第456話 検証の1戦目の終了
俺の生成した岩によって地面に引き摺り下ろした双頭の竜に、ベスタの銀光を纏う連撃が襲いかかっている。そうしている間に左側の前脚もチャージが終わったようだ。
ベスタは連撃を当てる時間の間隔を開けてたから、連撃が終わると同時にチャージ完了になる様に連撃の調整してたな!?
「一旦これで様子を見るか」
そしてそのベスタの一言と共に、チャージを終えた爪の一撃が双頭の竜の青い方の頭を切り裂いていく。うっわ、エゲツない威力だね。双頭の竜のHPは既に4割くらいまで減って、朦朧も入ったのかグッタリしてるよ。それにしてもベスタの攻撃だけで3割か……。
「……なぁ、ベスタ。こいつ魔法の威力は高いけど、物理攻撃には弱くね?」
「確かに思った以上に削れたな。まぁその傾向が分かっただけでも収穫だろう」
「あー、まぁそれもそうか」
Lv20になっているベスタの攻撃の威力が高いという事もあるんだろうけど、魔法特化型ボスは思った以上に物理攻撃には打たれ弱いようである。まぁ高威力の魔法や防壁魔法も活用しまくってたから、充分な驚異ではあるのかもしれないけども。
「おわっ!?」
「ケイ、大丈夫かな!?」
そう言ってる間にグッタリしていた双頭の竜が暴れ始めた。……岩の拘束に噛み付いて何やってるんだ? あ、諦めたみたいに噛み付くのを止めたね。でも、上を見て何かを狙っているような気もする……?
「……とりあえずは大丈夫だけど……げっ!?」
「あー!? もしかして昇華魔法ー!?」
「……水と土ならデブリスフロウだよね?」
ハーレさんやヨッシさんも反応しているように、双頭の竜が見ている方向を空中に水の塊と土の塊が生成されていた。これ、魔法砲撃なしの通常発動での昇華魔法じゃないか!? くっ、即座に拘束を止めて、俺も昇華魔法でーー
「ちっ、ケイはそのまま抑え込んでおけ! 紅焔、アルマース!」
「はっ!? 了解だ!」
「爆発で吹き飛ばせってか! やるぞ、紅焔さん!」
「おうよ、アルマースさん!」
咄嗟に自分で昇華魔法を発動しようかと思ったけど、ベスタの指示を受けて拘束を解除するのを止めた。今は昇華魔法を使えるメンバーが他にもいるんだし、相殺は任せればいいんだ。俺は今すべき拘束を続けていこう。
「ちょ!? 逃げろー!」
「昇華魔法の撃ち合いに巻き込まれるぞ!」
「うひゃー! ボスともなると普通に昇華魔法を使ってくるねー!」
「……通常発動での場合は顔の向きが目印か」
「みたいだな。とりあえず退避っと」
「防御の複合魔法を展開するよー。『並列制御』『アースウォール』『アースウォール』!」
「お、助かる!」
「逃げ込めー!」
それなりに距離を取っていた他のPTの人達は余波を避ける為に退避行動に移っていた。その直後に上空で生成された双頭の竜の水と土が衝突し、大量の土石流が発生して俺らに降り注いでくる。
身動きが取れないから、自分ごと昇華魔法で拘束を破壊しようって算段なのだろう。そうしている間にアルが水のドームを解除して、紅焔さんもアルの側まで飛んできて迎撃準備を行っていく。
「『アクアクリエイト』!」
「『ファイアクリエイト』!」
空中から俺らを呑み込もうと落ちてくる土石流を吹き飛ばすように、アルの生成した水と紅焔さんが生成した火が重なり合っていく。そして発動したスチームエクスプロージョンの強烈な爆発音と共に土石流を一気に吹き飛ばしていた。
「わっ!?」
「ヨッシ!」
「あ、ありがと、ハーレ」
「どういたしまして!」
強烈な爆風に煽られて一番小さなヨッシさんが吹き飛ばされかけてハーレさんがそれを救助していく。っていうか、ハーレさんも必死に巣にしがみついてるし!? まぁ俺もアルの根にしがみついてるけどさ。
「うっ、足場が……!?」
「『ウィンドウォール』! ライル、大丈夫かい?」
「えぇ、ソラ、助かりましたよ」
他にも足場の悪い砂漠で踏ん張りきれなかったライルさんをソラさんが反対方向から助けたりしていた。一応は土石流の大半は吹き飛ばせたっぽいか? ……いや、そうでもなさそうだな。少しだけではあるけど、上から消し飛ばしきれなかった土石流の一部が降り注いできている。
「ヨッシ、上空に防御をお願いかな!」
「サヤ!? え、あ、そういう事! 『アイスウォール』!」
大慌てでヨッシさんが半球状の氷の防壁を上部に展開して、降り注いできている土石流の破片を防いでいた。……どうやら相殺しきれなかった訳ではなく、瞬間的な攻撃のスチームエクスプロージョンと少し継続して発動するデブリスフロウの違いの差みたいかな。
威力自体は吹き飛ばした事で相当減衰しているようで、ヨッシさんの氷防壁によってカンッ、カンッという音を立てながら防げている。
「え、何!?」
そして、双頭の竜の青い方の頭がヨッシさんの氷の防壁に噛み付いて、氷が消え去っていった。え、これってもしかして……?
「ちっ、魔法吸収まで持ってるのか。各自、迎撃に魔法は使わずに回避か迎撃しろ! ハーレ、散弾投擲で落下する破片の威力を削げ! アルマース、ライル、根で弾け!」
「了解です! 『散弾投擲』『散弾投擲』『散弾投擲』『散弾投擲』!」
「おうよ! 『並列制御』『根の操作』『根の操作』!」
「行きます! 『並列制御』『根の操作』『根の操作』!」
降り注ぐ土石流の破片に向けてハーレさんが散弾投擲で当てて、軌道を変えていく。でも大して勢いは変わってないような……って、変な方向に逸れて破片が当たってきたんだけど!?
あ、でもダメージ量がものすごく少ないって事は、これってハーレさんの攻撃が当たった事でダメージ判定ハーレさんのものも入ってる……? なるほど、そういう意味で威力を削ぐ訳か。
さてととりあえず双頭の竜の昇華魔法は凌ぎ切った。双頭の竜が暴れ続けるのを無理矢理抑え付け続けているけど、岩の操作の時間がもうそんなに保ちそうにないな。
「ベスタ、そろそろ拘束は限界!」
「あぁ、分かった。昇華魔法を使ったから、これ以上の威力の攻撃はないだろうな。……そろそろ仕留める頃合いだな」
「……まぁ回復しなきゃ魔力値は底尽きてるだろうしな」
魔力値を全て消費するという昇華魔法の仕様からして、さっきヨッシさんの魔法から吸い取った分の魔力値しかないはず。わざわざ回復を待つ必要もないだろう。
というか、改めて考えると俺が拘束に使っている岩に噛み付いたのも魔力吸収を行おうとしてたんだな。でもあれは操作系スキルで支配中の魔法は吸えなかったはず。あ、だから何も出来ずに諦めたのか。
「大体の手の内は把握したから、仕留めるぞ! 魔法は吸収される可能性が高いから、使うなら必ず操作スキルで支配下に置いた状態で使え! 物理攻撃を持ってる奴は物理攻撃を優先しろ!」
はい、殲滅指示が出ましたよっと。さーて、序盤はあっという間に弱ったのに思わぬ後半の反撃には驚いたけど、お終いの時間がやってきたね。
「分かったかな! 『魔力集中』『アースクリエイト』『操作属性付与』『爪刃双閃舞・土』!」
「おっしゃ、行くぞ! 『魔力集中』『高速飛翔』『鋭鋏連挟斬』!」
「僕もだね! 『高速飛翔』『鋭角連突撃』!」
おー、みんな殺る気になってるね。サヤはアルの背から飛び降りて、土属性を纏って石の爪で斬りかかっていた。辛子さんがクワガタの開閉しているハサミが弱い銀光を放ち出している。これ、もしかして挟む系統の応用スキルか? うーん、対応する特性さえあれば俺も覚えられそうかな?
それに続き、カステラさんも何度も往復するように、角で突撃を繰り返していっている。へぇ、突撃とかでも連撃系のスキルはあるんだね。
ただ、サヤ以外は連鎖増強Ⅰは持っていないみたいで威力は低めみたいだ。まぁそれでももうHPは1割を切っている。あ……、とうとう岩の拘束が破られたね。
「ベスタさん、挟撃は行けるかな!」
「問題ない。行くぞ、サヤ! 『連閃』!」
「そうこなくっちゃね! 『連閃・土』!」
いつの間にか双頭の竜を挟み込むように位置取りをしていたサヤとベスタが、トドメの一撃を加える為に駆け出していく。あ、双頭の竜の青い頭がサヤに、茶色の頭がベスタに向けて防御魔法を展開していた。ちっ、そのくらいの魔力値は回復したのかよ!
「ちっ、面倒な!」
「それなら防御ごと破壊するかな!」
どうにも回り込んでもそれぞれの正面に防壁を移動させられているけど、頭の動きには連動していないから魔法砲撃ではないのか。
双頭の竜の防御に対してどうやらサヤとベスタは正面突破する気のようだけど、ここは俺も少し反撃をしておきたいね。拘束のみだったし、魔法吸収で出し抜かれたのも気に入らないんだよね。
「ハーレさん、小石!」
「え!? ケイさん、何やるの!?」
「それは見てのお楽しみって事で。アルは水流の用意を頼む!」
「何やるか知らんが、了解だ! 『アクアクリエイト』『水流の操作』!」
何をするかもまともに説明してないけどハーレさんは即座に小石をくれたし、アルも大量の水を生成し水流の操作を準備してくれた。さぁ、後はサヤとベスタの連撃が終わるまでの時間との勝負!
<行動値を4消費して『増殖Lv4』を発動します> 行動値 40/61(上限値使用:1)
ハーレさんから貰った小石にコケを増殖させて、これからする事の下拵えだな。さて、次! 既にサヤとベスタは双頭の竜の防壁を爪の連撃で斬りつけ、攻め込んでいる。……これ間に合うか?
<行動値上限を15使用して『遠隔同調Lv1』を発動します> 行動値 40/61 → 40/46(上限値使用:16):効果時間 5分
<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します> 行動値 39/46(上限値使用:16)
<『遠隔同調』の効果により、視界を分割表示します>
よし、これで下準備は完了だ。視界はコケをメインにしておいて、後は実行に移すのみ!
「ハーレさんはこの石をサヤの方の防壁に投擲を、アルはロブスターを水流でベスタの方に頼む!」
「了解です! いっくよー! 『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『狙撃・風』!」
「何となく予想はついたぜ。いくぞ、ケイ!」
「おうよ! 2人とも任せた!」
ハーレさんには投擲を頼んだのに何故か狙撃になってたけど、まぁそれはいいや。風属性の付与もあって、一気にサヤの攻撃を防ぐ水の防壁に着弾した。おー、ちゃんと衝撃を吸収してくれてありがたいね。
それと同時にアルの水流でロブスターの方が流されていくけど、まぁそっちは後! ……ん? サヤが今の一撃でバランスを崩してたような気がするには気のせいか?
「ケイ、一体どうしたのかな!?」
「邪魔なものの排除に来た!」
うーん、バランスを崩してたみたいに見えたけど普通に体勢は立て直してるみたいだし別にいいか。それよりも今はこれだ!
さっきはヨッシさんの魔法を吸収してくれたけども、それを使えるのは双頭の竜だけじゃない! 直接の制御下にないって制限はあったはずだけど、ヨッシさんの防壁を吸収していた。
即ち、防壁系の魔法は素の状態でも多少の位置移動は出来るけど、吸収を防ぐには操作系で制御しなきゃ駄目ってことなんだろうね。となれば、これが有効なはず!
<行動値を2消費して『魔法吸収Lv1』を発動します> 行動値 37/46(上限値使用:16)
あ、そういやこのスキルってLvの2倍の行動値を使うんだったね。さてとサヤが連撃で結構削っていたので、これで水の防壁は消滅した。魔力値はそんなに消費してないから普通に過剰回復になっちゃったけど、双頭の竜の魔法を消すのが目的だから別にいいや。さてと次だ、次!
「サヤ、後は任せた! 俺はベスタの方も消してくる!」
「うん、分かったかな!」
そしてサヤの最後の連撃が双頭の竜の青い頭に直撃していく。さて、これで残りHPは1割を切った。アルに任せた水流も直撃寸前だし、小さく表示されているロブスターの視界からも問題はないな。
<行動値を1消費して『群体内移動Lv1』を発動します> 行動値 36/46(上限値使用:16)
<『遠隔同調』の効果による視界の分割表示を終了します>
よし、ロブスターの右のハサミ周辺のコケに移動完了。その直後に土の防壁にぶつかって、即座にアルが水流を消滅させていく。
「面白い手段を考えるじゃねぇか、ケイ!」
「そりゃどうも! 連撃の最後の待機してもらってたんだな」
「まぁな。猶予時間もそんなにねぇから、早めに頼むぞ」
「ほいよ!」
ベスタは俺がさっきのサヤの方でやった事を完全に把握しているようで、既に連撃で最大まで威力が上がった状態になっている。双頭の竜ももう瀕死状態になっているし、再度魔法を使うだけの魔力値もなさそうだしな。
<行動値を2消費して『魔法吸収Lv1』を発動します> 行動値 34/46(上限値使用:16)
よし、こっちの土の防壁の削除も完了! まぁどっちもかなり耐久値を減らしていた状態だったからLv1の魔法吸収でも何とかなったけど、これは鍛えるのもありかもしれない。今回の件で有用性はかなり証明出来たしね。
「良くやった、ケイ! これでトドメだ!」
そうしてベスタの最後の連撃が炸裂し、双頭の竜のHPが全て無くなりポリゴンとなって砕け散っていった。よっしゃ、大勝利!
<ケイがLv13に上がりました。各種ステータスが上昇します>
<Lvアップにより、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>
<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>
<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>
<ケイが規定条件を満たしましたので、称号『砂漠の強者を打ち倒すモノ』を取得しました>
<増強進化ポイントを3獲得しました>
<ケイ2ndがLv13に上がりました。各種ステータスが上昇します>
<Lvアップにより、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>
<ケイ2ndが未成体・瘴気強化種を討伐しました>
<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>
<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『砂漠の強者を打ち倒すモノ』を取得しました>
<増強進化ポイントを3獲得しました>
<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『砂を扱うモノ』を取得しました>
<スキル『砂の操作』を取得しました>
<『瘴気石』を1個獲得しました>
お、Lvが上がったし、瘴気石もゲット。そしてロブスター側でも砂の操作をゲット。あー、昇華にした際に砂漠の砂を双頭の竜にぶつけたのが良かったのかな? まぁロブスター側では使わんけどさ。
さてと、首長竜でも瘴気石は手に入ったし、フィールドボスだと確定入手か、高確率で入手? そして流石は適正Lvのフィールドボスだね。結構厄介だったけど、ものすごく経験値が美味かった。というか、自分達で誕生させたフィールドボスでも討伐の称号は貰えるんだ。流石にこれにはマッチポンプ的な称号はないっぽいか。
それにしても完全な魔法特化型のボスって初めて戦ったけど、かなり厄介だという事がよく分かった。物理攻撃がメインのメンバーがいないと相当苦戦しそうだよな。
【ステータス】
名前:ケイ
種族:同調強魔ゴケ
所属:灰の群集
レベル 12 → 13
進化階位:未成体・同調強魔種
属性:水、土
特性:複合適応、同調、魔力強化
群体数 365/5700 → 365/5850
魔力値 198/198 → 198/200
行動値 34/62 → 34/63
攻撃 71 → 72
防御 102 → 105
俊敏 77 → 79
知識 149 → 154
器用 161 → 167
魔力 211 → 219
名前:ケイ2nd
種族:同調打撃ロブスター
所属:灰の群集
レベル 12 → 13
進化階位:未成体・同調打撃種
属性:なし
特性:打撃、堅牢、同調
HP 4632/6450 → 4632/6650
魔力値 92/92 → 92/93
行動値 54/55 → 55/56
攻撃 208 → 216
防御 195 → 202
俊敏 160 → 166
知識 66 → 67
器用 72 → 74
魔力 38 → 39
2019/7/21 ロブスターが砂の操作の取得条件を満たしていた点の記載忘れを追記。




