第269話 不動種の役割
桜花さんは桜の木に辿り着くとすぐに小鳥から桜の木へとログインし直してきた。小鳥はまだ幼生体だけど進化させてからアイテム取引の出張用のキャラにするとの事。桜の木は未成体に進化は出来るけど、まだ成長体で止めているらしい。小鳥と共生進化をさせたいとの事である。
今の状態で小石を周りで飛ばすのもあれだし、折角の夜桜なので3つの小石を桜花さんの枝にセットしてライトアップしておこう。うん、中々良い感じ。そして少し夜桜見物をしながら待っていれば、桜花さんは桜の木でログインして戻ってきた。
「おう、待たせた! ん? なんで明るい?」
「桜花さん、おかえり。あーさっき飛ばしてた小石でライトアップしてみた」
「ほう、そりゃいいな。へぇ、石についたコケが光ってるのか」
「回収したほうが良いなら、回収するけどどうする?」
「あー、折角だし、いる間は照らしといてくれや」
「ほいよ。それで用事ってのは?」
「そうだな、本題に移ろう。さてケイさん、俺は青の群集から移籍してきて約1日経った訳だが!」
「まぁそうなるのか」
「とりあえず色々整理が終わったから、お礼は好きな小結晶を3個でどうだ!」
「はい!? いや桜花さん、それはいくらなんでも多くないか? え、移籍してきたばっかだよな?」
「おうとも! これでも青の群集では結構人気あったんだぜ! まぁ大半のアイテムは青の群集の連中から貰ったもんだから、9割くらいは置いてきたけどな!」
「……マジか」
「ま、百聞は一見にしかずってな。実物を見せた方が早いだろうし、行くぜ。『樹洞展開』!」
思っていた以上に桜花さんは青の群集で色々やっていたらしい。そして樹洞展開により、桜の木の内部へと入れる様になっていく。……アル以外の木の中に行くのは地味に初めてかもしれない。灰の群集にそれほど親しい不動種の人って地味に居ないんだよな。どれどれ、どんなもんだろう?
「うお!? 意外と広い!?」
「そりゃ不動種は50人まで入れるからな! 灯りもつけとくぜ。『発光』!」
「それ、マジか!?」
「おう、マジでだ!」
「クジラとかデカいのはどうなんの!?」
「クジラは試した事ないが、他の不動種に試しで入ってみて貰った時には自動的に小さくなったぜ!」
「なるほど、ゲームの不思議仕様ってとこか」
「そういうこったな!」
中に入ってみればアルの樹洞展開とは大きく違っていて、広々とした空間になっていた。普通にクジラも1匹丸々入れそうなくらいの広さだな。そしてゲーム的な処理で大型の種族は小型化されるようである。天井に当たる部分からは暖かな光が放たれ内部を照らし出していた。移動種と比べるとこんなに違うものなんだな。
これが不動種の中か。流石に机や椅子みたいなものはなく、平坦ではあるけどもそれは仕方ないだろう。そもそも道具がないしね。
「椅子代わりになる岩か、丸太でも欲しいとは思ってるんだがなー。もしケイさんがその辺手に入るなら、色々アイテムと交換するぜ? ま、もうちょいこっちに馴染んでアイテムの在庫が増えてからにはなるけどな」
「ほう? そりゃいい話を聞いた」
「お、なんか心当たりがありそうな感じの反応だな!?」
「まぁな。岩なら持ってこれるぞ?」
「え、マジか!? 大きさ的に無理なん……いや、もしかしてケイさん、岩の操作を持ってんのか!」
「持ってるぞ。でもここに入るのか?」
「そりゃ大丈夫だ! 岩はまだ試した事ないが、整備クエスト用の板で椅子代わりにはしてたからな! あいにく移籍する時に不動種固有っぽいけど重量による移動制限ってのに引っかかって破棄するしかなかったんだが、樹洞の中に持ち込んでも問題ないのは確認済みだ!」
どうやら考えなしで陸路を突っ切って来た桜花さんは、色々青の群集に置いてきた物もあるらしい。というか、不動種には移動の際に重量の制限があるんだ。……あれ、これだけやってた不動種の人の移籍って地味に青の群集にとっては痛手なのでは……?
「桜花さん、移籍してきて大丈夫だったのか?」
「あー、大丈夫だ。青の群集の森林なら問題ねぇよ。他なら分からんけど」
「え、なんで?」
「確か掲示板で話題が出た事あったんじゃねぇかな? 『寡黙な木』って言われてるとんでもねぇ不動種の人がいるんだよ」
「あーその人、覚えがあるかも」
そういやそんな人の書き込みを見た事がある。寡黙な不動種の人だけど、品揃えはかなり良いとかなんとか。そうか、桜花さんはそこのエリアから来てるって事になるんだよな。もしかしたらその辺の事もあって灰の群集へ……いや、それに関してはただ来たかっただけって気がする。なんとなくだけど。
「さて、ケイさん。ここからが不動種の真骨頂だ。『アイテム投影』!」
「おぉ!? これ、進化の軌跡か!」
「その見本だな。不動種用の『不動の倉庫』ってアイテム保管用のインベントリがあるんだが、その中身を投影出来るって優れものよ!」
目の前の床に置かれた色とりどりの進化の軌跡が目に入る。なるほど、これは不動種は重要なんだな。完全に商人プレイヤーって感じじゃないか。それに中継も……あれ? でも不動種の人とはあんまりやり取りがないので分からないけど、中継って大体外でやってるよな。これだけ中が広いなら、中でやった方が良い気もするけど。
「なぁ、桜花さん? 中継を外部でやってるのはたまに観るけど、あれは内部じゃ出来ないのか?」
「あー、あれか。どっちでもいけるっていうか、大体内部と外部で両方やってるな」
「あ、そうなんだ?」
「意外とケイさんって不動種の事は知らないのな? 中継ってどこの群集でもやってんじゃねぇの?」
「……中継を見る側じゃなくて、中継される事の方が多いもんで」
「あー! そりゃそうだ! 主戦力ならそうなるわな! こりゃ失敬した!」
たまには中継をがっつり見てみたいとは思ってるけど、その機会がないんだよな。大体中継される方に参加してるから、見ようがないっていうね。
「ま、不動種で知りたい事や何か欲しいアイテムでもあれば言ってくれ!」
「まぁそういう事なら何かあれば頼むよ」
「おう、任せとけ! で、本題だがお礼の小結晶は何が良いよ? 投影してんのは欠片の方だが、今手に入る全種類を最低でも5個ずつは小結晶を用意してるからな」
「……流石に3個は貰い過ぎな気がするんだけど」
「いやいや、あそこで助けてもらってなけりゃここに辿り着けてねぇからな。これでも足りねぇかなって思ってるくらいだぜ?」
「うーん……あ、悪い。ハーレさんからフレンドコールだ」
「おう! お、それなら時間がありそうなら来てもらえねぇか?」
「ほいよ。そう言ってみるわ」
丁度いいタイミングでフレンドコールが来たものだ。みんな揃ったら呼んでくれって伝えたから、サヤとヨッシさんもいるだろう。あの時はサヤとハーレさんも居たから無関係ではないしね。という事で、フレンドコールに出よう。
「あ、ケイさん! みんな集まったから合流しよー!」
「連絡サンキュー。ちなみに今は何処にいる?」
「エンの前だよー! ケイさんは!?」
「ちょっと用事があるって事で桜花さんのとこ。ハーレさんとサヤにも用事があるから来てほしいって言ってるけど、こっちに来れるか?」
「私は大丈夫さー! サヤ、ヨッシ! ケイさんが桜花さんのとこに来れないかって言ってるけど大丈夫!? うん、大丈夫だね、分かったよ! という事です!」
今確認してくれているようである。まぁ聞いた感じでは大丈夫そうだけどね。桜花さんの植わっているここはエンからも結構近いので、移動するにしてもそれ程時間は掛からないだろう。……お礼については俺1人では決めかねるし、明らかに貰い過ぎな感じもするからみんなを巻き込んで一緒に考えたいとこである。
あ、でもこの場合ってあの時いなかったヨッシさんはどうしよう……? まぁ来てから考えようか。
「これから向かうねー!」
「おう、待ってるわ!」
「それじゃ後でね!」
そしてハーレさんはフレンドコールを切っていった。少し待てばみんなここまでやってくるだろう。そこへリスの人がやってきた。……って、灰のサファリ同盟のラックさんじゃないか。なんだ、知り合いだったんだ。
「桜花さん、お邪魔するよ。って、ケイさんじゃん。何やってるの? あ、表のライトアップはケイさんの仕業だね」
「いや、個人的な用事でな? ライトアップは正解だけど」
「おう、ラックさん。ケイさんがここに来る際に助けてくれた人だぜ」
「あー言ってたね。そっか、あれはケイさん達の事だったのかー。って事はハーレも?」
「ん? ラックさんもハーレさんの事、知ってんのか?」
「まぁね。ま、いいや。今はお邪魔のようだし、後で出直すよ」
ラックさんも桜花さんに何か用事があったようだけど、俺達の方を優先してくれるらしい。まぁこっちも急ぎじゃないし、ハーレさん達が来るまでする事もないんだけどな。うーん、どうしようこの状況。
「あー! ラックさん発見!」
「え、ハーレ? さんは要らないって今日言ったよね」
「あぅ、そうだった! ラック、何やってるのー!?」
「桜花さんと灰のサファリ同盟でのアイテム関係の提携の話かな。ハーレは?」
「呼ばれたから来ただけ! まだ内容は知らないー!」
いつの間にやら入り口の所へハーレさん達がやってきていた。そういやハーレさんとラックさんが高校での同級生だと判明したんだっけ。それに合わせてさん付けはなしか。
それにしてもサヤとヨッシさんは中へ入ってきたのに、地味にハーレさんが入ってこないで目線が上に向いているのは気のせいか……? あ、スクショ撮ってるな、これ。
「おう、用事があるのは俺の方だ。サヤさんとハーレさんにもお礼を渡そうかと思ってな!」
「それほど大した事はしてないよー!?」
「うん、そうだよ。……とりあえずハーレは中に入ってこようかな?」
「はーい!」
「いやいや、それじゃ俺の気が済まないんだよ。それぞれに小結晶3個をお礼として進呈するぜ!」
「いや、桜花さん。やっぱりそれは貰い過ぎだって」
「そういう話になってたのー!?」
「そうみたいだね。うん、私も貰い過ぎな気がするかな」
「あー、これは私は関係なさそうだね」
サヤもそう思うようである。流石に送り届けるのと、樹の欠片1個で小結晶を各自3個ずつは確実に貰い過ぎだ。……まぁお礼をしたいという桜花さんの気持ち自体は有り難いんだけどさ。ヨッシさんは関係ない話になっているので、どことなくつまらなさそうである。
「横からで悪いんだけど、桜花さんそれはちょっとやり過ぎ」
「そうか? 俺はこれでも足りないくらいだと思ってるんだが……」
「それならこれから先も色々と支援で良くない? お礼で萎縮させちゃ逆効果だよ。それにケイさん達は5人PTだからね」
「……確かに一理あるか。よし、それじゃケイさん達のPTへ合計5個の小結晶ってのでどうだ?」
「まぁ、そのくらいなら良いか」
「それくらいなら良いかな?」
「それなら良いさー!」
3人で9個で貰い過ぎよりは5人で1個ずつの方が気持ち的には楽である。PTでの共有アイテムとして持っておくのが良いかもしれないし、現状でヨッシさんを蚊帳の外にする事もなくなる。ラックさん、偶然だけど居合わせてくれてありがとう。
「よし、お礼はケイさん達のPTへ5個って事で決定な! 数ならどれでも足りるから好きなのを選んでくれ!」
「んー、みんな何が良いかな?」
「あ、これって私が混ざっても良いの?」
「ヨッシ、もちろんだよ!」
「それなら遠慮なく。どれが良いかな?」
納得の出来る範囲にはなったので、みんなで種類選びである。もちろんPTとして貰うのでヨッシさんにも選んで貰う事になるね。……アルにも選んで欲しいとこだけど、いないものは仕方ないから代理で選んでおこう。
「ほらね、桜花さん。感謝したい気持ちは分かるけど、PTで動いてる相手なんだからその辺も考慮しないとね」
「……確かにそうだったみたいだ。いかんな、ついやり過ぎて逆に困らせちまってたか」
「行動力があるのは良いけど、その辺は気を付けなよ? あ、ところで提携の件は考えてくれた?」
「あぁ、それは願ったりだぜ。灰のサファリ同盟の生産物をここで取り扱えば良いんだよな」
「そうそう。あちこちに頼んでいるけど、色々育ってきたから拠点移動を始めてる不動種の人も多いからさー。ここ、場所としては良い場所なんだけどね」
「移動するからって譲ってもらった場所だしな。俺としても有り難い話だ。実験的なアイテムの試用感想を纏めつつ、アイテムと進化の軌跡との交換で良いんだよな?」
「うん、それでよろしく。あ、もし癒水草の持ち込みあったら優先的に入手もお願い。栽培も可能みたいだからさ」
「おう、分かったぜ」
みんなで何が良いかを考えながら、聞こえてくる桜花さんとラックさんの会話内容的には実験的に作っているという毒の実や癒水草を使用した回復量を増やしたアイテムの実験的な試験販売ってところか。貨幣じゃないから販売という言葉は間違っている気もするけど。
そっか、桜花さんは元々ここにいた不動種の人が移動するから場所を譲って貰ったのか。なるほど、確かに群集拠点種に近い場所だから結構良い立地だもんな。
さてと、こっちはこっちで話し合いも割とすんなり決まった。みんなが共通して持っていなくて、有用だと思う進化の軌跡があったからね。ここはそれにしておこう。
「桜花さん、決まったぞ」
「お、何になった!?」
「進化の軌跡・癒の小結晶を5個で頼む」
「そうきたか! よっしゃ、癒の小結晶だな!」
他の属性のスキルは何だかんだでみんなが分散して持っているからね。1番用途がありそうなのはこれだろう。桜花さんからみんな1個ずつ受け取って、アルの分は夜に先に会いそうなサヤが受け取っておいた。
「それじゃケイさん達、今後ともよろしくな!」
「おう! 何かあった時は頼みに来るわ!」
みんなそこそこに挨拶をして、桜花さんの樹洞から出ていく。さてと、これから今日の共闘イベントに向けて動き出しますか!
「およ? なんか連絡が来たね。へぇ、そういう状況なんだ。既に迎えが行ってるなら、別に私が声はかけなくてもいいかな」
「お、ラックさんどうしたよ?」
「ちょっとね? 内容的には桜花さんがよかったら手伝ってもらおうかな」
「ほう? 話を聞こうじゃねぇか」
樹洞から出ていった直後に何かあったような会話が聞こえてくるけど、まぁ首を突っ込む必要もないな。どこのエリアに行こうかな。昨日と同じ場所か、それとも他の場所か、相談して決めないとね。




