第417話 大きな湖の中へ
湖を底に沿うように進んでいく。アルとアルのクジラの背の上に乗ってる俺らのPTは歩いてはいないけど、赤のサファリ同盟の弥生さん、シュウさん、ルストさん、アーサー、水月さん、青の群集のマムシさんは普通に湖底を地上と同じような感じで移動しているね。
まぁ泳いではいないけど、潜っている事には違いない。いや、ヘビであるマムシさんだけは泳いでる感じかもしれない。俺には苦手生物フィルタで形を変える流木みたいに見えてるけどね……。
それにしてもまだアルの木が水に全部浸かるくらいか。多分水深10〜20メートルくらい? まだ浅いからか、湖面から入ってくる月灯りと夜目で充分なほど見通せる。まぁ懐中電灯モドキの本格的な出番はまだ先っぽいな。
「なぁ、弥生さん。この湖って浅めなのか?」
「あー、この辺は割とね。もうちょっと進むと一気に深くなるから要注意だけど」
「……昨日、私が油断して沈みましたからね……」
「水月、あれは仕方ないって!?」
「いえ、あれは私としてもかなり不覚でした……」
「水月さんもそういう事があるのかな!?」
あ、なんだかサヤが妙に嬉しそうだ。あれか、昨日の雪山で転がり落ちかけた事を地味に気にしてるっぽい? プレイヤースキルが高い水月さんでもそういう失敗はあるし、気にもするんだね。
まぁそれ自体は誰にでもあるミスだから良いし、落ち仲間が見つかって嬉しいのは分かるけど、サヤは反応しすぎ。
「えぇ、ありますけど……どうしたんですか、サヤさん?」
「えっと……私も昨日、雪山で転がり落ちかけて……?」
「え、サヤさんもでしたか!? ゲームなので良いですけども、油断は大敵ですね」
「あはは、確かにそうかも……」
「それで、サヤさんが落ちるという事は何かあったのですか? 私はウナギを踏んで滑ってしまいまして……」
「私は苦手なクモがいきなり現れて、慌てちゃって……」
「……雪山でクモは驚きますね。苦手なら尚更でしょうし……」
「水月さん、ここってウナギがいるの!?」
なるほど、水月さんの足元にウナギがいて、気付かずに踏んで滑ってバランスを崩して沈んでいった訳か。水月さん的にも声が少し暗いので、相当不覚だったようである。
それにしても思いっきり話をぶった切るようにウナギに思いっきりハーレさんが反応してるよ。まぁサヤも水月さんも気にしている失敗話を続けるよりはこっちの方が良いのかな?
「えぇ、居ますね。昨日踏みつけたのは未成体でしたし、倒したら意外と経験値は良かったですよ」
「未成体かー! 食べれなくて、残念!?」
「ハーレ、前も言ったけどウナギは捌いた事ないからね!?」
「ヨッシなら出来るさー!」
「信頼してくれるのは良いんだけど、少しその期待は重いね……」
「……ヨッシ、大変そう?」
食べる物については相変わらずのハーレさんと、なんだか難題を押し付けられているようなヨッシさんであった。なんだかヨッシさんが料理が出来る理由の一因というか最大の要因はハーレさんな気がする。
いや、ヨッシさんの家庭環境も良く知らないから勝手な推測だけども……。でも、俺の妹が苦労をかけてごめんな、ヨッシさん。
「なになに? ハーレさん、ウナギが食べたいの?」
「食べられるなら食べたいです!」
「あはは、そういう所は偽りなしなんだねー! でも、流石にゲーム内じゃ今はまだ諦めた方が良いと思うよ。そもそも調味料がないし、期待と無茶振りは違うよ?」
「うー!?」
「ハーレ、こっちを見ても無理なものは無理だからね?」
「うー、ウナギは我慢します……」
「はい、それでよろしい!」
なんだか弥生さんのハーレさんの扱い方が相当上手い気がする。これが年上の人の余裕なのだろうか? ヨッシさんも少しホッとしているみたいだし、ある意味これは良かったのかもな。
「そういう話を聞いていると、ウナギが食べたくなってきたね。ルスト、週末が晴れていたら一緒に釣りにでも行ってみないかい?」
「そういえば以前釣ってきていましたね。いいですよ。行きましょう、シュウさん」
「そういう事だけど、弥生、構わないかい?」
「シュウさん、任せておいて!」
「え、弥生さんってウナギ捌けるんですか?」
「何回かした程度ではあるけどねー!」
なぜかウナギ談義になっているけども、まぁ周囲には一般生物の水草やエビや小魚くらいしか見当たらないし別に良いか。
浅めの所の敵はブラックバスとか、カメとか、水草とか、ザリガニとか色々いるみたいだけど湖面の探索のグループが引きつけて戦ってるみたいだしね。浅い所はあっちのグループを優先で、俺らは先に進もう。
「……なんだか俺もウナギ食いたくなってきた」
「……アルマースさんもか。俺もだ」
「なんだ、マムシさんもか」
「まぁ話題に出されますと食べたくなりますよね」
「水月、俺も食いたい!」
「アーサーまでですか。……そうですね、お祖父様とお祖母様に相談してみましょうか」
「そういや爺ちゃんがたまに釣ってきてたっけ!」
「うー!? みんな、いいなー!?」
当たり前のようにシュウさんや水月さんがウナギを釣ってくる前提で話してるけど、そんなに釣れるものなのか? うーん、釣りはした事ないからさっぱりだ。
うん、恨めしそうな様子で俺を見てきてもどうしようもないからな、ハーレさん! その辺の要望は母さんに直接言ってくれ!
そんなウナギ談義を繰り広げながら先へと進んでいく。近くに小島の1つが存在しているから、そこは避けるように進む必要もあった。まぁ小島があるって事はその場所は浅くなってるって事だし、そこは避けていかないとね。
でも少しずつ深くなって、月灯りも届かなくなってきたので目標の方向が分かりにくくなってきた。常闇の洞窟ほど視界は悪くないけど、それでも見やすいとは言えないな。
「あ、アルマースさん、もうちょい左に進路変更お願い」
「おうよ。こんなもんか?」
「うん、そんなものだね。あ、ケイさん、本格的にその懐中電灯モドキの活用をお願いしてもいい?」
「ほいよ。どういう風に照らせばいい?」
「えっと、ケイさんの視界の前方向全体が照らされるくらいでお願い出来る?」
「了解っと」
そういう風に、予め事前調査をしていた弥生さん達の案内に従っていく。さっきまではあまり意味のない操作をしても仕方なかったから適当に操作していた懐中電灯モドキだけど、ようやく出番のようである。
さて、弥生さんの指示に従って俺の視界が全部灯りに照らされる感じで大雑把に光を収束していく。収束し過ぎないように、適度に拡散させつつ前方を照らして……よし、こんなもんかな。
「弥生さん、こんなもんでいいか?」
「うん、問題ないよー!」
「これは中々に便利だね。でも真似をするのは意外と難しそうだ」
「あ、そういやシュウさんも光の操作は持ってるって言ってたっけ? え、そんなに難しい?」
「うん、そうだよ。今の僕にはケイさんほどは便利に使えそうにないね。それはコケが必須だろう?」
「あー、まぁそうなるのかな?」
小石だけを飛ばしても光源にはならないから、そこに纏わせて発光させたコケは必須だろう。でもネコだとそれは出来ないか……。光源を視界に入れていなければ基本的に光の操作の対象にならないし、意外とこれは難しかったりするのかもしれない。
シュウさんに言われるまであまり気にしていなかったけど、この辺はコケの優位な点なのかもね。コケ単体は森林エリアとかでは猛威を振るえるけど、共生進化や支配進化で他の種族と組み合わせると出来る事の多様性が増すといった感じか。
ふむ、薄々感じてはいたけどもコケって、どちらかというとメインキャラのサポート向きの種族なんだろうな。フーリエさんみたいに物理向けの進化が出来ない訳じゃないみたいだし、魔法での高火力を出すのは可能なのは俺自身がよく知っている。まぁこの辺は育て方次第か。
「あ、そろそろ一気に深くなるから気をつけて。ルスト、樹洞をお願いね。灰の群集のみんなはアルマースさんから落ちないようにね」
「はい、分かりました。『樹洞展開』!」
「はーい!」
「うん、分かったかな」
「翡翠さん、私達は葉に掴まってようか」
「……うん!」
みんなはみんなで準備はしていってるね。さてと、ちょっとアルをからかってみようかな。何となくそんな気分になってきたしね。
「アル、間違っても落ちるなよ?」
「クジラが水中で泳いでてどうやったら落ちるんだよ!? ケイだけ振り落とすぞ!」
「ふっふっふ、やれるものならやってみろ! 水の操作で巻き込んでやる!」
「水の昇華持ちのケイだと本気で出来そうだな、おい!?」
ふっふっふ、俺の主戦力である水は周りに溢れているからな。水流の操作でアルを流す事くらい造作もない! 実際に振り落とされても水中ならどうとでもなるからな。
「……え、そんな事になるの……? 仲良いんじゃなかったの……?」
あ、翡翠さんが困惑してしまってるし、悪ふざけはこれくらいにして……ぐふっ!? 何か頭部に衝撃が……。振り返ってみれば、そこには爪を叩きつけてきたサヤの姿があった。あー、ちょっとやり過ぎた?
「ケイ、悪ふざけも程々にかな? 翡翠さんが戸惑ってるよ」
「……すいませんでした。翡翠さん、さっきのただの冗談だから」
「まぁ、たまにあるケイの悪ふざけだな」
「……なんだ、ただのじゃれ合いなんだね」
「あーうん、言い方はあれだけど間違ってはいないか」
しょうもない悪ふざけでサヤに怒られたけども、まぁ翡翠さんを困惑させてしまったし怒られても仕方ないな。悪ふざけをするなら、完全にいつもの5人だけの時の方が良いっぽいね。
「コケのアニキ達、準備はいいの?」
「おう、一気に動くわけじゃないし、アルに乗ってるだけだからな」
「まぁそうなるな。この辺は泳げる種族の特権だな」
「あ、そっか。そうなるんだ!」
「ところで、そっちはどうやって行くんだ? 一気に深くなるんだよな?」
ルストさんが樹洞を展開してその中に入っていってるようだけど、その後どうするんだろ? そして1人残されているマムシさんは……普通に水中は泳げるみたいだし問題ないか。
「私が根でしがみつきながら降りていくつもりですが……」
「あー、そういう移動か。……アルマースさん、ちょっといいか?」
「どうした、マムシさん?」
「ルストさんを俺と2人で支えながら降りるのは可能か?」
「……俺1人なら怪しいが、マムシさんと2人でならいけるかもな」
「って事だが、ルストさんどうする?」
「それは助かりますが、よろしいのですか?」
「今は一緒の連結PTなんだ。協力すんのは当たり前だろ?」
「……そうですね。そういう事ならお願いします。それでどこに掴まれば宜しいですか?」
「俺の方は尻尾でいいぞ」
「俺は胴体の真ん中辺りが安定するだろうな」
「ではそのように。『根の操作』!」
そんなやり取りを経て、ルストさんがアルの尻尾とマムシさんの胴体に根を巻き付けて固定していく。これなら安全にみんなで一気に移動出来るね。さーて、深いところへ行ってみようじゃないか!
改めて深くなっている場所を見てみれば、崖というよりは急斜面っていう感じかな。これならルストさんがしがみつきながらでも確かに降りられるかな。でも泳いでいくほうが安全で早そうだしね。
そうして急激に深くなる場所をクジラと大蛇と、それらに掴まった木で潜っていく。どんどん潜っていけば一気に暗くなってきた。そしてそんなに時間もかからずに極端な傾斜はなくなっていく。そろそろ傾斜も終わりかな?
「ケイさん、とりあえずグルッと周りを照らして見てくれない?」
「ほいよ。何か見つけたら、ストップって言ってくれな!」
「みんな、そういう事でよろしくねー!」
「はーい! さーて、何がいるかなー!?」
傾斜を降りきって弥生さんの指示を受け、本格的な探索の開始である。俺の懐中電灯モドキを動かしてグルッと周囲を照らしていく。もう湖面からの灯りは届いていないので、この懐中電灯モドキはかなり有用だね。
「さーて、ここからは私達も殆ど探索出来てないからね。みんな、周囲に注意してねー!」
「そうだね。首長竜も1体だけとも限らないし、それ以外の未知のものもいるかもしれないからね」
「何がいるかなー!?」
どうやら赤のサファリ同盟というか、昨日の事前調査でもここまでは来てもそれ以上に探索は出来ていなかったようである。さて、まだ殆ど未知のエリアだし気を引き締めて調査していこう!
ふむふむ、弥生さんに言われたように周囲をグルッと照らしてみているけども、そこそこ離れた位置に何匹か魚はいるっぽいな。何か一般生物っぽくない気もするけども、距離が離れているからはっきりとは分からないか。発見報酬が出るにしても距離がまだありすぎるっぽい。
周辺の確認が終わったら、ちょっと離れたあの辺の魚に仕掛けてみるか。先行しているというか俺らが遅れただけだけど、まだ未討伐の黒の暴走種かどうかは戦ってみないと分からないしね。
 




