第592話 風雷コンビの対決 後編
それから1時間ほど風雷コンビの攻防戦は続いていた。……というか、お互いに明確な力量差がないのと、同じ雷属性かつ電気による攻撃にこだわっているので決着がつく気配が一切ない。
行動値や魔力値が減ればお互いにスキルなしで戦いながら回復するし、お互いの攻撃は的確に潰し合ったり迎撃をしているから、どっちのHPもろくに減ってないんだよな。……ここまで均衡すると、決着がつく気がしないね。
「「『自己強化』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』!」」
「風属性で速度を上げる気か、疾風の!?」
「そういう迅雷こそ、そうじゃねぇか!?」
「「ぐぬぬ……!」」
あー、なんかしびれを切らしたみたいで雷属性以外に風属性も使い始めたけど、そのタイミングすら被るとは……。うん、この中継で何度も同じような光景を見たから驚かなくなってきたぞ。
「「『飛翔疾走』『並列制御』『重硬爪撃』『連閃』!」」
「またか、疾風の!?」
「そりゃこっちの台詞だ、迅雷の!」
また同じスキルの発動が被ってるし、チャージの方は強弱が発生しているけどそのタイミングまで同じなので発動したLvまで同じか。よくまぁ、ここまで意図せずに被りまくるもんだな。
「えぇい、構わん! そのまま次こそは有効打を入れてくれる!」
「はっ、そりゃこっちの台詞だ!」
そして風雷コンビは空中を駆けながら連撃を打ち合い、互いに銀光が強まっていく。その連撃の銀光が最大になった頃に、チャージの方も完了していた。
てか、時間制限があって効果は短いみたいだけどあの空を駆けるスキルは地味に良いなー。俺らのPTには正直必要なさそうだけど、空中を足場にして縦横無尽に攻撃へと移れるのが良い感じだね。
「これで終わりだ、疾風の!」
「そのままそっくり返すぜ、迅雷の!」
その2人の言葉通りと共に、両方の前脚で最大強化の連撃の最後の一撃と、チャージを終えた爪での一撃が衝突していく。こりゃ凄い迫力だ。
……風雷コンビはお互いにこれで決めるつもりだったようだけど、互いに相殺するだけで終わったか。力量やスキル構成、そして戦い方が非常に似ていると決着がつかないんだな。
「……これって、決着はつくのかな?」
「……さぁ?」
「もう1時間以上はやってるよな……」
「……あはは、かなりの長期戦だよね」
1時間以上ぶっ続けで戦闘をしているのに、風雷コンビのHPはどちらもまだ9割以上残っている。それに違いのある電気の操作Lv7と電気魔法Lv7への対処が、お互いに的確なのでそれも決め手になる気配はない。
多分、付与魔法を割に合わない判定をしていたタイミングなら電気の操作Lv7を持っている疾風さんが勝っていた可能性はありそうだけど、性質を正しく把握した後ならこうも変わるんだな。
お、攻撃の衝突が終わった直後にどちらも距離を取るように背後に飛び退って、睨み合い状態になった。うーん、いつかは先に集中力が切れた方に有効打が入って決着にはなりそうではあるけど、それがいつになるかは分からないな。
「……やるではないか、疾風の」
「……そりゃこっちの台詞だぜ、迅雷の」
「それでこれはいつになったら終わるのだ……」
「どうにも決着がつきそうにもねぇもんな……」
「引き分けを提案するが、どうだ、疾風の?」
「そりゃいいが、どうやるんだ、迅雷の?」
「……分からぬ」
「……だよなぁ」
どうやら風雷コンビもこのまま続けても決着がつくとは思えないみたいで引き分けを考えているようだけど、その手段が分からないっぽい。……もしかして、中断する機能が実装されてなかったりする……?
「……ベスタ、模擬戦の中断ってどうなってるんだ?」
「……この状況になって初めて気付いたが、そういう項目はなかったな。これは運営へ要報告か」
「って事は、この状況どうすんの!?」
「……どっちかが意図的に負けるしかないだろうな。桜花、この1戦はこっちからの声は届く設定になってたか?」
「あー駄目だな。それはオンになってないから、こっちから声をかけるのは無理だ」
えー、って事は風雷コンビが自発的にどちらかがわざと負けるまで模擬戦の終了が出来ないのか!? ……まぁテスト実装って事だし、こういう不備があっても仕方ないんだけどね。さて、これはどうしたもんだろう?
「……仕方あるまい。互いに同時に仕留めるというのでどうだ、疾風の?」
「……それしかねぇか、迅雷の。で、何を使う?」
「まずはお互いに昇華魔法を叩き込むのを提案しよう。だが……」
「それじゃ削りきれないだろうな。その後で再使用時間が過ぎた重硬爪撃Lv2で終わりにするか」
「……それで決定という事でいいな、疾風の?」
「おう、いいぜ、迅雷の。そうじゃねぇと終わりそうにないしな」
「ではその為にも回復をしようではないか」
「あー、こういう事ならアイテムの使用はオンにしとくべきだったな」
ふむ、今の疾風さんの発言からすると回復アイテムが使用出来るかどうかも設定出来るんだな。模擬戦機能、思った以上に設定項目が多いみたいだ。
それにしても、風雷コンビはこのまま戦い続けて決着をつけるのは諦めたようである。戦闘をやめて回復に専念し出したしね。既に1時間以上は戦ってるし、他にも模擬戦をしたい人もいるだろうからこの判断が悪いとは言えないか。
「ま、これは流石に仕方ないよな」
「もう4時半も近いし、どう見てもまだまだ終わりそうにないからな。この判断は仕方ないだろ」
「アルマースの言う通りだな。……流石にここまで均衡する長期戦を想定していなかったのだろうが、中断機能を運営が実装していない以上は仕方ない」
「……こんなに長引くとは思ってなかったかな」
「……確かにそうだよね」
うん、確かにこんなパターンは早々ないのは間違いない。それに中断機能を入れていなかったのも微妙なところではある。まぁアンケートを取ってから結構な早さでのテスト実装だったから、多少の不備については仕方ないかもしれないけど。
こういう不備やランダムマッチングでの進化階位による振り分けが正常になってないバグとかもあったけど、そういう問題点がある可能性があるからこそのテスト実装だったんだろうしね。ある意味では正しく目的を達成していると言える状況か。
「これで風雷コンビの対戦が終了か。決着つかずとはなぁ……」
「ま、仕方ないんじゃない? あの水準は色々おかしかったしさ」
「あー、あいつらどういうプレイヤースキルしてんだよ……」
「あそこまで同じタイミングでスキル発動とか、びっくりだよね」
「……リーダーの凄さを改めて実感した」
「それは確かに」
「なんというか、風雷コンビの些細な喧嘩が草原エリアで見世物として楽しまれてる理由がよく分かった」
他の中継を見ていた人達も感じる事は同じようなものみたいだね。まぁ確かにあの水準で逃げ回る風雷コンビとそれを抑え込むベスタという光景は間違いなく見応えはあるだろう。
そんな風にそれぞれに思った事を話していると、風雷コンビに動きがあった。行動値と魔力値の回復が完了したんだろうね。
「準備は整ったな、疾風の?」
「問題ねぇぜ、迅雷の」
「では終わらせるとしようか」
「おうよ!」
「「『並列制御』『エレクトロクリエイト』『エレクトロクリエイト』!」」
草原のど真ん中で対峙した風雷コンビがそれぞれに昇華魔法のサンダーボルトを発動していく。魔法砲撃になっていないので荒れ狂う幾筋もの雷が迅雷さんと疾風さんへと落ちていき、これまでとは全く違って大きくHPを削っていった。……まぁ2人共が無防備に受けたんだから当たり前ではあるけどね。
それでも削れたのは4割程度か。どちらも雷属性を持っているという事もあって、通常よりはダメージ量は少なかったようである。
「やはりこの程度だったか」
「みたいだな。んじゃ、仕上げといきますか」
「あぁ、そうしようではないか」
「それじゃこれで終わりだ!」
「「『魔力集中』『アースクリエイト』『操作属性付与』『並列制御』『重硬爪撃』『連閃』!」」
そして自己強化も魔力集中も切れていた状態から魔力集中を発動して土属性を付与して、Lv2の銀光に強弱のあるチャージを開始すると共に、連撃で斬り合っていく。2人共、一切避ける事なく同時に連撃を受けていた。
時々喧嘩をする事があるとはいえ、コンビで活動しているからこういう時に変な行動を取らないという信頼はあるんだろう。無防備に攻撃を受ける事にも、無防備な状態に攻撃をする事にも一切の躊躇いは感じない。
そうして連撃が終わる頃には2人共HPは3割くらいまで減っていた。……数値ではなくゲージだけで表示されているので微妙な誤差は分からないけども、ほぼ同じ残りHPだね。そして、Lv2のチャージ系スキルならばそのくらいのHP一気に消し飛ばす事は可能だろう。
「チャージが完了だな、疾風の」
「おうよ、迅雷の」
「「タイミングを外すなよ!」」
その重なった言葉と同時に、迅雷さんと疾風さんはそれぞれの眩い銀光を放つ爪をお互いの頭部に振り落としていた。そしてどちらのHPも同時に無くなっていき……あれ? ポリゴンになって砕け散ってはいかないのか。
普通に普段の状態に戻されて、HPも全快しているね。そういやカステラさんと辛子さんの模擬戦では最後の昇華魔法のストームでその辺は見えなかったんだった。
お、ちゃんと決着がついたという判定にはなったようで中継画面に文字が表示されてきた。あー、普通に『引き分け』と表示はされたから、運営としては引き分けになる事は想定してたんだな。
「今回はこれで仕方あるまい」
「ま、そうだな」
「「そのうちまた勝負だ!」」
そう言いながら風雷コンビの中継の映像が途絶えた。ふむ、風雷コンビの模擬戦の結果が出たから終了になったんだろう。
「おーし、これでとりあえず風雷コンビの中継は終了だ。これから後は取引をしつつ、模擬戦の通知があれば伝えるから、見たいやつがあれば言ってくれ」
ふむふむ、桜花さんは商人の方をやりつつ並行して中継もやっていくって感じなんだな。……って、そういやいつの間にやら桜花さんの纏瘴の効果が切れてるね。まぁ風雷コンビの中継が始まった頃には時間切れだったはずだから、ただ単に中継に集中してて気付かなかっただけか。
「さて、予想以上に風雷コンビの中継で時間を取られたから俺はもう行く。ケイ、俺との対戦の時刻を決めるのは夜で良いか?」
「おう、それで問題ないぞ」
うん、俺はベスタとの対戦を控えてはいるけど、その辺の時間設定はハーレさんがログインしてからだな。……間違いなくハーレさんは実況はしたがるだろうけど、まぁ音声が通じないように設定出来るなら自由にしてもらっても問題はないか。
「よし、それで構わないな。夜にログインしているのを確認したら、フレンドコールで連絡する。それじゃまた夜にな」
「ほいよっと」
何やら急ぐようにベスタは桜花さんの樹洞を出ていったね。あー、もしかしたらだけど、らしくない行動をしてしまったのもあって少し居心地が悪かったとかかな? うん、なんだかんだで凄いベスタだけど、完全無欠って訳でもないんだから無いとは言えないな。
ま、全くの的外れの可能性もあるし、もし今の推測が当たっていたとしてもあえて触れる必要もないか。
「ケイとベスタさんの対決を見るのは楽しみかな!」
「うん、私も楽しみだよ」
「見応えは間違いなくありそうだからな。俺も楽しみだ」
「……思いっきり楽しみにされてるなー」
まぁ戦うの自体は俺も楽しみではあるからね。まぁぶっちゃけベスタに勝てる気は欠片もないんだけど、それでも全力でぶつかるのみ! あれだな、倒すのは無理でもHPを半分くらいは削るのを目標にしよう。
「え、ケイさんとベスタさんが模擬戦をやるのかい!?」
「ちょ、マジか!? え、いつ!?」
「これは興味深い組み合わせですね」
「へぇ、見逃せねぇな?」
「さっき夜にとか言ってたよね?」
おっと、紅焔さん達が食いついてきたね。ソラさんも食いついて来たのはちょっと意外だったけど。
「ソラさんって対人戦は興味ないんじゃなかったっけ?」
「ヨッシさん、僕は自分でやる分には興味ないよ。ただ強い人同士の戦いは色々と参考になるから、こうやって見る分には興味はあるのさ」
「あ、そうなんだ。よく考えてみたら、自分が戦うのと人が戦うのを見るのは別物だよね」
「そう、そういう事さ」
あー、なるほどね。確かに自分で戦う事とこうやって中継で観戦する事は別物だし、他の人の戦闘が参考になるというのもあるもんな。そもそも観戦するのも嫌なら今この場にソラさんはいないか。
「おーい、リーダーとコケの人が対戦するらしいぞ!」
「何その絶対に見逃せない対戦!?」
「時間いつ!?」
「夜だってよ!」
「ぎゃー!? 今日の夜はログイン出来ねー!?」
「おー、そりゃどんまい」
あ、ヤバ!? 他の観戦して人達が興味を示して群がって来始めた!? くっ、まだ時間は決まっていないし、この大人数への対処は面倒だぞ。……あ、もしかしてさっさとベスタが出ていったのはこれを回避するためか!?
「……てめぇら、次に騒いだらどうするか言ったよな? それを承知の上でこれから行動を考えろよ?」
そして桜花さんのその一言で群がりかけたみんなが大人しくなっていった。……今日はなんか桜花さんに助けられてばっかだな。
「あー、夜の予定ではあるけど、まだ時間は未定! 決まったら俺らの報告欄のとこか、ベスタにまとめに書いといてもらうから、そっちで確認してくれ!」
それだけ簡潔に伝えたら、みんな納得するように頷いていた。ふー、桜花さんが抑えてくれたおかげでこの程度で済んだね。桜花さんには感謝!
さてと、あともう少ししたらハーレさんもアルバイトを終えて帰ってくるはず。それまでの微妙な空き時間でまた特訓をしていこうじゃないか。




