第780話 トーナメント戦『グリーズ・リベルテ』 その6
ベスタと十六夜さんの対決において互いに暴発を使用し始めた事で、戦い方がそれまでとは明確に違ってきた。
あのベスタが明確に十六夜さんに押されて、HPの減り方はほぼ同じという状況である。運の要素が大きいと思ったけど、これはちょっと想定外だったかも……。
お互いのHP自体も半分を切っている……っていうか、共生進化の人の場合は普通な事だったからあんまり気にしてなかったけど、同調である十六夜さんのヤドカリとヨモギはそれぞれにHPが表示されているんだな。
うーん、ヨモギのHPも減っているから、無差別ダメージを受ける範囲にいる? ヤドカリの方はほぼ位置を変えずに遠距離攻撃を主体にしてるけど、ヨモギの方をベスタに気付かれないように動かしてるとか? 今回の中継はずっと全体を俯瞰的に表示してるから、その辺がよく分からん。
「ふっ!」
「ちっ、また無差別ダメージか!」
少し考え事をしている間に十六夜さんが何かを生成しようとして暴発による無差別ダメージが発生し、ベスタがそれを避け距離を取っていく。何度目になるのか、そんな光景が繰り返されていた。
なんというか十六夜さんは暴発を相当使い慣れてるな。無発声だから不発になったスキルが何か分からないけど、無差別ダメージで自身がダメージを受けるのを大前提にしていて、それに相手を巻き込むのが戦法になってるね。
そしてベスタが真似て暴発を使っていたけども、流石に不安定過ぎるようで途中からは通常攻撃と回避のみで対応を行っている。……制御が困難になるデメリットすら強引に抑え込み、無差別ダメージが発生すればそれすらも攻撃に転用する。こうやって言うのは簡単でも十六夜さんのやってる事は無茶苦茶だ。
「……不安定な戦法かと思ったが、そうでもないみたいだな」
「……ふん、当たり前だろう!」
「くっ!?」
「逃さねぇ!」
十六夜さんは今度は石のナイフが4本生成されて斬りつけて行きつつ、どこからか伸びているヨモギの根がベスタの脚に絡みついていた。
今の状態の十六夜さんの遠隔同調で分離しているヨモギは完全に草原の草に紛れていて、効果が安定しない暴発への対処も含めてベスタの余裕があまり無さそうである。……てか、遠隔同調はそれほど効果時間は長くないけど、十六夜さんは大丈夫なのか? そもそもヤドカリとヨモギのどっちでログインしているんだ?
「……ほう? 今のは急に動きが安定したな?」
「……つくづく細かいとこまで気付くものだな」
「押されっぱなしって訳にもいかねぇからな!」
「なっ!?」
おぉ、ベスタがオオカミの全身で踏ん張りつつ、脚に絡みついている十六夜さんのヨモギの根に噛みつき、強引に引っ張り出してきた。流石に簡単に引き抜けた訳ではなく少しの均衡はあったけど、それでも引っ張り合いではベスタの力が上回ったようである。
てか、空中に引っ張り上げられた十六夜さんのヨモギは、ベスタのすぐ近くだったね。……暴発ダメージって魔法とかが発動させた部分で暴発してるのかと思ったけど、もしかしてヨモギ側から至近距離でわざと暴発ダメージを発生させていた事も多かった?
「さぁ、どっちが本体だ?」
「ちっ!」
「安定したら読みやすいぞ、十六夜!」
「……だったら、再び暴発させるまでだ」
そういえばさっきからベスタが安定していると言い始めているけど……あ、そうか。確か暴発ってLvが上がれば暴発確率は上がるけど、その効果時間は短くなる……って効果だったはず。十六夜さんが暴発を普段使いしているのなら、暴発のLvが上がっていてその分だけ変化がある訳か。
なるほど、使い込めば使い込む程に暴走や無差別ダメージが狙いやすくなる上に、少し経てばその危険性も減って安定した状態になるんだな。
まぁそうだとしても味方がいると使いやすくはないし、PTでなら交代をしながら行動値を回復させる方が確実で安定はする。……ソロならではの使い方か。
そうして十六夜さんは再び暴発を発動し直したようで、ヨモギからベスタに向かって根を叩きつけていく。それと同時にベスタの脚に絡みついている根が破裂し、ベスタと十六夜さんのヨモギのHPがゴッソリと削れていた。
「……不発か」
「……これを付け焼き刃で真似られると思うなよ」
「……そりゃ違いねぇな」
あ、しかも叩きつけていた根をヤドカリの方へと伸ばして貝殻へと戻っているね。ベスタはそれを見過ごしていた訳ではなく、何かを仕掛けるつもりだったみたいである。まぁ不発を引いたみたいで、失敗だったようだけど……。
「まぁいい、スキルを使わなければ良いだけだ」
「……スキルも無しで俺に勝つつもりとは舐められたもの……いや、時間稼ぎが狙いか!」
「既にその手段には慣れてきたからな。それでも当てられるものなら当ててみろ」
「……ハッタリ……な訳がねぇか!」
ほうほう、ベスタは十六夜さんに合わせて同じように暴発を使ってはいたけど、それは失敗だったという判断か。さっきの十六夜さんのように時間経過で暴発の可能性は無くなるから、ベスタはそこまで逃げに徹して攻勢に転じるつもりなのだろう。
そして逆に十六夜さんはそのタイミングまでにベスタを仕留めきる必要が出てきた。不発があったから具体的にどうなのかは分からないけど、ベスタはそこまで極端に大技で行動値は減らしていないはず。
全快した行動値はともかく、2倍になってる行動値の扱いがどうなってるかが気になるとこではあるけど、本来のベスタの動きに戻るまでに十六夜さんが追い込むべき状態だな。
そこからは十六夜さんが魔法をメインに暴発させて無差別ダメージを狙っていくけども、ベスタはそれを完全ではないが直撃を受けない程度に回避をしていく。
うわー、今のベスタは風属性が付与された自己強化が発動したままだから移動速度は早いし、状況に合わせて草原の草を咥えて土ごと引き抜いて放り投げ、それを足場に回避していくんだからとんでもないな。
あー、なるほど、こうやって外から何度も無差別ダメージが発生する状態を見ていると気付いた事がある。無差別ダメージが発生する時は攻撃部位が破裂して、爆風というか衝撃波みたいなのでダメージを受けるけど、直前にほんの少しだけ本来のスキルの様子が見えてはいるんだ。
そして、その無差別ダメージの範囲や威力は暴発した元のスキルによって変動している。……十六夜さんはその辺を把握した上で扱っているみたいだね。
どうやら十六夜さん自身もダメージを受けているのは、遠距離攻撃でない場合と、意図的に無差別ダメージの効果範囲を隠したいという意図があるようだ。……その証拠にベスタが回避に徹底し始めてからは十六夜さん自身が無差別ダメージを受ける事がほぼ無くなったしね。
「どうした、十六夜? 当たらなくなってきたぞ?」
「……くっ、この短時間でここまで見極めるか……。……対人戦を甘く考えていたが、これでどうだ!」
「……ほう? だが、既に遅い!」
おー、十六夜さんは小振りな単発の魔法での無差別ダメージではベスタに当てられないと思ったようで、大々的に大きな岩を3つ生成して、その内の1つが暴発し盛大に無差別ダメージが発生していた。
だけど、ベスタはその動きを察知して、自身を風魔法で上空へと吹き飛ばしていく。……なるほど、ベスタの暴発が安定状態に入ったか。あ、それと同時に空から収束された光が十六夜さんのヨモギに火を着けた。……あはは、ベスタはここでそれをやるか!
「なっ!? 『シーウォータークリエイト』!」
どうやら十六夜さんは光の操作で空から焼かれる事は想定していなかった……いや、ベスタに逃げに徹されて全然当てられないという状況で焦っていたのもあるんだろう。
大慌てで生成していた岩を消滅させ、太陽光を収束して着けられた火を生成した海水で消していこうとするけど、運が悪い事に無差別ダメージになっていた。……確実に安定性を保証は出来ないから、こういう事もあるんだろうな。
そういや最後は発声でスキルを発動していたけど、そういう事をするのは地味に思考操作での誤発動もあったのかもね。それを知る術はないけどさ。
「慌てたな? 『飛翔疾走』『魔力集中』『ファイアクリエイト』『操作属性付与』!」
「……ここまでか」
「その反応って事は、本体はヨモギで間違いなさそうだな」
「あぁ、そうだ」
「ならば、ここで散っていけ! 『爪刃双閃舞・火』!」
最後はベスタも発声操作でスキルを発動して赤い色を帯びた銀光を放つ爪で、まずは一撃目でヤドカリを地面から掬い上げるように上空へと斬り付け、そこから空中を縦横無尽に駆けながら一撃毎に強くなる銀光を放つ爪でヨモギを集中的に斬り刻んでいった。
光の操作や狙ってはいない無差別ダメージ、そこから着いた火、そして最後のベスタの連撃には耐えられずに十六夜さんのヨモギのHPは全て無くなり、ポリゴンとなって砕け散っていった。ログインしていたのはヨモギの方だったみたいなので、ヤドカリの弱体化もなく同時に消滅していったね。
そしてそれほど間を置かずに中継画面はトーナメント表へと切り替わり、ベスタが勝ち抜いた事が表示されていく。その直後に『優勝者:ベスタ』という表示が画面のど真ん中に大々的に表示され、報酬として総取りに設定した情報ポイントがベスタに与えられた。
あ、そこまでやったらトーナメント戦の終了の選択が出てきたね。ふむふむ、強制終了ではなく、ちゃんと最後まで終わった上での終了処理か。
えーと、全部の対戦が終わったし、ベスタと十六夜さんにも連結PTでの会話は届くかな? とりあえずやってみよう。
「ベスタ、十六夜さん、聞こえるか?」
「ケイか。問題なく聞こえているぞ」
「……俺も問題はない」
「終わった後ならPT会話で問題ないっぽいな。とりあえず2人ともお疲れ様」
「いやー、今の一戦は凄かったぜ! ……何やってんのかわからない事も多かったがよ」
「……ほう、それは良かったな」
「確かにそれはそうだな」
「俺としては良くねぇんだけどな!?」
「まぁイブキは良いとして……。もうトーナメント戦の終了処理が出来るけど、やっても問題ない?」
「対戦エリアから森林深部へ戻ったから、そこは問題ないな。十六夜は何かあるか?」
「……いや、俺は特にはない。……ベスタ、少し後で時間をもらえないか?」
「それは構わんが、どういう心境の変化だ?」
「……なに、少し自惚れていた事を実感したからな。今後の事で少し相談がある」
「……なるほどな。2ndの育成をしながらになるが、それでも良いか?」
「……ほう、新たな2ndか。それは別に問題ない」
ふむふむ、どうやら十六夜さんとしてはベスタと本気で勝負をして何かしら思う事があるようだ。まぁ、十六夜さんがいきなりソロではなくなるなんて事はないだろうけど、それでも今までよりは他の人と関わってくるかもしれないね。
いやー、それにしても今回のベスタと十六夜さんの対戦は凄かったなー! 負けはしたけど想像以上に十六夜さんは強かったし、正直俺が十六夜さんと戦って勝てるかと言われると自信はないぞ……。
それでもあえて言うなら、十六夜さんは暴発を使った戦法ではなく操作を主体でいたなら最後のベスタの一連の攻撃は防御出来たかもしれないし、相手がベスタでなければあれだけ使い込んだ暴発なら完封する事も可能だっただろう。……まぁ相手が悪かったとしか言えないか。
「それじゃ実況で最後の締めをしたらトーナメント戦の終了処理をするからなー」
「あぁ、それで問題ない」
「……了解だ」
「ちょ!? 俺はこれで終わり!?」
「イブキさん、要望通りに終わったんですから文句はなしですよ!」
「お、おう。そうだよな、フーリエさん」
「それなら言う事がありますよね? いきなり来て、ワガママを聞いてもらったんですから」
「……だな。急な事だったのに、あんがとよ、ケイさん、ベスタ」
「……明日は槍でも降るのか?」
「ちょっとイブキからそんな言葉が出るとか、不気味なんだけど……」
「その反応は酷くねぇ!?」
まぁそこは普段の行いが原因だから、その辺は自覚して反省しといてくれって事で。まぁ何でも予定通りにいくとは限らないし、俺だって予定を急に変える事はあるけど、今回のイブキのワガママに対してはこれくらいは言ってもバチは当たらないだろう。
「それじゃハーレさん、最後の締めをよろしく」
「はーい! という事で、突発的に行う事になったトーナメント戦『グリーズ・リベルテ』の優勝者はベスタ選手となりました! 決勝では実況は無しという形にはなりましたが、あの一戦には余計な言葉は不要だったと思います!」
「ま、確かに俺も含めてほぼ誰も喋ってなかったもんな」
「そこは桜花さんの言う通りだな。……ぶっちゃけ、あれをリアルタイムで解説しろってのは俺としてもやっぱり無理だっただろうし……」
「え、そうだったんですか? 凄いと思って言葉も出てこなかったですけど、ケイさんなら出来るかと思ってました」
「まぁそういう風に評価してくれるのはありがたいんだけど……フーリエさん、さっきの一戦は灰の群集でもトップクラスの激戦だったからな」
「え、そんなにですか!?」
「まぁなー」
あ、これ以上はイブキにPT会話で聞こえるから今は言わない方がいいな。えーと、ここはハーレさんに完全に締めてもらうか。ハーレさんはこっちを向いているし、ハサミを回す感じで進めてくれってジェスチャーで伝えてみよう。あ、頷いてくれたから、伝わったかな?
「それでは以上でトーナメント戦『グリーズ・リベルテ』は終了となります! 急な開催ではありましたが、ご観覧ありがとうございました! 今回の実況は『グリーズ・リベルテ』所属のリスとクラゲのハーレと!」
「解説は同じく『グリーズ・リベルテ』所属のコケとロブスターのケイと!」
「ゲストというか中継場所提供の桜花でお送りした!」
これで管理画面から終了処理をして完全に俺らが開催したトーナメント戦は終了だな。ま、少し放っておけば自動で終了処理にはなるみたいだけど、手動ですぐに終わらせられるんだからそのくらいは自分でやっとかないとね。
さて、トーナメント戦が終わったという事で、さっきのベスタと十六夜さんの対戦についてみんなが盛り上がり始めた。まぁあの一戦はそう簡単には見られない、並の相手なら即座に負ける程の攻防の連続という非常に高水準な戦闘だったし、対戦の最中にはみんな言葉を失ってたくらいだもんな。終わってから内容について話したいという気持ちは分かるよね。




