第二十五話 誕生と雷電
アルバニア帝国ビスマスの街外れにあるラビリンスフォレストと呼ばれる場所。
その鬱蒼と茂る森の中、2つの魔道具による約100mにも及ぶ大きな感知結界と防護結界が張り巡らされている。
さらにその中心地には五角形の形をした不思議な建物が建っている。魔女の住まう家だ。
その建物の中で、今、新たな命が産まれようとしていた。
「ふぅ…ふぅ、ふぅんんん!ふ…ふ…あうううん!」
「もう少し、もう少しですよ!頑張って!」
「く!ん~~!」
「出ました!産まれましたよ!」
エリナレースは子供の産めない体質だった。スキル『剛健』は胎内で育つ子供を殺してしまう恐ろしいデメリットを持つ能力だったのだ。けれど、エリナレースの弟子であるレフィアがスキル封じの魔道具を開発した事で、エリナレースでも子供を産める様になっていた。
「よく頑張った」
「エリーさん、もう腕輪外しても問題ないはずですよ」
レフィアが小さく告げるがエリーは首を横に振る。
目に涙を溜めながら、テラートが優しくエリーを撫でている。
エリナレースは16歳、テラートは30歳になっている。もうすぐ産まれるという報を聞きつけ、助産師として1月前からルチアが、助っ人としてナズナとルイズがラビリンスフォレストを訪れていた。
「まさか、私よりも先にエリーが2人目とはね」
ルチアも33歳、そろそろ難しいかもなと考え始めていた。
さて、この場にいる中でレフィアとテラートの2人はエリーの身体の事情(転生等)を知っているが、ルチア、メル、ナズナ、ルイズの4人は未だ知らない。
腕輪を外すにも全員が出て行ったあとでないと外せない。
テラートはそう思ったのか人払いをする。
「レフィアさん、少しエリーと2人きりになりたいんだが」
「ああ、そうね。邪魔者は消えるわ」
自分も側にいようと思っていたレフィアだったが、テラートの言い訳はその場で1番効率的に作用するので、要求を受け入れた。
だが、隠すにも限界はある。
エリーが今後歳を経るにつれて、それは隠せなくなっていくだろう。
「テラート、そろそろ他の皆にも言っておいた方が良いと思うの。もう、子供も無事に産まれたんだし」
息も絶え絶えで小さな声だが、エリーの言いたい事はしっかりテラートに伝わっていた。
「そうか、僕はどうすれば良い?」
「腕輪を外すつもりはないの……。母乳が出なくなるから」
「なら、もう少し。ステラが大きくなるまで、か」
「うん、そしたら皆に言おう?」
『剛健』は全てを治す。治したくなくともだ。
母親になったエリーの身体をも、母親になる前の健康な身体に戻してしまう。腕輪を外すのは躊躇われた。
産まれたのは女の子。テラートとエリーが相談した結果、『ステラ』と名付けた。最初はベガのときに考えていた『ルナ』にしようと言っていたが、やはり星に関連した名前にしようということになった。
『ステラ』、星という意味の言葉だから、可愛い響きで良いよね?とか2人で話していたのだが、この名前の決定打になったのは、違う名前の候補がないかを考えていた時だった。
異世界の経験を元に、エリーは、「両親の名前から文字を取るのはどうかしら」と提案した。
そして、自分達の名前を見ている時に気付いたのだ。2人は自分達の名前を横に並べた時にハッとなった。
『エリナレース、テラート』となるので、見てみると、ちょうど真ん中にステラがあったのだ。それは2人で、その時見えていた夕焼けの空に一番星を見つけたかの如き興奮だった。
そのことに運命を感じて、女の子なら『ステラ』と。
テラートは直感で女の子だという確信があったが、エリーには伝えずにいた。彼は女の子であることにも運命を感じざるを得なかった。
ベガにはあげられなかったが、今回はステラの授乳期間だけでも、腕輪をしておこうと考えているエリーであった。しかし、ふとテラートが漏らした一言が彼女に疑問を生んだ。
「僕はそれでも良いんだが、レフィアさんは怒りそうだな」
「ん?何でレフィアが怒るの?」
「あー、僕からは直感だとしか言えない」
「そうなの?じゃあ、レフィアを呼んできて貰える?怒るかも知れないって前置きで直接話すわ」
「そうだね、言うなら早いほうが良い」
テラートが出ていくと、しばらくしてレフィアがエリーの部屋に入って来た。
「話って何ですか師匠?」
「あなたは怒るかも知れないけど、あなたの事を信頼してるから、今の私の考えを話すわね」
「急に改まって……なんです?」
「私、ステラが乳飲み子の間は腕輪を取らないでおこうと思ってるの。取ってしまうと母乳が出なくなるでしょう?」
「ああ、でも……私は早く取ってほしいですね」
「え?これを作ったのはあなたでしょう?」
確かにスキル封じの腕輪を作ったのはレフィアだ。エリーは、レフィアの様に魔道具製作者という生き物は、多く使ってもらった方が嬉しいものだと考えているし、このための魔道具だとも思っていた。
しかし、今回ばかりは違った。
「師匠。私、嫌なんです。私が作ったからこそ、私が作ったものが、師匠の自由を奪っているように見えて、嫌なんです。私が作ったコレは決して良いものではないんです。している間はスキルが使えない。拘束具と変わらないんです。これを付けている間に師匠が死んだら、私、どんな顔をすればいいんですか!1年は我慢出来ました!それをもう1年以上?嫌ですよ、私は……」
そのとき、エリーは俯いた。レフィアは私を思うばかりに、腕輪が使われるのを見る度に歯噛みしていたのだ。もし、スキルを封じている間に襲われて命を落としたら、それは自分の責任だって。
もし、これからの約1年と半年。腕輪をしたままステラを抱いて過ごしたら、彼女の心は崩壊してしまうのではないか?それほどまでにレフィアはエリーの事を考えていた。
「ごめんなさい。レフィアがそんなにも心配に心を擦り減らしていたなんて、思わなかった」
「わかってくれたなら良いんです。さ、腕輪を外しましょう」
エリーは逡巡した。ステラには直接愛情を与えてあげたい。
「……レフィア、今日、1日だけ待ってちょうだい」
「はあ、それで外してくれるなら、良いですよ」
「ありがとう」
その後、エリーは自分がどれだけ疲れていようとステラが催促するたびに授乳行為を繰り返した。
「エリー、そろそろ休むんだ。限界だよ」
「今日しかないから、もう少しだけ」
その1日、テラートは少しでもエリーがステラといられるように、様子を見てエリーの体力や血を補うために食べやすい果物などを持ち込んでは食べさせた。
エリーは結局、朝まで起きていた。テラートとレフィアが腕輪を外すまで、エリーは休む事をしなかった。
「師匠、ごめんなさい。でも、これは師匠の為なんです」
エリーが眠りにつく中、レフィアは自分にも言い聞かせるように呟いた。
◇◇◇
気付いたら寝ていた。
私は腕輪が無いことに気付くと、
「ああ、元の身体に戻ったんだ」
『剛健』が発動した。赤ちゃんを産んだ傷が、まるで嘘のように治ってしまっている。
傷が勲章みたいな所あったんだけどな。
ほら、頑張った証的な?
ただ、私が寝るベットの脇にはレフィアが座っており、ステラを抱いているのが見えた。
それが、私にとっては救いだった。
この子がいる。
「起きたんですね、エリーさん」
レフィアの呼び方も元に戻っている。
「テラートは?」
「ずっとエリーさんの隣から離れなかったですから、今頃はリビングのソファでスライムのように寝てますよ」
それを言うなら泥のようにでは?
にしてもテラートには悪い事したな。
今度旅行にでも誘おう。
そういえば、新婚旅行って行ってなかったな。
「ステラはどう?」
「今はおとなしく寝てますが、寝始めが2時間前なので、そろそろ起きるかと」
ベガの時の経験を元にレフィアが推測する。
「今回はしっかり準備出来ましたから、赤ちゃん仕様のボトルに各種玩具、おしめの替えと衝撃吸収手押し車と設備も完璧です」
ベガのときは本当にタイムラグ無かったから、慌てたものね。というか最後のやつは本当に過剰なくらい機能を付けた悪ふざけ手押し車ね。
全てが順調に、本当に幸せ者ね。私は……。
そう考えていたら、ふとリビングの方からドタバタと音がし始めた。
「テラートが起きたみたいね」
「呼んできます」
レフィアが呼びに行こうとすると、慌てた様子でドアを思いっきり開けてテラートが入って来た。
「す、済まない!エリー起きているか!」
「どうしたのよ、そんなに慌てて、ステラが起きるでしょう?」
テラートの様子から、尋常じゃない事があったのだと察しはしたが、何があったのだろう。
「ダキットが、僕の弟が……亡くなった」
「……それは、あなたの直感で?」
「ああ……」
だとしたら、何でわかるのよ。具体的に……。
「テラート、ダキット君が何でもう死んでるってわかるのよ。予感ってレベルじゃないわ。何か、他に判断する理由があるんでしょ?」
「ああ、僕と父上の超直感は、ダキットには効かないんだ。スキルを寄せ付けない体質みたいなもので、ダキット自身、魔力はあるのに魔法が使えない。それがついさっき、直感でダキットの死を感じたんだ」
「なるほど、体質上効かないものが、効くようになった。身体の機能が損なわれた可能性。それで死んだと判断したのね。でも、予感は予感よ。抜け道は存在するわ」
「抜け道?」
「そう、例えばコレとか」
そう言って私は枕元に置かれていた腕輪を指差した。
「もし、ダキット君の体質が彼のスキルに由来するなら、スキルを封じるような魔道具を付けている状態で危機に瀕してるとも考えられそうよ」
だとすれば、すぐに助けに行けば間に合うかも知れない。私なら……だけどね。
「テラート、私が今から助けに行くわ!案内はお願いね?」
「案内?僕は飛べないし、直感じゃ具体的な場所なんて分からないよ。というか、エリーは安静に」
「レフィア、あれを使うわよ!人命を最優先!私の身体や秘密なんて、どうだっていいわ!」
レフィアは頷くと「今が使い時ですね」と言って新作魔道具を取りに行く。
「何を取ってくるんだい?」
「そのうち分かるわ。それより急いで着替えるからステラのことお願い」
もし、既に心肺停止状態なのだとしたら、ダキット君は助からない可能性が高い。この世界でも、恐らく脳死すると助からない。
時刻は夕方。私は防寒に優れた魔女っコートに早着替えすると箒を出してレフィアを待つ。
「エリーさん!コレを!」
「じゃあ、行ってくる」
そう言うと私はアイゼンスター伯爵領の方向へ飛び立った。
「エリーさん、『剛健』じゃ、疲れは癒せないって言ってましたよね?本当に……大丈夫なんですか?」
レフィアの呟きはテラートにしか聞こえていなかった。
◇◇◇
ダキット・アイゼンスターは盗賊に捕まった。
結婚とは良いものだ、そう1年前の結婚式に参加したダキットはテラート夫妻のやり取りを見て思った。僕もそんな相手が出来るかな?そう考えていた最中、縁談の申し込みが入った。可愛らしい自分より2つ歳下の女の子。ダキットはウキウキで彼女に会いに行った。
お見合いのあった侯爵家へ行った帰りに何でこんな事になったのか、自問する中、盗賊達の会話が聞こえてくる。
「あ?女は2人だけか?」
「はい、どうやら主人が男のようでして。伯爵家の家紋が付いた馬車です。一応、身代金を取り立てられる可能性もあるので、主人の方も生かしています」
「伯爵家?当主では無かったのか?」
「はい、まだ10代前半といった所かと。一見女にも見えなくはありません」
「そりゃあいい。女装でもさせて外国貴族に売れる」
テラート同様、ダキットは見目が良い。その点で言えば、盗賊達は見る目があったと言えよう。
護衛で連れてきた6人の兵士は一様にやられてしまった。馬車の中で大人しくしていたダキットだったが、馬を駆る兵士たちが次々と矢に倒れるのを見て、酷く怯えてしまっていた。
侍女達は同乗していた2人だけ。執事も数人いたがダキットの盾になり、皆殺された。
「いや?やっぱ殺すか?」
「まあ伯爵とのやり取りが面倒ですし、連れてけば食費もかかります」
「ああ」
盗賊達の間では質の悪いダウングレードされたスキル封じの魔道具が流行っていた。
ダキット達、3人は首掛け型の魔道具でスキルを封じられている。
だが、今回ばかりは盗賊達に不幸をもたらす魔道具となるだろう。
まさか、約1名、スキルを封じられると逆に補足される人間がいようとは。
ダキットは自分を殺すと言われ、縄で拘束されているのにも関わらず、のた打ち回った。
「うー!うー!」(助けて、兄さん!)
「あ?うるせぇぞ!静かに殺されてろ!」
見張りに怒鳴られて静かになる。
ダキットは絶対絶命のピンチに憧れの人を思い浮かべていた。
(こんなとき、エリナレースさんなら……)
頬を涙が伝う。
魔法も使えない自分の無力さが何より悲しかった。
沈んだ心。
ダキットは思いもしなかっただろう。
今にも殺される、そんな状態を覆す出来事が起ころうとは。憧れが目の前に現れるとは。
◇◇◇
私も万全とは言えない。出産の疲れが残った状態で無理して飛び出して来ていた。
「テラート、次はどっち?」
「君から見てまっすぐ右だ。距離までは分からない。森の中だと思う」
「わかったわ」
通信機の小型化。私が今持っているのは長距離無線機って感じね。テラートは私の執務室の通信機を使ってる。
少しだけ移動すると森が見えてきた。アレね。
「テラート、見えて来たわ。まだ死の予感は見えてるかしら?」
「半々って所だよ。ひとまずダキットが無事で良かった。ダキット、エリーの2人が危険か、相手の人数が分からないから正確に感じ取れない」
「なら、『確率操作』のスキルを使うわ」
敵と比べられないなら、こちらの強みを増やしてしまえば良い。今、最大限の影響を出せるのは確率操作だけだ。
この場合は、相手が盗賊だから、いや、敵は関係ないか。じゃあ、味方への被害に対応する感じで。
(『確率操作』私とアイゼンスター伯爵家の人間に対する攻撃が外れる確率100)
「くっ!」
限定的な効果を重ねた事によって魔力が一気に持っていかれる。
「はあ…ハァ…。どう?テラート。もう危険ですら、ないでしょう?」
「君は何か無理をしてないかい?今の僕の勘では、エリーがいる間の安全が保証されてるぞ」
実際、無理はしている。急激に魔力を失った反動で箒ごと空中でよろけてバランスを崩していた。高所から急激に落ちそうになった事で息を荒くした。
「小さい頃にドラゴンに放った魔法なら、まだ2発は撃てるから、大丈夫」
「それは、かなり無理をしてないかい?」
全然。と言いたい所だけど、こんなに魔力が少ない状態はいつ以来かしら?
私はゆっくりと降りていく。私に攻撃が当たらない今、奇襲しても意味がないというもの。気を付けるべきは洗脳系の魔法や拘束系の魔法。いち盗賊がそんな芸当できるとは思えないけど、拘束くらいはありそうね。状態異常は剛健で回復するし、よほどのことがなければ大丈夫。
「位置的には伯爵家の領地外だが、家からは近いな。父上に連絡する。エリー、一旦通信を切るけど、安全な戦いを心がけてくれ」
「フッ、私を誰だと思っているの?」
通信を切ると同時に、私は如何にも商会みたいな見た目の集団に近づいた。
想身変容を使えば、気付かれずに侵入出来る。
ただ少し、変ね?
商会に偽装した盗賊にしては、護衛が少ない。
正しくは護衛に偽装した数が少ない。
長年の経験から言うと、商人と護衛は1対4くらいの比率で、それ以上護衛が居なければおかしい。守りを固めたい時、4方向の敵から守れなければ戦術的に間違っている。
伏兵がいるのか、何かお楽しみ中なのか。
親玉が武装していないのはあり得ないので、叩くなら兵からなのだけど、それがほとんど見えない。潜伏しているのかな?
商人の荷を乗せる馬車に全員乗ってるとか?
走行中ならまだしも、野営で停車中にそれは用心深すぎると思うけど、あり得ないとも言えない。
あと可能性があるとすれば。
「んっ!?」
魔力が乱される!
着陸して箒を仕舞うと木陰に隠れる。
途端に目の前に先程見かけた兵士姿の護衛が3倍以上、約20人程が急に現れた。
なるほど、隠蔽効果のある結界魔法。
この規模の闇魔法となると、相当な使い手がいるわね。結界魔法にはかなりの種類があるけど、隠蔽はレアね。だいたい防護で次点で感知系だもの。
そして、問題のダキット君は侍女っぽい2人の女性と拘束されて兵士達の中程にいる。
油断ならない相手ね。
アニメやゲームなら、牢屋や倉庫で押しくら饅頭なのに。見える位置に置いているのは、隠蔽の結界内だから出来る芸当ね。
もし、こちらに注意を引いたとしても、近い位置にいる数人しか釣れないし。
正面突破か。
どっちみち攻撃は当たらないんだから、向こうの魔法使いが精神系じゃない事に期待ね。
私は収納からショートソードを取り出すと下段の左後方に構える。導主の一件以来、剛健無しで振れない大きな武器は装備しないことにしている。
最近ではスキル封じを悪用する者も多い。いざという時、構えた武器が使えなくなって、収納や魔法が無いのでは本当の意味で詰む。
「さて、今助けに行くわ!」
気持ちの上では声を出すというのは良いらしい。
精神論である。
もし、精神を攻撃をされるのであれば、それは揺るがない1つの意思を言葉に乗せる事で回避出来る、と思う。
精神論だけど。
疲れた身体にムチを打つ。
隠れていた木陰から潜入も糞もなく、一直線に突入する。ショートソードは7度目の転生時に出会った職人のオーダーメイド、ゾルファ共和国製の魔剣。今の身の丈には合っていないけど、今持ってる中では最高の剣だ。
たぶん盗賊相手だと過ぎた武器。簡単に言うと超振動剣。魔力を込めると振動する。ただそれだけ。テラートの武器もただ硬いだけだったけど、まあアレは本当に別世界の武器って感じ。
私のこれはゲームが元ネタだし、私にしか使えない仕様である。なぜ?振動の周波数を高めるせいで、手元部分は電子レンジのような状態になる。
ぶっちゃけ、私以外には持っていられない。『剛健』の治癒と治癒魔法が追いつくからほんのりあったかい程度で済んでいるけど、他の人が持つと、電子レンジに入れた卵みたいになる。まあ腕が爆発するんだけど。
刀身は理論上、分子構造に干渉して、刃の通った部分を原子に戻す。何でも豆腐やバターみたいに斬れる。うーん、よく切れる刃物って、なんで豆腐やバターを例えに出すんだろう?
閑話休題、それでは斬っていきます。
私のテンションがおかしいのは疲れてるからです。たぶん。
疲労回復ポーションは使わないだろうと思って、色んな所に売りに出したら手元になかったんだ。
今が1番必要なんだけど。
うんうん、頑張って斬られに来てね?今何人目?
兵士風の人が前衛で商人風の人が後衛なら、まずは商人からいっとく?
もう想身変容は魔力の無駄遣いだから解いてる。
今は剣に魔力を。相手の装備ごと叩き斬っているためか、盗賊達の顔には怯えが貼り付いている。
あと4人で終わり、というところで剣の軌道がおかしな方向に曲がる。
「ん?魔法?」
でも、精神攻撃を受けた時のゾワゾワする感覚がない。
「あ、確率かー。……あなた、内通者ね?」
まさか、アイゼンスター伯爵家に今回の内通者がいたとはね。
私の攻撃がかすりもしない。つまり、今『確率操作』で攻撃が当たらない対象。伯爵家の者というわけだ。
「じゃあ、あなたは拘束」
(『ワイルダーバインド』)
地中から根が生き物のように動き、巻き付く。
「持っててよかった拘束魔法」
生物属性の拘束形状。森では有効なんだよね。
さて、残りは次いでで全員拘束しちゃえ。
聞き出す相手も取っておかなくちゃね。
私はダキット君の目の前まで移動すると少し格好を付けてみようと思ってセリフを紡ぐ。
「オニキス・メーデイア、エリナレース。伯爵家の依頼に応じて、あなたの事を助けに来たわ」
ダキット君12歳だもんね。もうすぐ発症する頃だろうからサービスよ。テラートからは私に憧れてるって聞いてたし、左手の封印を解いてあげよう。
とりあえず恥ずかしいけど、素早く剣を振って3人全員の縄を斬りながら格好良いポーズ。そして納刀。
疲れたけど、何とかなったわね。
私は疲れで膝を突きたい気持ちをぐっと堪えて、伯爵家の救援を待つのだった。




