイ達はそういう理由で夜はLv上げを優先だな。それなら決勝戦が始まる前に声をかければいいか?」
「あー、そうしてもらえるとありがたい」
「なら、そうしよう。よし、それじゃ十六夜、行くぞ。ケイ達はまた夜にな」
「……あぁ」
「ほいよっと」
<ベスタ様のPTとの連結を解除しました>
そうして俺らの夜の予定を確認したベスタはPTの連結を解除していった。十六夜さんがベスタに話があると言っていたし、今は灰のサファリ同盟がテストを兼ねたトーナメント戦を開催中だから、そっちの様子の確認とかもあるんだろうね。
「さてと、もうちょい時間はあるけど、何をやる?」
「はい! 遠出は夜にして、今はクラゲのスキルの熟練度稼ぎをしたいです!」
「私もそうしたいかな。竜の小型化の進化とか、他のスキルの熟練度稼ぎもしたいかな」
「私も電気の昇華を目指して鍛えたいね」
「俺もロブスターの進化先を出す為にスキルLvは上げたいとこだし、みんなもそうなら夜まではスキルの熟練度稼ぎに専念するか。それじゃミズキの森林まで移動だな」
「「「おー!」」」
キャラのLv上げはアルと合流してから詳細は詰めるとして……って、しばらくの間はアル1人になってしまう期間があるのか。……流石にその間は俺らに合わせてくれとは言えないし、そこら辺は今日の夜にアルと合流してから相談だな。
場合によってはアルに先行して成熟体に進化してもらっておくという形にもなるかもね。まぁこればっかりは学生と社会人の違いだから仕方ない。
あ、そういえば土魔法がLv7になって、進化項目が光ったままなんだった。……内容的に高確率でコケの新たな魔法型の進化先が出たとは思うけど、まずはミズキの森林に移動してからだね。チェックをするのはそれからだ!




