第257話 実力比べ
少し場所を整えてから手合わせという事になった。ハーレさんの実況の要望はあっさり過ぎるほど簡単に許可が下りていた。赤の群集の人達もどうやら興味津々のようである。
「皆様、お待たせしました! これより始まりますのは、灰の群集のコケの人ことケイ選手と赤の群集のタカの人ことガスト選手のエキシビションマッチ! 実況は私、リスのハーレにてお届けします! そして解説とゲストはこちら!」
「はい、解説は木のクジラことアルマースがお送りします。今回はゲストとして赤の群集のルアーさんをお招きしております」
「……何がどうしてこうなった!? まぁいい、何だか知らんが今回はこっちから頼んだ事だから乗ってやる」
という事で、今回はゲストとしてルアーが巻き込まれました。実況席は空中浮遊を切って地面に降りているアルのクジラの背中の上になっていた。ハーレさんは定位置の巣で、ルアーがその横で浮いている。
まぁ今回は俺も許可は出しているし、赤の群集からの許可も得てるので問題ない。……ルアーに関しては何か他の赤の群集の人達に押し切られていた様な気もするけど、問題ないはずである。
あと、これから共闘しようって相手だ。全部は見せられないにしても、多少の手札は見せておいてもいいだろう。こっちも見せてもらうつもりだしね。さて赤の群集の隠れていた人の強さはどんなものか。
「いつも実況とかやってんのか? 灰の群集のリスのプレイヤーが実況してたのを見た事があるってのはさっき聞いたが……」
「あーたまにね?」
そういや不動桜を倒した時の実況は赤の群集の人も見てたっけ。さっき聞いたばかりという事は大々的に広めている訳ではないようである。まぁ荒れてる状態で喧伝するような内容でもないもんな。
「ははっ、楽しそうで良いじゃねぇか! おーい、ルアー! やっぱり俺も灰の群集に移籍してもいいか!?」
「ちょ、おい!? 立て直すのに協力するって名乗り出てきたのはガストの方だろ!?」
「……流石にあの連中相手には矢面に立ちたくなかったからとはいえ、色々と面倒な役回りを押し付けちまったからな。……ま、冗談だ。今のとこは」
「最後の1言が聞き捨てならんのだが!?」
「おーっと、試合開始前に場外乱闘かー!?」
「おっと、これ以上は脱線しちまうな。ルアー、冗談だから気にすんな。完全に安定するまでは居てやるからよ」
「……すごい不安になったぞ、おい!」
ルアーとガストさんのやりとりを聞いている感じだと、やっぱりガストさんがフラムの言っていた結構な情報を持って集まってきた人の1人っぽいな。……警戒度を上げておこう。最低でも青の群集の斬雨さんやジェイさんレベルと想定しておいた方がいい。
「さてと、それじゃ始めるか」
「そうだな。ハーレさん!」
「今ここに戦いの幕が切って落とされたー! エキシビションマッチ、開始です!」
ハーレさんの実況により開始の合図が出された。さてとガストさんがどういう戦い方をしてくるものか、見せてもらおうか。おっと、流石にタカだけあって即座に飛び上がっていくね。まぁ鳥だし、飛ぶのは基本戦法か。
「早速行くぜ。『魔力集中』『ファイアクリエイト』『操作属性付与』!」
「お、火属性か!」
そして翼に火を纏ったタカが誕生する。なるほど、コケの弱点の1つは把握済みな訳だ。それならこっちもそれなりの対応をしないとね。
<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 53/53 → 51/51(上限値使用:2)
このタイミングでこれの誤発動はしようがないので、思考操作で発動する。これで表面のコケを覆って防御にしておいてっと。……まぁまだ防げるかどうか試してないんだけど、実験とはったりも兼ねてこっちで発動。もしこれで1発でも防げれば上出来だ。
「……初手から防御か? いや、違うな。その水は移動操作制御か! それなら『羽飛ばし・火』!」
「あっさり見抜かれた!」
<行動値2と魔力値6消費して『水魔法Lv2:アクアボール』を発動します> 行動値 49/51(上限値使用:2): 魔力値 106/112
火を纏った羽を飛ばしてきたので、水弾で叩き落としておく。うーん、あっさりバレたか。そして迷いなく即座に狙ってきたという事は、これでの防御は1回限りみたいかな。
それにしても水の操作と誤認している間に隙をついて一気に距離を詰めて、近接で畳み掛けるつもりだったんだけどな。流石にそれほど甘くはなさそうだね。
「初手からいきなりの心理戦だー!? どう見ますか、アルマースさん、ルアーさん!?」
「弱点属性に対して思考操作を利用しガスト選手の心理的な行動を制限しようとしたまではいいですが、思いの外あっさりと見破られてしまいましたね。これはガスト選手の観察力のたまものでしょうか。ルアーさんから見ていかがでしょうか?」
「……いきなり初手からどっちもぶっ飛ばし過ぎだろ、おい!」
向こうは飛んでいるしどうしようかな。一気に距離を詰めるか、それとも遠距離から魔法で仕留めるか、それとも……。
「こりゃ一筋縄ではいきそうにねぇな。『高速飛翔』『鷹の爪・火』!」
「おわっ!?」
「おーっと、一気に急降下したガスト選手がケイ選手のザリ……ロブスターのハサミを掴み取ったー!」
「これは目を見張る早業ですね。しかも背後からとは、初見では回避は難しいかもしれません」
「これで身動きは封じた……っていう程甘いとも思えないが……」
後ろに回り込まれて、背後からハサミを掴み取られてぶら下げられてしまった。ジワリジワリとロブスターのHPも減っていき、コケも弱って少し数が減っていく。これはいつまでも捕まってると不味そうだ。
ま、これで大人しく捕まってる気もないし、向きが俺としては都合がいい。避けて避けれない事はなかったけど、近づいてくれる方が好都合ってもんだ。今は1対1で、味方への影響は考える必要はないからね。
<行動値を3消費して『増殖Lv3』を発動します> 行動値 46/51(上限値使用:2)
「……コケを増やしてどうする気だ? 言っとくが、すぐに燃やし尽くすだけだぞ?」
「ご忠告どうも。でも必要ない話だな!」
「……何?」
<行動値を2消費して『閃光Lv2』を発動します> 行動値 44/51(上限値使用:2)
ははは、至近距離からの目潰し閃光をくらえ! コケの表面積が多いほうが効果もあるだろうからな。よし、見事に決まった。
「ちっ! 閃光なんて使い道が限られるもんを持ってんのかよ!?」
「こ、これは眩しい!? 実況や見学もお構いなしの無差別攻撃だー!?」
「……少し解説する身にもなって欲しいものですね。同じ群集であっても効果のある閃光は諸刃の剣ではありますので、使用時には注意が必要です! もうちょっと考えて使っていただきたい」
「俺も見えなくなってるから気持ちは分からんでもないが、実況と解説がそれでいいのか!?」
ここはルアーの意見に1票。1対1の戦闘で味方への影響を考える必要がないなら容赦なく使うまで! 盲目も入ったみたいだし、とりあえず脱出といくか。
<行動値上限を2使用と魔力値4消費して『魔力集中Lv2』を発動します> 行動値 44/51 → 44/49(上限値使用:4): 魔力値 102/112 :効果時間 12分
<行動値1と魔力値4消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 43/49(上限値使用:4): 魔力値 98/112
<行動値上限を1使用と魔力値2消費して『操作属性付与Lv1』を発動します> 行動値 43/49 → 43/48(上限値使用:5): 魔力値 96/112
これで土属性を付与した分だけ少し重くなった筈。……狙い通り、少しだけ拘束が緩んだ。よし、ここだ!
<行動値を3消費して『スリップLv3』を発動します> 行動値 40/48(上限値使用:5)
少しだけ緩んだ拘束をスリップで滑らせる事で、抜け出していく。ふふふ、俺のコケは多少弱ってはいたけど、他のコケよりは少しだけど水属性があるだけ火に強めなんだよ!
「くそっ、抜けられただと!? どこ行った!?」
「あっ、視界が戻ってきましたよ! おおっと!? 少しの間見ていなかっただけで、ケイ選手が脱出しているー!?」
「これはあれですね。コケ固有のスリップの効果でしょう」
「あー、あれか。あれって滑らせて転けさせる以外にも使い道あったんだな。……っていうか、まだ見えねぇ! そういや味方の方が回復早いんだっけか」
はい、大正解! 今のうちに一気に畳み掛ける。閃光は使えないかと思ってたけど、使い方次第では充分有用なスキルじゃないか。とりあえず今のうちに死角に入ろう。
<行動値1と魔力値4消費して『風魔法Lv1:ウィンドクリエイト』を発動します> 行動値 39/48(上限値使用:5): 魔力値 92/112
<行動値を4消費して『風の操作Lv3』を発動します> 行動値 35/51(上限値使用:5)
風魔法を足場に一気に上へと飛び跳ねる。まさかタカの更に上にいるとは思わないだろう。さて、削りきれるかは分からないけども使う手札は決めた。まぁちょっと実験も混ざるけど。
「……ようやく視界が戻ってきたか。……どこに行った? 『鷹の目』! 上か!?」
おっと、そういやタカにはその索敵スキルがあったか。とはいえ、もう遅い。上を取った以上は、これからの攻撃を回避させる気はない。……まぁギャラリーを巻き込まないようにだけは気を付けよう。赤の群集の人を巻き込むと普通に倒しかねないし。
<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 34/48(上限値使用:5): 魔力値 89/112
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値を19消費して『水流の操作Lv3』は並列発動の待機になります> 行動値 15/48(上限値使用:5)
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値を6消費して『水の操作Lv6』は並列発動の待機になります> 行動値 9/48(上限値使用:5)
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
昇華込みの水の操作と水流の操作を解き放つ。お、実験その1は大成功。生成した水量が大量だから、普通の大きさの水弾3発分を水の操作で持っていっても全然問題なかった。残りの水は水流の操作へ回して、あえて今回は水流を絞り過ぎずに調整して勢いをある程度に抑えておく。
ちょっと試したい事があるんだよね。とりあえずタカごとキノコを巻き込んで、キノコを先に潰す!
「ちょ、待っ!? これ、昇華か!?」
「あ、赤の群集でも知ってる人いたのか。ま、大当たりって事でくらっとけ」
「ちょっ!? くっそ! 『ウィンドボール』『ウィンドボム』!」
そしてガストさんは逃げの1択を選んで飛んでいく。とはいえ、ただ逃げるだけではなく水弾を風魔法で吹き飛ばして迎撃はしようとはしてきているけども、それはまぁ手動操作で躱すだけ。わざわざ衝突させる理由もない。
「これは凄まじい展開だー! 空を飛び回避しながら水弾を撃ち落とそうとするガスト選手と、ガスト選手の迎撃を躱し続けるケイ選手の3つの水弾と水流が襲いかかるー! どう見ますか、解説のアルマースさん!」
「ガスト選手の回避も迎撃も非常に高水準ですが、ケイ選手の操作技術がその上を行っていますね。これはガスト選手は防戦一方で厳しいものかと思われます。そしてケイ選手は性質の違う2つの操作スキルを同時に扱うとは相変わらずとんでもない事をしてくれますね」
「……その割には結構平然として見てるのな?」
「慣れましたから! それにしてもガスト選手の観客を巻き込まない範囲での回避というのも凄まじいものがありますね!」
「えぇ、この回避技術は素晴らしいものですね」
「くっ、これは避けーー」
「よし、もらった!」
結構逃げまくられたけどようやく捕まえた。水弾は結局1発も当たらなかったけど、牽制としては使えるな。とりあえずこれでガストさんを水流に流して、上空へと一度持ち上げてから地面に叩きつけていく。
よしよし、水流の操作でも高圧水流まで絞らなくても地面に叩きつければ結構なダメージは出るね。これでHPは半分近くは削ったかな。……でも狙ったのはキノコの筈なんだけど、タカと比べるとダメージ量が圧倒的に少ない。やっぱりこれは俺と同じ支配進化か? あの状況でキノコを守りきったのは凄いな。
とはいえ、タカの方は相当弱らせた。それでも未成体相手になるとどうしても手数が必要になってくるみたいだ。次で駄目なら、回避に専念して行動値の回復が必要になりそうだな。
「おーっと、ここで懸命に水流の操作から逃げ続けたガスト選手がとうとう逃げ切れずに呑まれていったー! そして地面に叩きつけられ、水流に押し潰されていくー!」
「ガスト選手の逃走劇も目を見張るものがありましたが、それを上回るケイ選手の水流の操作からは逃げ切れなかったようですね」
「……なぁ、あの操作精度どうなってんだ? この戦闘、俺の予想の遥か上を行ってんだけど!?」
「ゲストのルアーさんも混乱のご様子だー! だけど、これが私達の日常だー!」
「……まぁ、否定はしませんね。これでもまだまだ手の内は隠している方ですし」
「……とんでもなく強くなってんじゃねぇか……」
なんかルアーが驚いてるけど、まだまだ手の内はあるしまだ切り札は切ってないからな。まぁもう1つ実験も兼ねて、新たな組み合わせと行こうか。って事で、水流の中へと俺自身が飛び込む!
「おおーっと!? なんだー!? ケイ選手が自ら水流の中へと飛び込んだー!?」
「……これは見た事がありませんね。また何か思いついたようです」
「同じPTの味方ですら知らないのもあんのかよ!?」
「いつもの事ですからー!」
「そうなりますね」
「……どうなってんだよ、灰の群集」
さてと可能なら並列制御で同時にと行きたいけど、行動値が足りないから仕方ない。このままガストさんを地面に叩きつけたままで、直前に解除で行こうか。
俺自身が水流の流れに乗って、勢いをつけていく。よし、これは良い感じだな。結構な勢いもついたし、向きの調整も完了。……水流の操作の解除はこのタイミングだ!
「くっ!? 解除されたか! 今のうちにーー」
「逃さねぇよ!」
<行動値を1消費して『鋏強打Lv1・土』を発動します> 行動値 8/48(上限値使用:5)
水流の操作が解除になった瞬間に逃げようとするガストさんに向けて、勢い乗せた鋏強打を叩き込む。削れたHPは1割に満たない程度。……うーん、まだ育成不足だから思ったほどの威力ではなかった。それにしてもキノコ、どこに行った? うまくキノコを逃がすね、ガストさん。
「ケイ選手の強烈な1撃の直撃は入ったー! だがダメージ量はイマイチだー!?」
「まだLv不足のようですね。これが応用スキルであれば良かったのでしょうが……」
「……いや、スキル的に十分過ぎる威力は出てないか?」
「そしてケイ選手、ここから追撃に入るー!」
「相変わらず、敵対者には容赦がありませんね」
「あー、容赦のなさはいつもの事なのか」
なんか色々言われてるけど、別にいいや。とりあえずこの勝負を終わらせないとね。もう1発行っとくか。狙いは頭で朦朧狙い!
<行動値を1消費して『鋏強打Lv1・土』を発動します> 行動値 7/48(上限値使用:5)
よし、頭部に直撃。今のうちに行動値の回復させておくか、追撃で削り切るか……。削り切るには行動値が足りないな。ぐったりとして動けなくなっているみたいだけど、今のうちに回復させておこう。
あ、キノコが尾羽の裏にいた。……ふむ、今のうちにやっぱり仕留める?
「うぁ……。やっべ、朦朧が入った……。おーい、ルアー!」
「……勝負中だぞ、ガスト」
「降参だ、降参! 勝てる気が一切しねぇ!」
え、もう終わり? まだまだ向こうの手の内を見てないし、ガストさんって多分支配進化だよな? まだその辺を全然見てないんだけど!?
「ここでガスト選手の降参宣言だー! 勝者、ケイ選手ー!」
「これは戦意喪失でしょうか?」
「単に力量差を思い知っただけだな。……今の赤の群集でケイに勝てる奴っているのか……?」
「これにてエキシビションマッチは終了となります! 実況はリスことハーレと!」
「解説の木のクジラことアルマースと」
「……ゲストの川魚のルアーで」
「お送り致しました! ではまたの機会があればお会いしましょう!」
あ、ほんとに終わっちゃった。まぁ本人が降参したなら、これ以上は続行無理だよな。うーん、少し物足りないね。新しく使ったのなんて水流の操作を利用した打撃攻撃だけだもんな。……あれはLv上げが必須なのはよく分かったけどもね。




