第610話 キノコ軍団とタケノコ軍団
ラックさんが崖の上へ戻っていったし、俺とベスタは空中で待機中である。さて、崖上の準備もほぼ完了しているから、もう少しでスクショの撮影が開始だろう。
「ケイ、おそらくこの焚き火の維持には薪を焚べ続ける必要があるから、ある程度の薪を渡しておくぞ」
「あー、そんな気はしてたけどやっぱりか。適当なタイミングで薪を追加すればいい?」
「あぁ、それで構わん」
そう言いながらベスタがインベントリ経由でさっき崖下に置いてあった薪の一部を俺に渡してきた。……魔法産の火ならそうでもないんだろうけど、天然産の火を維持するには燃やす物の補充が必要なのは当然か。
それはそうとして、ベスタは飛翔疾走の効果では空中で止まれないので、適度に移動しているのが地味に気になる……。これはあれだな、ベスタ自身でもどうにか出来るとは思うけど、俺から提案しておこう。
「ベスタ、俺の水のカーペットに乗っとくか?」
「……そうさせてもらった方が良さそうだな」
「ほいよっと。んじゃ水のカーペットを広げてっと」
「ふむ、飛翔疾走だけでは万能とはいかないか」
「……もしかして空中を駆けながら炎の操作を使う気だった?」
ベスタも流石にただ空中を駆けているだけは面倒だったのか、範囲を広げた水のカーペットに乗ってきた。うーん、ベスタってもしかして地味に移動操作制御を持っていない……? いやでも、弥生さんの戦法を教えた後に風雷コンビを抑え込む時に使ってなかったっけ?
「あー、一応言っておくが、炎の操作を使う際には並列制御で岩の操作も使って、その辺の岩を足場にする予定だったぞ。移動操作制御には今は足場以外のものを登録しているしな」
「あ、そうなんだ。ってベスタも岩の操作を持ってるの!?」
「……おい、言っとくが岩の操作は一度融合したコケを『複合解除薬』で解除して育て直した際に、ケイがやった手段で取得したものだからな?」
「……あー、そーなんですねー?」
あはは、そういやベスタのコケとの融合進化は課金アイテムで一度解除してから育てきって、その後に融合し直したと言ってたっけ。そっかー、あの岩の滑落の手段でベスタも岩の操作を取ったのかー。まぁ手段さえ分かっていればコケなら楽勝ではあるし、やらない方が損ですよねー。フーリエさんに初めて会った時もそれやってたしねー。というか融合進化って結構スキルを引き継げるんだねー。
よし、現実逃避は終わり。俺が確立してしまった手段と流れだし、決して悪い方向には行っていない筈だから気にしないことにしよう。……事前に用意すれば被害を抑えつつ取得出来るように灰のサファリ同盟が調整してくれていたしね!
「ところで移動操作制御に何を登録してるんだ?」
「移動操作制御には瞬間的な加速専用に風魔法と風の操作を入れているな」
ほほう、移動操作制御を加速専用にするというのもありなのか。確かに飛翔疾走で空を駆けれるならそういう方向性もありだよな。
「あー、ケイ? 話してるとこ悪いんだが、こっちの準備は整ったぞ。……あと、今日は俺もやらかしたから、ケイの岩でやらかした時の話の気持ちはよく分かるぜ……」
「アル、流した話に戻さなくていいから!? それはともかく、こっちも始めたら良いんだな?」
「あぁ、頼む」
「よし、了解っと。それじゃベスタ、やりますか!」
「あぁ、始めよう。ケイは右半分を頼む」
「ほいよっと」
「ではいくぞ! 『炎の操作』!」
そしてベスタが切り崩した崖で盛大に燃やしている焚き火……って規模ではないな。うん、周囲が崖で燃え移るものがないから無事なだけで、そうでなければ火事レベルだな。
でも、このゲームって意外と煙は出ないんだよなー。全くないって訳でもないけど、視界に影響を及ぼす範囲ではない。……ま、この辺もゲーム的な都合だろうし、今はやるべき事をやっていこう。
<行動値を20消費して『炎の操作Lv1』を発動します> 行動値 3/70(上限値使用:3)
さてとベスタが左側の炎を支配下に置いたので、俺は言われたように残っている右半分を支配下に置いていく。……よし、これで炎の操作で制御が出来る。ま、Lvが低いからそこまで無茶な事は出来ないけど。
「アル、こっちは炎の準備は出来たぞ」
「そうみたいだな。ここから先はハーレさんに任すぞ」
「任されました! それじゃケイさんとベスタさんはそのまま真上に向けて炎を広げていく感じでよろしくお願いします! 細かい制御はいらないから、とにかく上の方に向けてねー!」
「えっと、ただ上に炎を伸ばせばいいんだな」
「……なるほど、それなら確かに不安定なLv1での発動が適任か」
「だなー」
今、盛大に燃え盛っている炎を操作はしているけど、炎の燃え方やそのブレはほぼ制御出来てないからね。出来そうなのは大雑把な方向への誘導が良いとこで、荒々しい燃え方の制御は無理だろう。ま、その不確実な制御による荒々しい炎が目的ならこれで問題はない。
ふむ、ベスタと2人がかりで炎の操作をしているのが影響しているのか、2つの炎の操作が重なる部分で特に荒々しい感じになってるね。
「ハーレさん、とりあえずこんなもんか?」
「バッチリです! ラック、ライムさん、これなら地面に降りて少し見上げるように撮るのが良さそうだよー! ラックがここで、私がそっちで、ライムさんがあっちから撮るのが良いと思います!」
うーん、ハーレさんの声はPT会話で普通に聞こえるんだけど、ラックさんやライムさんの声が聞こえないか……。あっちとかそっちで指示を出しているのを聞いても位置関係がさっぱりわからん!
まぁ俺らがいる位置からは崖上が見えないのは仕方ないし、俺らは完全に裏方なのでこういう事もあるよな。いっそ崖上まで移動してそこから……あ、駄目。ベスタがインベントリから薪を足してくれているけど、それがないと火が弱まりそうだし離れられないな。
「ケイ、ベスタさん、状況の説明は必要かな?」
「あー、サヤ、出来れば説明をお願い」
「そうだな。可能な範囲で頼む」
「うん、分かったかな。えっと、まずスクショを撮る側から見て左側がタケノコ軍団で、右側がキノコ軍団になってるかな。それでハーレがタケノコ軍団寄りの左側から、ラックさんが中央から、ライムさんがキノコ軍団寄りの右側からの撮影位置になってるかな」
「あー、なるほどね」
「3方向から撮る訳だな」
「うん、そういう事かな」
ふむふむ、そういう割り振りって事はタケノコ軍団がキノコ軍団に挑みに行くような構図と、キノコ軍団がタケノコ軍団に挑みに行くような構図と、対立の状況を平等に写した構図の3つになる訳か。
「ケイさん、ベスタさん、ちょっとだけ左右に炎を広げられませんか!? 斜めから撮るのが少しだけ背景から炎が無くなります!」
「あー、ちょっと調整してみる」
「あぁ、了解だ」
えーと、俺は左側への操作は無意味だから右側へと炎の位置を動かしてみて……うん、このくらいなら操作が荒れてはいるけどなんとか許容範囲ではあるか。ベスタの方もその辺は特に問題はなさそうだけど、ちょっと操作の時間が短くなりそうだ。
「ハーレ、このくらいか?」
「私の方は大丈夫だけど、確認するから待ってねー! ライムさん、そっちは……あ、わかったー! ライムさんの方も問題ないそうです!」
「少し強引に操作をして支配可能な時間が短くなってるから、その辺は注意してくれ」
「了解です! ヨッシ、サヤ、アルさん、そろそろお願いします!」
「分かったかな!」
「おし、やるか! 『アクアクリエイト』!」
「そだね! 『ポイズンクリエイト』!」
お、これはさっきまで練習していた太陽光を微妙に遮って、部分部分に光が差し込むようにする演出の開始だね。さて、サヤの風の操作が重要になってくる内容だけど、上手く行くかな?
「サヤ、お願いー! 纏雷の2人も準備をお願いしますさー!」
「……さっきまでのアルの教えてくれたやり方でやれば大丈夫。落ち着いて冷静にかな。『並列制御』『略:風の操作』『略:ウィンドボム』!」
「お、良い感じじゃねぇか」
「サヤ、次も頑張って!」
「うん! 『並列制御』『略:ウィンドボール』『略:ウィンドボール』! あ、やったかな!」
「サヤ、グッジョブです! ラック、ライムさん、撮っていくよー!」
実際にその光景を見る事は出来なかったけども、PT会話で声を聞いている限りではかなり上手く行ったみたいである。サヤのかなり嬉しそうな声が聞こえてきてたしね。
そうしてしばらく俺とベスタはそのまま待機である。ふー、まぁ撮影光景が見れない完全な裏方だったけども、順調にスクショの撮影が進んでいったようで何よりだね。
「撮影完了ー! ケイさん、ベスタさん、もういいよー!」
「ほいよっと。あ、そういえばこの火はどうすんの?」
「放っておいても勝手には消えるだろうが、消しておくか?」
「あー、まぁそれもそうだけど、放置するのもな……。あ、生成だけなら微妙な行動値でもどうにかなるか」
炎の操作の発動に必要なだけの行動値を回復させてから、実際に炎の操作を使うまでの間に少しだけ余分に回復してたんだよな。……まぁここで使うなら余分でもないか。
「なら、消すのはケイに任せるぞ」
「ほいよっと」
それじゃサクッと消火してから崖上に戻って、撮ったスクショを見せてもらわないとね。今回は撮影風景すらまともに見れてないから、どんな風に撮れているのかが楽しみだ。
あ、終わった今気付いたけど遠隔同調でも使って見るという手段もあるにはあったのか。……まぁベスタを放り出して俺だけ見に行くにも微妙なとこだし、そもそも今更考えても仕方ない。
それは良いからさっさと消火しようっと。その前に炎の操作を解除して……よし、これで良い。
<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 2/70(上限値使用:3): 魔力値 203/206
あ、水の操作を使うだけの行動値は無かった……。まぁいいや、とりあえずこのまま生成して……いや、待てよ? 今は魔法砲撃を発動しているから、魔法砲撃にして放水にすればいいのか。よし、それでやろう!
という事で、右のハサミを起点に指定して放水開始! ふはははは、どんどん水を追加生成していって火が消えていく! うん、なんかこれはちょっと楽しいかもしれない。
「よし、消火完了!」
「そのようだな。では、行くぞ」
「あ、普通に乗ったままなんだ?」
「……置いていって欲しいならそうするが?」
「いやいや、そういうつもりじゃないから一緒に行こう!」
先に行ってくれと言えば普通に置いていかれそうだもんね!? ベスタは俺が消火し終えるのを待ってくれていたんだし、今のは俺の言い方が悪かったな。……少し反省。
そんな風な事もありつつ、ベスタと共に崖上へと移動していった。あー、キノコ軍団もやタケノコ軍団はもう対立状態を止めて、各自が自由に散らばっているね。……少し人数が減ってる気もするから、もう切り上げた人もいそうだな。
「ケイさん、ベスタさん、お疲れ様ー! ごめんね、全然見えない位置で完全な裏方を任せちゃって……」
「まぁ色々とやっていればそういう事も普通にあるから気にするな。それでラック、どんな風に撮影出来た?」
「俺もベスタの意見に同意って事で気にしなくて良いぞ。それはそうとして、撮影したスクショは俺も見たい」
「あ、ちょっと待ってね。えーと、撮り損ねは除外して、ハーレとライムの撮ったスクショ合わせて……はい、どうぞ」
<スクリーンショットが共有化されました。表示しますか?> はい・いいえ
少し整理をしてからラックさんが撮ったスクショを共有化してくれた。っていうか、既にラックさんにハーレさんとライムさんのスクショは受け取っているんだな。ゲーム外に出力する場合は承諾が必要だけど、ゲーム内だけなら内部で普通にスクショのやり取りは出来るんだし、真っ先に撮ったスクショの受け渡しはしてるか。
さて肝心のスクショを見てみよう。まずはラックさんが撮った中央からのやつだね。お、なんか撮ってる位置が随分と地面に近いね。小型なリスが2人とメジロの3人だから撮れる視点っぽい。
荒々しい炎を背景にして、毒霧はスクショの範囲内には写っておらず、全体的に暗めになっている状況に点々と光が差し込んでいる。ふむ、崖を使ったから上手い具合に火元が見えずに写っているんだね。
そしてその中で左側にはタケノコ集団がいて、右側にはキノコ集団がいて、それぞれの集団の代表のような纏雷を使ったキノコとタケノコが電気の操作を使って火花を散らしている様子が見事に写し出されている。……流石は今公式の宣伝に使われているスクショの1枚を撮ったラックさんだ。これはかなり良い出来栄えだろう。
「ふっふっふ、ケイさん! ラックのスクショは凄いよね!」
「おう、こりゃ凄いな! それとサヤも上手くやったみたいだな」
「うん、頑張ったかな!」
「特訓の成果が出てたよね」
「あぁ、俺もそう思うぜ」
昨日、今日と、サヤが苦手な操作系スキルや魔法を鍛えていた成果が明確に出ているもんな。これならサヤも実戦で使えるくらいの操作系スキルの水準になったんじゃないか?
「……ふむ、ラックのは申し分ないが、ハーレとライムのは一段落ちるか」
「あー、バッサリ行くなー、ベスタさん」
「なんだ、ライム? 嘘でもラックと同じレベルで撮れていると言われた方が嬉しいか?」
「いや、むしろそっちの方が嫌だね。明確にラックさんの方が上ってのは自覚してるから、それは単なる嫌味にしか聞こえないって」
「うん、それは私も同感です! でももっと今度はラックみたいに撮れるように頑張るのさー!」
ふむ、まだハーレさんとライムさんのスクショを見てないけど、ちょっと見てみよう。……あー、確かにどっちもこれから攻め込もうという迫力自体はあるんだけど、なんか少し物足りない感じがする……。
んー、何が足りないんだろ? この辺のスクショの撮影技術の差ってのは正直よく分からん。構図の違い……というよりは全体的な配置のバランスか? ……まぁ、考えても分からないから別にいいや。
何はともあれ、これでキノコ軍団とタケノコ軍団のスクショの撮影は終了である。今回のは突発的な参加ではあったけど団体部門での参加数が増えたね。さて、参加した団体部門の中で入賞するのがあれば嬉しいけど、それはまだ気が早いか。
それにしても今日の昼間からは全然群集クエストの進展がないような? テスト実装された模擬戦の方にみんな集中しているような感じなのかもしれないね。




