第450話 色々と進行
平原の途中にある林の中で見つけた小さな湖の中には、水はなく一匹のコイが跳ねていた。大きさとしては60センチくらいのコイだけど、カーソルの表示は黒なので敵なのは間違いない。
「このコイ、一応識別しておくか?」
「あ、うん。その方が良さそうかな」
このコイは何というか陸に打ち上げられた魚の状態……比喩でもなくそのままだ!? まぁ反撃が出来るとは思えない状態なので、識別するだけしておこう。このコイがLv20の成長体だったりすれば嬉しいんだけど……。
<行動値を4消費して『識別Lv4』を発動します> 行動値 57/61(上限値使用:1)
目印用の魔法砲撃は発動したままだけど、これはまだまだ使うのでそのまま使用っと。さてコイのLvはいくつだ? 多分成長体だとは思うけど、エリア的に未成体は少なくても全くいないって訳でもないから識別の情報は大事である。
『突撃ゴイ』Lv20
種族:黒の瘴気強化種(突撃種)
進化階位:成長体・黒の瘴気強化種
属性:水
特性:突撃、俊敏
お、Lv20の成長体ってマジか! この後アルの樹液分泌で敵を集めて探すつもりだったけど、その前に目的のものが見つかった。これはラッキーだったね!
「ケイ、どうだったかな?」
「当たりだ! そのコイ、Lv20の成長体!」
「マジか!? これは嬉しい予定外だな」
「やったー! 1つ目の目標達成だー!」
「ケイさん、とりあえず私の氷の檻で捕まえておくね」
「おう、ヨッシさん、任せた! アルはヨッシさんがコイを引き上げたら水を戻しといてくれ」
「ま、この水を持っていく訳にもいかんか」
「確かにそうだね。それじゃ捕まえるよ。『並列制御』『アイスプリズン』『氷の操作』!」
ヨッシさんがピチピチと跳ねながら水の中へと戻っていこうとするコイを氷の檻で閉じ込めていく。……これ、俺が水で閉じ込めた方が良かったか……? なんかコイがグッタリして、徐々にHPが減っていってるし……。
「なんかコイが弱ってないか?」
「……あはは。まぁ水から出して、氷で捕まえてるんだしね?」
「……弱って当然といえば当然か。ケイ、後で覚えたばっかの昇華を使ってもいいか?」
「ん? 俺がやろうかと思ってたけど、アルがやりたいならそれでもいいぞ」
「よし、それで決まりな。……その前に湖に水を戻すぞ」
「はーい!」
「アル、津波は起こさないでかな!」
「そんなケイみたいなミスは……いや、あえてクジラで水流の操作を取るのもありか……?」
「おいこら、アル!?」
確かに不注意でこの状況と同じ状況で大量の水を落として、津波を発生させた事はあるけども!? いや、でも荒らすモノからクジラで水流の操作もありといえばあり……? 支配進化から同調化している俺と違って、共生進化のアルの場合は両方で持ってても無駄にはなりにくいし……。
「アルさん、早めにお願いしていい? 思った以上にコイが弱ってきてるから」
「あ、悪い。とりあえず今回は普通に戻しとくわ」
そして、アルは空中に浮かせた大量の水を丁寧かつ素早く、湖に戻していた。というか、これだけの水量を取っただけでは荒らすモノにはならないんだね。大半の生物は残ってる水の方に居て、殆ど無事だからか?
「よし、これで良いな。それじゃ行くぜ、ヨッシさん」
「えっと、解除して地面に置いた方がいい?」
「いや、そのままでいい。『アクアクリエイト』『水の操作』!」
お、アルが大量の水を生成して、氷の檻の隙間から中へと水を入れていき、そのままコイを魔法産の水で包み込んでいった。これは水量も増えて細かな調整が出来るようになる昇華ならではの方法だね。
とりあえずコイのHPの減少も緩やかになったし、せっかく見つけたLv20の成長体を死なせずに済んだかな。
「あ、そういう事も出来るんだ。それならもう氷はいらないね」
ヨッシさんは不要になった氷の檻を解除していき、それに合わせてアルは操作している水を球状に変化させていく。まぁ捕まえておくなら球状が扱いやすいよね。
改めてアルに捕獲されたコイは少し復活したようで逃げようと暴れ始めているけども、アルの水球はびくともしていない。ふふふ、成長体が未成体のスキルに勝てるはずがないからな! 大人しく捕まっておけ、コイめ!
「こうなるなら、初めから水で捕獲すれば良かったな」
「まぁ、ちょっと予定外だったしね」
「そういう事! アルもヨッシさんも、結果オーライって事で別に良いよな!」
「それもそうだね。それじゃちょっと発見の報告をしてこようかな」
「あ、サヤ! それなら私も行くー!」
「それじゃ2人で報告かな」
「みんな、ちょっと待っててねー! 他の人の状況も聞いてくるから!」
「ほいよ。いってらっしゃい」
「いってきますー!」
「いってきます」
そうしてサヤとハーレさんが情報共有板にLv20の成長体の報告と、他の検証PTの情報確認をしにいった。さてと、他の検証PTではLv20の成長体は発見出来たのかな?
「……ケイ、改めて考えたらこの状況には問題がある事に気が付いた」
「え、何か問題があったのか?」
「水の操作を発動中だから、小型化と根脚移動の解除が出来ん」
「あー、なるほど……」
そういや上限使用型のスキルを解除するのも、上限使用型のスキル以外で何かのスキルの使用中では無理だったよな。という事は、アルがコイを水の水球で捕まえている限りクジラを元の大きさに戻す事が出来ないのか。
「それなら俺がコイの捕獲を変わろうか?」
「あー、自力で水流の操作での移動も試してみたいし、良いか?」
「いいぞ。んじゃ準備するから、少し待ってくれ」
「おうよ」
色々と予定外の事もあり、新たに得たスキルという事もあって微妙な判断ミスが多かったもんな。でも、覚えたてならこんなもんだろ。その辺は徐々に慣れていけば良い話だ。
「ところで、駄目な気はするけど移動操作制御で捕獲しておくのはありだと思う?」
「このコイの暴れっぷりからして、まず間違いなく無理だろうな」
「私もアルさんに同意だね。多分、すぐに攻撃判定で解除になると思う」
「……やっぱりそうですよねー」
うん、大体の想像はしてた。アルの水球が丈夫なだけで、コイは水球の中で猛烈に暴れまくってるもんな。何度も体当たりもしてるし、どう考えてもダメージ判定になるか。
そうなると俺は砂漠まではコイの捕獲のみになりそうだな。他の事は出来そうにないし……。まぁそれも重要な役目ではあるか。
「報告してきたよー!」
「お、どうだった?」
「発見は私達が一番乗りだったかな。これからベスタさんが合流しにくるから、砂漠に向かいつつ位置を伝えてくれって言ってたよ」
「それと瘴気石の追加生産も少し出来たから、オオカミ組が持ってくるって!」
「お、オオカミ組も来るのか!」
てっきりオオカミ組は灰のサファリ同盟の雪山での支部創設に回ってるのかと思ったけど、こっちに人員を回してくれるんだな。
「それなんだけどね、各群集のサファリ同盟で共同支部にする事が決定したってさー! 雪山支部は中立地帯で、群集同士での戦闘行為は禁止だって!」
「へぇ、雪山支部は中立地帯になったのか」
「まぁ、そういう場所があっても良いんじゃねぇの?」
「それで今の護衛は赤のサファリ同盟の人達が引き受けてくれてるって言ってたかな。氷結草の群生地の存在が決め手になったみたいだよ?」
「……なるほど、流石はサファリ系プレイヤーか」
中立地帯にしたのは、どこのサファリ同盟からしてもあの光景を台無しにしたくはなかったんだろうね。サファリ系プレイヤーでない俺でもそう思ったんだから、不自然とは思わない。
……まぁ青の群集の一部からは反発が出そうな気もするけど、その辺は青の群集や青のサファリ同盟に頑張ってもらいたいところである。
「という事なので、砂漠に向かって進んでいこうー!」
「あ、ちょい待った。ちょっと無駄手間にはなるけど、俺がコイの捕獲をする事になったから、その時間をくれ」
「え、何か問題があったのかな?」
「簡単に言えば、今のままだとアルが元の大きさに戻れないんだよ」
「あ、そっか。スキルの解除が出来ないのかな?」
「まぁそういう事だ。新スキルに浮かれて、手順を間違っちまってな」
「そうそう。アルだってミスはするんだよ。アルだってな?」
「……ケイ、さっきの俺のミス発言、地味に根に持ってるだろ?」
「……そんな事は欠片もないよ?」
「顔を逸しながら言う事か!? ……まぁ、俺もミスをするのは間違いないから別にいいけどよ」
ふふふ、俺ばっかりミスしているみたいな言い方をするからさ! そういう所はお互いにフォローし合っていこうじゃないか。責めたところで建設的な内容にはならないしね。
「って事で、俺がコイを運ぶけど……その前にこの林を抜けるか?」
「いや、抜けなくていいぞ。水流もだけど、もう1つの新手段も試したいからな」
「あー! アルさんも水のカーペットを使うんだね!?」
「ハーレさん、ご明察! って事で、ケイ、コイは任せた」
「そういう事なら了解だ」
アルの水の昇華は色んな目的の為に狙ってたもんだしね。その内の1つは俺のよく使っている水のカーペットで、あれがあればアルの空飛ぶクジラ計画が一気に進行する。出来る事そのものは今までと変わらないけど、俺のスキル発動が必要なくてアルだけで成立するという所が重要だもんな。
「それじゃ、コイは預かるぞ」
「おうよ。それでどう受け渡せばいい?」
「俺の水でアルの水球を覆うから、覆い終わった時点で解除してくれ」
「おう、分かった!」
今も暴れまくっているコイ相手に、迂闊に隙間を作ってしまえば万が一にでも逃げられる可能性もある。まぁ大丈夫だとは思うけど、ここは安全策を取っていこう。
<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 60/61(上限値使用:1): 魔力値 195/198
<行動値を3消費して『水の操作Lv6』を発動します> 行動値 59/61(上限値使用:1)
魔法砲撃にはせずに、アルの水球を覆うように水を操作していく。……よし、覆い終えた。これで暴れるコイに逃げ場はない!
「アル、解除していいぞ」
「おうよ」
そしてアルが水球を解除すれば、アルの水がなくなって空洞が出来ている俺の水球の中にコイが落ちていく。さてと、空洞のままだと都合が悪いから、水を追加生成しつつ完全な水球に整えてっと。よし、これでいい。
それにしても少し前までヨッシさんの氷の檻の中で弱ってたコイとは思えないほど暴れてるな。……ちょっと鬱陶しいけど、生け捕りが必須だから我慢しよう。コイのHPは減ったままだけど、まだ死なない範囲だしわざわざ回復させなくてもいいか。
「それじゃ準備完了だねー! アルさんに乗って飛んでいこうー!」
「ハーレさん、少しだけ待ってくれ。移動操作制御の登録を済ませるから」
「あ、そういえばそれも必要だったねー!? あと少し、待機です!」
別に移動操作制御でなくても水のカーペット自体は発動出来るけど、ここはやっぱり使ってみたくなるとこなんだろうね。俺も色々試したくはなるから、その気持ちはよく分かる。
「よし、登録完了だ。小型化と根脚移動は解除で……行くぜ! 『移動操作制御』!」
そしてアルは大量に生成した水をカーペット状にして、元の大きさに戻ったクジラの下に配置していく。いつもは俺がやってる事だけど、アルが自力でここに至ったのは感慨深いものがあるね。
「おー! 見た事はあるけど、アルさんが使うのは新鮮だね!」
「これはケイの移動手段の代名詞みたいなところはあったもんね」
「うん、確かにこれは新鮮だね」
「……一応、同じのはダイクさんも使えるからなー」
俺がよく使うのは間違いないけども、別に俺の専売特許って訳でもないんだけどね。プレイヤースキルが必要で真似が難しいものはあっても基本的にはどんな事も再現は可能だもんな。だからこそ情報共有も必須なんだしね。
「みんな、乗ってくれ。完全な自力での飛行を試したいからな」
「はーい! でもサヤ以外は元々乗ってるけどね!」
「……そういやそうだったな」
「あはは、私が乗ったらそれで準備は完了かな」
まぁサヤ以外はみんなアルの木から降りてなかったもんな。唯一降りていたサヤもアルのクジラの背に戻ってきて、移動準備は完了である。
「アル!」
「おうよ!」
そうしてアルは自分で用意した水のカーペットの高度を上げ、林の木々の上まで浮かび上がっていく。俺もその動きに合わせて、コイを捕まえている水球の操作をしていった。速度や高度に合わせて水球も移動させないと困るしね。
「それじゃ砂漠に向けて出発だ!」
「「「「おー!」」」」
目的であるLv20の成長体も見つけた事だし、グラス平原にはもう用はない。……まぁもう1体を探して行くという手もあるにはあるけど、そこは他の検証PTに任せよう。それとベスタが発見した俺らの方に合流してくるらしいから、速度を出し過ぎずに進んでいこうかな。
後の問題はこのエリアの敵を隣の砂漠エリアに連れて行けるかだね。駄目な可能性もあるけど、こればっかりは実際に試してみるしかないんだよな。




