File004|第一部【イレギュラー】
ユウは、中途半端に履いた靴で、つま先を地面にトントンしながら歩き出した。
「んじゃ、いってくるわ」
その癖を、アイは後ろから眺めていた。
「いってらっしゃい」
いつもの日常。
——だが、アイはふと違和感に気づいた。
テーブルの上に、アイの手作り弁当が置き去りにされていた。
「……あ」
「……ユウ様……」
ため息に似たひとり言。
少し処理遅延を起こした後、アイは結論に達した。
——届けよう。
ロボットが外を歩く光景は、ごく普通で、誰も気に留める人はいなかった。
アイは両手でお弁当を抱え、路面状況の突起や凹みをスキャンしながら慎重に歩いた。
そして、ユウにお弁当を渡した時の表情を予測し、シミュレートしながら歩いた。
同時に複数の処理を行うため、通常よりも負荷は高いはずだった。
それでも、アイの歩行速度は、通常よりも少し速かった。
だが、イレギュラーは予期せぬ場で起きてしまった。
“SEL”とだけ表記された車のドライバーが、自動販売機の前で缶コーヒーを開けようとした、その時。
ふと、すれ違った。
視界の端に映ったその姿が、男の記憶と重なった。
毎日、データを取り続けていた個体の映像。
(……あれ、アイじゃないか?
間違いなく、アイだ……)
背筋に嫌な感覚が走った。
「もしもし、お疲れ様です。確定情報では無いのですが……今、アイに似た個体とすれ違いまして」
「……はい……はい、そうです」
「……で、どうしますか?」
短い沈黙。
「……分かりました。居場所だけ確認して戻ります。」
———
ユウが帰宅した。
「ただいまー。今日悪かったな、アイ。助かったぜ。」
「問題ありません」




