第559話 スクショの演出 下
それから何度か演出の微調整を繰り返して、スクショの撮影を続けていった。途中からはアルが瘴気制御で瘴気属性を付与した突撃を行っていたり、桜花さんが桜吹雪に瘴気属性を付与したりしてより禍々しさを強化していたりする。
撮る角度によって見た時の印象が違うという事もあり、撮る角度に合わせて瘴気属性の付与の工夫をしたりもした。
「さーて、そろそろ1時間くらいになりそうだけど、桜花さん、アルマースさん、残り時間はどうー?」
「俺はあと5分ってとこか」
「俺もだな」
「うんうん、そんなもんだよね。了解だよー! さー、それじゃ第1弾の最終をやっていこうかー!」
お、次で第1弾は最後の演出なんだね。という事は、とうとう大詰めの電気の瘴気魔法の出番という事になるんだな。さて、どうなる事か?
「サンダーボルト班、纏瘴をお願いねー!」
「了解した! いくぞ、疾風の! 『纏属進化・纏瘴』!」
「おうよ、迅雷の! 『纏属進化・纏瘴』!」
「おっし、これで最後だな! 『纏属進化・纏瘴』!」
「私も行くよー! 『纏属進化・纏瘴』!」
レナさんの号令に従って、風雷コンビとキツネの人とラクダの人が禍々しい瘴気を纏っていく。おー、風雷コンビはどっちも雷属性で常に僅かながら体表に電気が走るエフェクトがあるけど、黒い電気へと変わっているね。これは格好いいかもしれない。
そしてキツネの人とラクダの人は雷属性という訳でもなかったみたいなので、禍々しい瘴気を纏っただけとなっている。風雷コンビもだけど、キツネの人もラクダの人も魔法型という訳ではなさそうなので、バランス型なんだろうね。
「それじゃサンダーボルト班は、並列制御でミアズマ・エレクトロを4人で発動ね! 発動数が増えるけど、位置的にはサンダーボルトと同じ辺りでお願いね。あ、重なってもいいからー!」
「了解した! いいな、疾風の!」
「おうとも、迅雷の!」
「俺らも頑張るぜ!」
「そだねー!」
これで俺ら第一弾の大詰めのスクショの撮影の準備が整ったね。後はこれまで何度かやった手順を繰り返して、サンダーボルト……じゃないや。ミアズマ・エレクトロの発動に置き換えれば良いだけである。
「それじゃ最後の大一番、行くよー!」
そのレナさんの号令によって、最後のスクショの撮影の為にみんなが動いていく。さーて、俺もやっていきますか! とはいっても、また回復した魔力値で琥珀さんとサンダークラウドを発動させるだけだけどね。
「んじゃ、最後の一発をやりますか、琥珀さん!」
「えぇ、そうですね、ケイさん! いきますよ、『エレクトロクリエイト』!」
琥珀さんも発動したし、最後のサンダークラウドを発動する為に俺も発動しないとね。
<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 69/70(上限値使用:3): 魔力値 203/206
<『昇華魔法:サンダークラウド』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/206
よし、これで雷雲の準備は完了。何度も繰り返し発動したので、もう1組のサンダークラウド班の発動したものと限りなく近いけども、重ならないように調整が出来ている。後はみんながそれぞれにやっていくのを待つばかりだね。
「レナさん、ちょっと最後だしアレンジを入れて良いか?」
「良いけど、アルマースさん、どんな感じにするのー?」
「雷雲の中から飛び出してこようかと思ってな?」
「おー、それいいね! よし、それ採用! スクショ班、ちょっと角度が変わるけど大丈夫?」
「もちろんさー!」
「……うん、問題ない」
「うんうん、それなら大丈夫そうだねー。んー、そうなると桜花さんの方にもアレンジが欲しいけど……」
「……俺は攻撃スキルはそんなにねぇぞ?」
「だよねぇ……。仕方ないから桜花さんは引き続き瘴気属性の桜吹雪でお願いねー!」
「ま、無いもんは仕方ねぇからなー。とりあえず了解だ」
ふむふむ、最後の1枚という事でアルも気合が入っているんだね。うーん、そういう事なら俺も何かすれば……って言っても思いつかないや。
「それじゃちょっと予定変更ねー! アルマースさん、ちょっと雷雲の上となると結構高度があるけど大丈夫?」
「おう、これを使うから大丈夫だぞ……って、共生進化してないから水のカーペットが使えねぇ!?」
「あ、なるほど、水のカーペットで雷雲の上から行くんだねー。そこから自然落下しつつ雷雲を突き抜けて突っ込む感じ?」
「……そういうつもりだったんだけどな。ちょっと誤算があって、雷雲の上に行けん……」
あー、そういや今はクジラだけだから水の昇華が使えないのか。うーん、良いアイデアだった気はするけど、雷雲は4メートルよりも上だから水のカーペットの補助なしじゃ厳しいか。
「うーん、どうしよっか。アルマースさん、小型化しても駄目な感じ?」
「あ、その手があったか! ……それなら多分行けるはずだ」
「それじゃそんな感じでー! 桜花さんもそれでいい?」
「おう、いいぞ。俺はその脅威に立ち向かう感じにすればいい訳だな。よし、やってやろうじゃねぇか」
「よし、それじゃサクサク準備しようー! 雷雲も効果時間は長めとはいえいつまでもある訳じゃないし、アルマースさんはすぐに雷雲の上に移動! サンダーボルト班はアルマースさんの落下と同時にミアズマ・エレクトロの発動ね!」
「おうよ! 『小型化』!」
「了解した!」
「おう!」
「おっしゃ、やってやるぜ!」
「最後に大掛かりなのになったねー!」
そうして急遽予定は変更にはなったものの、即座にアルは小型化して迂回して雷雲の上に移動していった。どうやら小型化した状態であれば雷雲の上の高さまでも飛んでいけたみたいだね。
っていうか、何度か使ってみて分かったけどもサンダークラウドって雲の中に何かが入って放電しなければ、意外と長時間発動してるんだよな。
「よっしゃ、再使用時間も過ぎたし俺は盛大に迎撃をやるとするか! 『瘴気制御』『並列制御』『桜吹雪・瘴』『桜吹雪・瘴』!」
「……そういや、桜吹雪って魔法と物理のどっちなんだ……?」
「あ、ケイさんはそれはご存知ないんですね。まぁ少し特殊なので、知らなくても仕方ないとは思いますが……」
「琥珀さんは知ってるのか?」
「えぇ、これでも私の2ndは桜ですしね」
「あ、そういやそうだっけ」
「あの桜吹雪はスキルの発動条件は樹木魔法のリーフカッターと同じなんですが、攻撃判定は物理なんですよ。なので魔力集中の効果もかかりますし、同系統になる瘴気制御の効果もあのようになるんです」
「へぇ、そうなんだ」
樹木魔法と発動条件は一緒でも物理攻撃扱いになる桜吹雪か。まぁ間違いなく桜の固有スキルだろうし、そういう特殊な仕様のスキルがあっても不思議じゃないか。
同名スキルでも水分吸収みたいに種族によって効果が微妙に違ったり、鷹の目と獲物察知のように名前は違うけど効果は似通っているスキルもあるからね。
「うん、準備は完了だね。それじゃまずはポイズンミスト班!」
「おっしゃ、最後だしミスらずにいくぜ! 『アクアクリエイト』!」
「もう慣れたしね! 『ポイズンクリエイト』!」
毒霧演出も何度も繰り返しているので実にスムーズに行われていく。ベスタに至っては完全に無発声での発動で済ませているし、ヨッシさんの統率のハチはわざわざ解除するのではなくスクショの範囲に入らないように移動させているもんな。
「仕上げだよー! アルマースさん、突っ込めー! それと同時にミアズマ・エレクトロを発動!」
「おう! 『小型化』解除! 『瘴気制御』『突撃・瘴』!」
「行くぞ、疾風の! 『並列制御』『エレクトロクリエイト』『瘴気収束』!」
「だな、迅雷の! 『並列制御』『エレクトロクリエイト』『瘴気収束』!」
「ブチかますぞ! 『並列制御』『エレクトロクリエイト』『瘴気収束』!」
「いっけー! 『並列制御』『エレクトロクリエイト』『瘴気収束』!」
それからアルが全身に瘴気を纏いながら、放電をしていく雷雲を突き抜けて来ている。おー、これだけでかなりの脅威を秘めたクジラの登場って感じだね。これはこれで……って、レナさんもハーレさんもクラゲの人も凝視しているっぽいので確実に撮ってるな。位置的に、アルの背後側から撮っているレナさんのが微妙かもしれないけど。
それにしても雷雲の中から出てくるアルの背後から落ちていく黒い雷も迫力あるなー! ただの黒い雷だけなら周囲が暗いからパッと見で分かりにくいんだけど、雷雲の中の放電による光が良い具合に照らす役目にもなってる。
そんな風に最後はアレンジを入れながら、第1弾のスクショの撮影は終了した。アルも桜花さんも纏瘴の効果時間が切れたようで、通常状態へと戻っている。ふー、中々大掛かりなスクショの撮影だったなー。
そして一段落もついたという事で、再びスクショのチェックや休憩も兼ねて桜花さんの元へと集合していっている。うん、やっぱり不動種がいるとそこに集まりやすいよね。
「はーい、みんな、お疲れ様ー! これで第1弾のスクショの撮影は終了とします! 少しスクショの確認と休憩を挟んでから、第2弾もやるからねー! でも、基本的にはメンバー総入れ替えのつもりなので、そこはご了承下さいなー! もちろん私も含めてだよー!」
「レナよ。手伝いは不可という訳か?」
「んー? どうしても手が足りない場合は手伝うけど、そうでない場合は独占が過ぎるからさー。それに元々の予定はここまでだしねー」
「あ、そうなるんだな。迅雷の、これは確かにレナさんの言う通りだぜ」
「……そのようだな、疾風の」
基本的にレナさんとしては、俺達と約束していたスクショの撮影までが自分の指揮する範囲って認識みたいだね。それ以降については手助けはしても、見物人として集まってきた人達を主体としてやるつもりのようである。
「……何か灰の群集で面白そうな事をしているという話を聞いたので来てみたら、本当に面白そうな事をしていますね」
「そうみてぇだな、ジェイ」
「あ、ジェイさんと斬雨さんか。なんでここに居るんだ?」
そこにはタチウオの斬雨さんと、カニと共生進化しているコケのジェイさんの姿があった。灰の群集のエリアに他の群集の人がいてもおかしくはないけど……あ、ここの隣って青の群集の荒野エリアだったっけ?
それにしては青の群集の人が少ないような気もするけど……って、そういやここの競争クエストの対象エリアが灰の群集の唯一の黒星の場所だったっけ。それなら青の群集の人が占有権のあるエリアの方に行ってるのかもしれないね。
「……ここは灰の群集のエリアではありますが隣は青の群集ですからね。それとケイさん方、青の群集の森林エリアに来るのではなかったのですか!?」
「え、なんでジェイさんが怒ってるんだ? 昨日の夜は途中で色々あって辿り着けなかっただけだけど……」
「えぇ、昨日の夜はまだ分かりますよ! ですが、今日一日かけても来ないというのはどういう事ですか!?」
えー、なんでジェイさん怒ってるの……? あれ、もしかしたら俺らが来るのを地味に待ってたりしたのか? ……そういう事なら、悪い事をしたような気もしないでもない。
「あー、悪いな。どうもジェイの奴、ケイさん達が到着したら案内する気満々だったみたいでよ? それがいつまで経っても来ないし、流れてきた話からどうやら草原エリアにいるって聞いて……な?」
「斬雨、余計な事は言わないで下さい!」
「おー、怖い怖い」
うん、どうやらジェイさんには悪い事をしてしまったっぽい。……まさか、俺らが辿り着いたら案内をしてくれるつもりでいたとはね。今日についてはフィールドボス戦をしたとき以外はほぼ移動してないもんな。
「……なんかジェイさん、悪かった。今日は夜まで全員揃ってなくて、スキルの熟練度稼ぎばっかしてたんだよ。ちょっと時間がかかるかもって先に言っておけばよかったな」
「……おや、そうなのですか?」
「私とアルさんにはリアルで用事があったのさー! 案内してくれるつもりだったのを台無しにしてごめんなさい!」
「……そう、だったのですか。リアル事情でメンバーが揃っていなかったのでは仕方ありませんか……」
「ジェイ、だから言ったじゃねぇか。サプライズじゃなくて予め連絡を入れようってよ?」
「……うっ、今回は斬雨の言う通りだったようですね。皆様、先程は失礼しました」
うーむ、今回のはジェイさんに悪気があった訳でもないから、何とも言い難いとこだな……。まさかジェイさんがサプライズで案内をしてくれるなんてのは想像もしてなかったしさ。
「あー、何だか知らんがすれ違いがあったようだな。……ジェイ、斬雨、埋め合わせという訳ではないが、ちょっと参加していく気はないか?」
「……ベスタさん? 参加とはスクショの撮影の事ですか」
「あぁ、そうだ。今回のスクショに関しては群集ごとに分かれている上に、団体部門なら他の群集というのもありだからな。ついでにちょっとした情報交換も兼ねて、どうだ?」
「……良いでしょう。その話、お受けしましょう」
なんだかベスタがスクショの撮影の協力の提案して、ジェイさんがそれを受ける事になった。……っていうか、スクショの件も嘘ではないんだろうけど、ベスタとしては共通する『進化記憶の結晶』が存在するかを確認しようとしている気がするんですけど!?




