第271話 馬鹿を演じた愚か者
ランダムリスポーンをしていったクマの位置を確認してみれば、割とすぐ近くだったようである。即座にその場所に向かってみればオオカミ組と中継入っていた木のプレイヤーがいた。
「ちっ! 伏兵を仕込んでやがったか!?」
「俺らは戦う予定ないっすよ」
「んなもん知るか! あのオオカミとコケはどこだ!?」
「待ってりゃ来るっすよ?」
「へぇ、来るのかよ。良いぜ、待っててやるよ」
「……なんで負けたのにそんなに偉そうなんすか?」
「はっ、あんなもん2対1で向こうがズルしてたからに決まってんだろ!」
「……とか言ってますけど、どうするっすか?」
また無茶苦茶な事を言っているようである。あれだけ一方的に負けたのに、本気で自分の実力じゃなくて2対1が全てだとでも思うというのはいくら何でも馬鹿過ぎないか? やっぱり妙だな。それをわざわざオオカミ組に言う理由はなんだ?
「はっ、来やがったか、卑怯者ども!」
「いや、2人同時にかかってこいって言ったのお前だろ……」
「……今度は1対1で徹底的に叩き潰してやるから覚悟しろ。ケイ、ここは俺がやる」
「あー、任せた」
「はっ! 今度こそぶっ倒してやる!」
「……御託は良いからさっさとかかってこい」
そこからはベスタによる一方的な殲滅が始まった。コケ渡りで方向を読ませない高威力の攻撃を何発も食らわせていく。もう一方的過ぎて表現のしようがない。
あえて言うのであれば、クマがサンドバッグになっているという事くらいであろう。……ベスタはとんでもなく強いとはいえ、やっぱりいくらなんでも一方的過ぎる気がする。
「な、に……!?」
「これで2回目だ。『重硬爪撃』!」
「……分かった……ぞ! てめぇら……!?」
トドメには今度は応用スキルのチャージ技で仕留めていた。地面に亀裂が入っているのがその1撃の威力の凄まじさを物語っている。銀光を纏っていたから、多分応用スキルで合ってるよな? ベスタは単発チャージと連撃の応用スキルをどっちも持ってるのか。
それにしても何が分かったんだ? あの感じだとろくでもない事を言いそうな感じだけど、やっぱりわざとらしい。
「……やはり何か妙だな」
「……だよな。ベスタがわざと作った盛大な隙を見逃してたし」
「ケイのPTレベルならあからさま過ぎて狙ってこないだろうが、そうでもなければ狙ってきそうなもんだがな。……これは何かあるぞ」
「……何かまでは分からないけど、そうだろうね」
何か妙なものを感じながらも再びクマを倒すために移動開始する。これっていつになったら終わるんだ? 何かありそうな気配はしてるけど、それが何かが分からないし、挑発してくるのも鬱陶しい。あの調子で赤の群集を荒らしていたっていうのは、さぞかし鬱陶しくて関わりたくもないだろう。
すごい勢いで赤の群集の人達の気持ちが良く分かってきた。もうとにかくさっさと終わらせて、共闘イベントに戻りたい。
<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 50/50 → 48/48(上限値使用:6)
今度のランダムリスポーンの位置は少し離れていたので、水のカーペットでベスタも乗せて一気に飛んでいく。さっさと終わらせたいので最大速度である。
少し経ってそこに辿り着けば、ミズキが半覚醒の不動種だったところの近くだった。そしてオオカミ組と中継の木のプレイヤーが待機している。……クマは逃げるつもりはないらしいが、なんか口論している?
「だから違うつってんだろ!? そんな事、あの2人に言ったらキレるぞ!?」
「キレるって事は疚しい事があるって事だろうが! おっ?」
「あちゃー、もう来ちゃったか。流石に移動が早いな……。俺はどうなっても知らねぇっと……」
何か妙な事になってる気もするけど、一体何がどうなってるんだ? オオカミ組の人は何に怯えて、木の影に隠れているんだ……? ……それに、また口論? いやいや、ホントに何が目的だ、こいつ?
「やっぱりじゃねぇか! あんなもん、見たことも聞いたこともねぇ! てめぇら、チート使ってんな!?」
「はぁ!?」
「……今度はそう来たか。はぁ、この茶番はいい加減終わらせるぞ」
「……そうだな」
「なら、ぶっ潰してこい。丁度良いものもあるしな」
「おう」
ここなら見える位置に岩があるし丁度いいや。叩き潰して焼いてやる。あぁ、オオカミ組が怯えているのはキレたベスタに対してか。……ま、今回はその心配はいらないだろう。
<行動値上限を2使用と魔力値4消費して『魔力集中Lv2』を発動します> 行動値 48/48 → 46/46(上限値使用:8): 魔力値 110/114 :効果時間 12分
<行動値1と魔力値4消費して『火魔法Lv1:ファイアクリエイト』を発動します> 行動値 45/46(上限値使用:8): 魔力値 106/114
<行動値上限を1使用と魔力値2消費して『操作属性付与Lv1』を発動します> 行動値 45/46 → 45/45(上限値使用:9): 魔力値 104/114
これでハサミに火を纏わせた。さて、最終確認といこうか。……さっきのチート発言で何となくだけど、目的が見えてきた。こいつ、俺らを怒らせるのが目的だな。
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値を19消費して『岩の操作Lv3』は並列発動の待機になります> 行動値 26/45(上限値使用:9)
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値を20消費して『殴打重衝撃v1・火』は並列発動の待機になります> 行動値 6/45(上限値使用:9)
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
<『殴打重衝撃Lv1・火』のチャージを開始します>
「はっ! 大量のスキルの同時発動のチートってか!」
「ふざけんな! 仕様の範囲でしか使ってないわ!」
岩の操作は完了。そしてチャージも開始である。そもそもそんなチートのやり方なんか知らねぇよ! 岩を操作してクマを殴りつけていく。
「くっ! うっ!? ぐはっ!?」
上手く避けきれないのか、何度も何度も叩きつけてHPもどんどんと減っていく。……やっぱりそうなったか。いくら何でも上手く決まり過ぎだ。いくら大口を叩く馬鹿だとしても、いやだからこそ無意味にでも妙な動きをして足掻くはず。
こんなに綺麗に決まり続けるはずがない。……今みたいに避ける隙を思いっきり作ったのに、盛大に決まった上に無様に転倒するなんてのもあり得ない。
<『殴打重衝撃Lv1・火』のチャージが完了しました>
「はっ、チートで勝って楽しいか! おい!」
「あぁ、そうかよ!」
そしてクマに向かって水のカーペットから飛び降り、ハサミを叩きつける。……仰向けに転倒しているクマの頭の横に。この状況で仕留めてなんてやるものか。
いくら俺達を怒らせる為の挑発でも、自力だったり、みんなの検証の結果をチート呼ばわりは絶対に許さん! これ以上、こいつの相手をして……いや、こいつの思い通りに動かされてたまるか。
「な……に……?」
「ベスタ、中断だ。これ以上こんな茶番に付き合ってられるか!」
「それもそうだな。すまん、少しの間だけ中継を切って……いや、ただ切ると怪しまれるか」
「……なんかありそうだな。黒の残滓強化種の不意打ちを受けて途切れた事にしておくわ」
「そうか、ありがとよ」
「ちっ……」
近くの木の中継の人も何か事情があるのを察したのか、中継を切ってくれたようである。
さてと、こいつの目的を問い質そうか。赤の群集を荒らしてた元凶がわざわざ俺らに何度も倒されにやってくる理由はなんだ? 卑怯だの、チートだの、わざわざ俺らを怒らせるような言葉ばっかり選んでたしな。
「で、一体何の真似だ?」
「こんだけボロクソに倒されまくったらそりゃーー」
「そういう意味じゃねぇよ。なんでわざわざ倒されにやってきた?」
「……何言ってんだか、さっぱりなんだが?」
ベスタが聞き出そうとするが、どうやら恍けて誤魔化すつもりらしい。まぁ誤魔化されてやるつもりは一切ない。違和感の正体も大体分かった。こいつはわざと俺達を怒らせようとしていて、俺らに勝つ気は一切ない。それが違和感の正体。
「……お前、チートだとか卑怯だとか欠片もそんなこと思ってないだろ?」
「…………」
「ついでに言えば、自分が俺らより強いとも思ってないよな?」
「……全部お見通しかよ」
「全部分かってる訳じゃないけどな。さっきベスタが聞いたけど、改めて聞くぞ。なんで倒されにやってきた?」
「……元凶の俺が大馬鹿な愚か者として明確に見える形で処罰されねぇと、ルアーが赤の群集を立て直すのが難しいだろ」
「はい? 元凶として倒されに来たってことか?」
元凶が一体何を言い出してるんだ? 立て直さないといけないような状況を作り出したのはそもそも……いや、もしかしてあの事態はこいつの本意ではなかった……? そうなると、こいつ自身の目的は赤の群集を荒らす事ではなくて……。
「……ちっ、そういう事か。ルアーが俺に負けたのをきっかけにして、裏に引っ込んでる強い連中を引っ張り出そうとしてしくじったな?」
「……ははっ、ご明察。まさしくその通りだ。灰の群集が強過ぎると判断したから、赤の群集の全体の強化を狙ってたんだがな。引っ張り出そうとした連中には全然相手にされず、むしろ害悪な連中が大量に釣れ過ぎた。……ルアーを筆頭に、赤の群集の連中には悪い事をしちまったな……」
「目的の強い奴らは引っ張り出せず、マナーの悪いやつを引っ張り出し過ぎて目論見が外れたって……ルアーはその事は知ってるのか?」
「ルアーは知らないさ。これは俺が独断で仕掛けて、盛大に失敗したってだけの話だ。……責任は全て俺にある」
「……自分だけの責任……か」
あー、こりゃ参ったな。こっちの力量が分かってなかったんじゃなくて、分かってたからこそ増強が必要だと判断したのか。そして普通に呼びかけたんじゃ出てきそうにないから、煽る形で引っ張り出そうとしたらマナーの悪い便乗犯が大量発生して収拾がつかなくなってしまったってとこか。
ただ自分が居なくなるだけで終わらせずに俺達に倒されに来たのはルアーの名誉回復の為。赤の群集の結束を強める為。そして何よりマナーの悪い連中がこれ以上の騒動を起こさない様に道化を演じて、何も分かっていない大馬鹿者として自分自身を片付ける為か。
これはどうしたもんかな。ただの馬鹿なら仕留めて終わりか、それこそチートとかの暴言を運営に通報して終わらせても良かったんだけど、これじゃそれはやりにくくなってしまった。
「……ケイさんとベスタさんにも迷惑をかけているのは重々承知している。だけど、これだけ盛大に迷惑をかけた以上はもう他に手段はない。虫のいい頼みだってのは分かっている。だけど、何も分かっていない大馬鹿の愚か者として無残に終わらせて欲しい」
「ふん、お前を愚か者として処分するなんて話はお断りだ」
「……そう……か。それも仕方ねぇ話だよな。それならもうーー」
「お前、このままゲームから消える気だろ?」
「……まだやっていたいけど、これだけ迷惑かけたんだ。そういう訳にもいかねぇよ。俺に居場所はもうない」
何となくそんな気はしてたけど、このまま負けた後にゲームを辞める気なんだな。これ、このまま進めたら確実に後味悪いやつじゃん。あーどうしようか。
「まぁ灰の群集に来いとも青の群集に行けとも言えねぇな。本意がどうであれ、やった事はやった事だ」
「分かっている! だから!」
「だから、逃げるのか? 後始末をルアーに押し付けて?」
「そ、そんなつもりは!?」
うっわ、ベスタも容赦ないな。……でも、実際にその通りではある。責任を取るとは言っても、実際にはゲームを辞めて居なくなるだけだ。ルアーの名誉回復は出来たとしても、その後の立て直しには苦労するだろう。
「1つだけ提案してやろう。改心した事にして、群集無所属で動く気はあるか?」
「……なに? どういう事だ?」
「筋書きはこうだ。『俺達にボロボロに負けた事と、居場所が無くなった事を理由に自分の大馬鹿さを自覚し、群集を離脱。それでも負けず嫌いは直せず、俺らへのリベンジを目的に無所属で活動する。その過程で信頼を積み重ねていく』ってところか」
「……いいのか、それで? 俺は続けていても良いのか?」
「続けたいのならば続ければいい。まぁ信頼を取り戻せるかはお前次第だがな? それが出来たのなら、それから赤の群集への詫びでもなんでもすればいい」
あー、群集から抜ける事が出来るようになったからこそ出来る事か。ベスタもなんだかんだで甘いとこがあるね。まぁ、俺も賛成ではあるけども。
多分群集に無所属というのは大変なんだろうけど、それなら貢献する方法もありそうではある。そういや無所属ってダメージ判定はどうなるんだ? ……場合によっては無所属という事が最大の強みを発揮する可能性すらありそうだ。
「……それが可能なら俺はそれを望みたい。だけど……」
「ルアー達が気になるってか?」
「……あぁ。俺は盛大に間違えた。それを許してくれなんて事は言えねぇ……」
「だそうだが、ルアーとしてはどうだ? ついでにガストの意見も聞いておこうか」
「……え?」
そして少し前から木の葉の中に隠れていたルアーとガストさんが姿を表してきた。ま、PT会話で状況が分かるように意図的に話してたからね。大体の事情は把握しているだろう。
「……まったく、そんな事を考えてたのかよ」
「ルアー!? すまん、俺は……!」
「大体はケイとベスタとのPT会話で内容は把握している」
「ったく、あの騒動の事の顛末ってのはこういう事かよ。……ベスタさんのその提案を俺は支持するぜ」
「……ガスト、良いのか?」
「……少なからず面倒くさがって引っ込んでた俺らにも一因はあるみたいだしな。まぁやった事はやった事だから流石に赤の群集にいろとは言えねぇが……」
「名目上は俺が赤の群集を追い出した事にしておく。その俺が手助けを求めてもおかしくないくらいまで強くなってこい!」
「……すまない、みんな。……ありがとう」
これでとりあえず問題解決ってところか。ただし、これは表には出せない裏取引みたいなもんだな。さてと、そうなるとそれ相応に見栄えを整えなきゃならない。最後は盛大に散らせてあげようじゃないか。




