第591話 風雷コンビの対決 前編
さてと突発的に発生したお菓子の派閥争いはなんとか収束したし、もうすぐ風雷コンビの対戦が始まる3時である。これを見終わったら、ハーレさんが帰ってきてログインするまでまた特訓かな。
「おし、風雷コンビの中継の通知がきたから中継を始めるぞー。対戦を見て盛り上がるのは良いが、さっきみたいなのは無しだからな」
どうやら桜花さんの方に模擬戦の通知が来たようである。さっきの騒動でいつの間にか消えていた中継画面が改めて投影されていってるね。
お、戦闘エリアは草原か。まぁ風雷コンビは草原エリアの出身だし、今の活動拠点も基本的には草原だしね。まだ初期エリアの5つの内からしか選べない状況なら、風雷コンビにとっては最も相応しい舞台なのかもしれない。
「みんな、ぶっちゃけどっちが勝つと思う?」
「あー、どうだろな? 風雷コンビってお互いでは力量差はそんなにないんだよな、ベスタさん」
「あぁ、そうなるな。基本的な戦法もスキル構成もほぼ同じだが、現状で違うのは電気の操作と電気魔法のLvの差ってとこか」
「……その辺りが決め手になりそうかな?」
「どうだろ? んー、やっぱりどっちが勝つか予想が出来ないね」
「風雷コンビについてはやっぱ予想付かないかー」
力量が同程度という話だし、風雷コンビはどちらも間違いなく相当強いからな。ベスタの言うように、今スキルが1つだけとはいえ大きく違う変化が起きている状態が勝負の分かれ目になりそうだ。
「わー!? もう始まってる!?」
「いや、ぎりぎりセーフっぽいな」
「お、カステラ、辛子、間に合ったか」
「2人共、お疲れ様だね」
「うん! これでたけのこ――」
「カステラ、それ以上は口にしないようにしてください。再燃すると厄介ですので……」
「……ん? ライル、なんかあったのか?」
「……えぇ、後で説明しますので、戦った理由についてだけは言わないで下さい」
「ライルがそう言うなら僕はそうするけど……」
「俺もそれで良いけど、一体何が……?」
「それは後でいいからね? とりあえずもう始まるから、2人ともほらこっちに来るといいよ」
思いっきり桜花さんから無言のプレッシャーを感じるような気がするので、ライルさんとソラさんが慌てて騒動の原因となった2人の対戦理由についての発言を抑え込んでいた。うん、カステラさんも辛子さんも不思議そうにしてるけど、こっちはこっちで色々あったんだよ。
「お、始まるぞ」
少し緊張感に包まれかけたけど、見学に集まっている誰かのその発言で空気が変わっていく。うん、とりあえずみんなが観戦モードへと切り替わったようである。
そして中継画面に映し出されているのは、草原の中で対峙するライオンの迅雷さんとヒョウの疾風さんである。あまり距離は取っておらず、結構近い距離で向かい合ってた。
待機時間も過ぎて模擬戦開始のカウントダウンがされていくけども、風雷コンビは互いに距離を取るつもりはないようだ。
「……この時が来たな、疾風の」
「……おう、そうだな、迅雷の」
「思えば我らは初めはいがみ合っていたものだな」
「へっ、そんなの今でも時々あるじゃねぇか」
「そうではあるか。だからこそだ」
「あぁ、分かってるぜ」
「「いざ、尋常に勝負!」」
そんな風に互いに言い合いながら、風雷コンビの勝負が始まった。さて、どんな勝負になるんだろう? お、カウントが0になって、模擬戦が開始になった。
「「『雷纏い』『魔力集中』『魔法砲撃』『並列制御』『エレクトロクリエイト』『エレクトロクリエイト』!」」
って、ちょっと待てー!? 魔力集中こそ使ってるけど、初っ端から2人揃って昇華魔法のサンダーボルトをぶっ放すんかい! しかもどちらも尻尾と口を起点にして口から吐き出すような感じになるように重ねて発動しているし……。
ライオンとヒョウのそれぞれの口から放たれる雷の奔流がぶつかり合い、互いの昇華魔法を相殺し合っていく。……この状況は予想しなかったなー。
「ふっ、やるではないか、疾風の!」
「そっちこそだぜ、迅雷の!」
「「『爪刃乱舞』!」」
いやいやいや、どうして全く同じタイミングで同じスキルを発動して打ち合ってるんだよ!? いくらなんでもこの同じ動き方になるのがびっくりなんだけど!? しかも完全に同じタイミングで同じ方向から連撃を放ってるけど、ここまで同じにするって難しくないか……?
「……不気味なくらいに動きが似ているかな」
「……あはは、ここまで同じ動きが出来るなら、連携すれば隙なんてなくなりそうだよ」
「ヨッシの言う通り、そこが厄介なんだ、あいつらは……。抑え込むにはあいつらを個別に相手するんじゃなく、1体のモンスターが2方向から同時に動き続けるという想定が必要になる」
「……それ、1人で抑え込むのって結構無茶じゃない?」
「あぁ、そうなる。本来なら2人以上で分断させる必要があるくらいだな」
「うへー、マジか……」
それを実行出来ているベスタもとんでもないんだろうけど、レナさんとダイクさんのコンビでも逃げ切られた理由がなんとなく分かった気はする。
要するに風雷コンビは連携させるのがまず間違いで、初手から分断するしかないんだろう。でもレナさんとダイクさんは一緒に動くから、逃げに徹した風雷コンビの分断が困難なのか。……いや、ほんとにベスタはよく抑え込めるもんだね。
あ、爪刃乱舞での打ち合いが終わったかと思えば、2人共に背後に跳んで距離を取ったね。……ふむ、ほぼお互いの攻撃を相殺し合っているので、HPの減少は殆どないな。
「……ふむ、これでは勝負にならないではないか、疾風の」
「そうみたいだな、迅雷の」
「だが、勝つのは我だ」
「いーや、それは俺だぜ」
「「『飛翔疾走』『連閃』!」」
「真似をするな、疾風の!」
「そりゃこっちの台詞だ、迅雷の!」
またもや同時に同じスキルを発動して、空中を駆けながら銀光を放つ爪で再び打ち合っていく。強弱は発生してないからLv1での発動みたいだね。……うん、どこまでこの2人は戦闘手段が似通っているんだろうか……。
それにしても空中を駆ける事が可能になるスキルを風雷コンビは持ってたんだな。空中を駆けながらすれ違い様に鋭い爪同士が打ち合う音が響いていく。……流石に応用スキルだと相殺したとしても、軽微なダメージは受けているようで2人ともHPが僅かには減少しているけどね。
「普通にやってりゃどうにもなんねぇな、こりゃ。『エレクトロクリエイト』『電気の操作』!」
「……やはりそれを使ってきたな、疾風の」
「ま、違う事をしなきゃどうにもなんねぇだろ、こりゃよ?」
「……それには我も同意ではある。『高速疾走』!」
「逃さねぇよ、迅雷の!」
「逃げるのではない、戦略的撤退だ、疾風の! 『連尾鞭』!」
お、ここに来て大きく動きが変わってきたね。ふむふむ、電気の操作がLv7になっている疾風さんが戦闘中に僅かに回復した魔力値を使って4つの電気の球を操作して、迅雷さんはそれから逃れるように空中を駆けまわりながら様子を見ながら尾で電気の球を叩き落とそうとしている。
あー、でもお互いに行動予測をしているみたいで、互いに五分五分で当てることに失敗しているね。ふむ、電気の操作で電気の球が4つになっているのは便利だとは思うけど、お互いに雷属性の状態でこれって意味あるのか……?
「なぁ、ベスタ。風雷コンビって風魔法も持ってたよな? お互いに雷属性を持ってるんだから電気にこだわらない方が良いんじゃ……」
「俺に言われても知らん。それこそ、そういう所があいつらなりのこだわりなんじゃないのか?」
「そういうもんか……?」
「こだわりってのはそういうもんだ」
「……なるほど」
うーん、俺はそこまでのこだわりはないんだけど、ベスタの言うように風雷コンビにとっては雷属性と物理攻撃で決着をつけるというのがこだわりなのかもしれないね。
お、そうしている間にスキルを使わずに逃げに徹する迅雷さんと、それを追いかける疾風さんという光景になっている。……どっちもスキルを使う気配がないけど、これは魔力値を回復させてるのか?
「ちっ、動きが読まれるのはお互い様か! 『エレクトロボール』!」
「ふはは、その時を待っていた! 『爪刃双閃舞』!」
「それこそ俺の狙い通り! 『並列制御』『エレクトロボール』『エレクトロボール』!」
「くっ!?」
おー、疾風さんが通常発動のエレクトロボールを4発同時に違う方向から撃ち込んでいき、それを迅雷さんが銀光を放つ爪の連撃で迎撃して連撃回数を稼いでいた。
でもその直後に疾風さんが口と尻尾からそれぞれに魔法砲撃にしたエレクトロボールを4連射ずつ発射していく。流石に違う角度から放たれる8発の電気の球の迎撃は厳しかったようで、途中からは回避に専念していた。
「これは疾風さんの方が有利かな?」
「現状だとそうだろうな。初手で昇華魔法に魔力値を使ったのが迅雷さんの失策か」
「……そうじゃない気もするよ? 流石にそれを考えてなかったとは思えないんだけど……」
「あー、確かに。付与魔法の検証情報は見てたし、そんな無駄な事をするとも考えにくいか……」
うーん、そうなると初手の昇華魔法には何らかの意図があった? いくらなんでも単独でも強い風雷コンビが無意味に重要となってくる魔力値を無駄にするとも考えにくい。……何を狙って2人共が昇華魔法を使った……? 今の迅雷さんの動きって、ただ迎撃しきれないから回避しているだけなのか?
「……あ、そういう事か」
「ケイ、何か思い当たったのかな?」
「あー、推測だけどな。多分だけど、迅雷さんは疾風さんに残り魔力値を推測出来なくさせてるんじゃないか? 今、苦戦して回避に専念してるのはフェイクで本命は何かの魔法の下準備と見た」
「あ、確かにそれはありそうかな!」
「……もしそうだとすると、疾風さんはそうなるのを分かった上で魔力値を無くしたって事になるな。そうなると、疾風さんはその魔法へのカウンター狙いってとこか」
「おそらく、ケイとアルマースの推測が当たりだろう。そして、その辺りの狙いはお互いに承知済みってとこだろうな」
「……あはは、とんでもない読み合いになってそうかな」
「でもあの連携の精度を考えたら、可能性は十分ありそう」
どこまでが狙いか正直なところは実際になってみないと分からないけど、今の風雷コンビはお互いにスキルを使わずに回復をしている様子なんだよね。……推測が合ってるかは分からないけども、お互いに何かを狙っているのは間違いない。
「なぁ、疾風の。そろそろ決着をつけようではないか」
「へっ、準備は完了したってか、迅雷の!」
「やはり読まれていたか。だが! 『並列制御』『エレクトロエンチャント』『エレクトロボム』!」
「させるか! 『エレクトロクリエイト』『並列制御』『雷の操作』『エレクトロボール』!」
おー、迅雷さんが魔法砲撃で攻勢付与がかかった2つの電気の球を口から吐き出すように撃ち出して、疾風さんが雷の操作でそれを迎撃し、反撃とばかりに操作した大量の電気と4発の電気の球を同時に撃ち込んでいく。
ふむふむ、雷の操作と射出魔法の同時発動とかそういう使い方もありなんだな。うん、参考になるね。さて、疾風さんのこの攻撃を迅雷さんは凌げるかな……?
「カウンター狙いは見事だが通じると思うな、疾風の! 『爪刃乱舞』!」
「ちっ、俺も読まれてるってか、迅雷の!」
お互いに行動パターンを知り尽くしている上に、一度は割に合わない判定を下した付与魔法もちゃんと組み合わせて使っているもんな。そしてお互いがお互いの攻撃への対処方法もしっかり行われている。実力をこうやって見るのは初めてだけど、思った以上に凄いな、風雷コンビ。
「「『エレクトロインパクト』!」」
「「ぐぬぬ……真似をするな!」」
2人共が空を駆けていた状態から地面に下りたタイミングを見計らって、お互いに電気を叩きつけようとしていたけども、それもまたお互いに飛び退って回避をしていた。
ちょっと見てて思ったけども、風雷コンビって攻撃の鋭さは決して低くはないというか十分高いけど、どちらかというと機動力の方が高そうな感じだね。そしてそれ以上に回避が上手い。……現時点で直接の物理攻撃で迎撃する時の相殺の反動で僅かにあるダメージ以外でダメージらしいダメージが一切ないのがとんでもないな。
「この回避能力と機動力なら、レナさんから逃げ切ったってのも納得は出来るような気がしてきた……」
「……あいつらがコンビで動く時は、互いに動きのフォローも入れるからな。今より数段階回避能力は上がるぞ」
「……それを1人で止められるベスタにびっくりだよ」
「そりゃどうも……と言いたいが、それに関しては誰か変わってくれ……」
「あ、多分無理」
「……はぁ」
ベスタがため息をつきたい気持ちも分かるには分かるんだけど、正直あの水準から更に数段階跳ね上がる風雷コンビを抑えられる自信はない。みんなを見てみてもその辺は同意のようで、頷いている人ばかりである。……PTで連携してならまだ可能性はありそうだけど、そこまでしないと正直無理だよな。
そして中継画面には再びスキルを使わない攻防が繰り広げられていた。……これ、お互いに有効打が入る気配がないんだけど、決着はどうなるんだろ?




