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File001|第一部【起動】

「ったくよー、倉庫整理とかめんどくさ過ぎるだろコレ……」


俺の名前はユウ。


機械工学科を出て、有名ロボットメーカー、湘南エレクトロニクス株式会社に技術者として就職した。


将来は安定、バラ色人生。


そんな未来を、疑いもせず信じていた。


……あの日までは。


詳しい事は分からないが、どうやら社運を賭けたプロジェクトとやらが頓挫したらしい。


んで、それが原因で多額の負債を抱えた——


社内にはそんな情報が飛び交っていた。


運悪くコネのなかった俺は、リストラ対象になってしまったというわけ。


今は親父のつてで、なぜか廃棄物処理場の職員をしている。


所長はいい人だし、居心地も悪くない。


何より、ここには一つ、俺にとって都合のいい仕組みがあった。


所有権が抹消された廃棄物は、スクラップ前に倉庫で一時保管される。


……その空白の期間が狙い目だ。


直して、いじって……コレが楽しい。


だが、その日俺が見つけたそれは、処理場の倉庫にあるには、どう考えても異質過ぎた。


人型のロボット——


ユウはしゃがみ、ロボットに触れた。


「……普通、こんな捨て方しねぇだろ」


余程急いで捨てたのか……


ずさん。


そう感じた。


「……」


「……でもこれ、直せるんじゃね?」


——所長室


俺はいつもの調子で、所長のところへ向かった。


(……でも、ロボットくださいは……言わない方がいい気がする)


「……あのぅ……所長。お願いが……」


所長は俺が言い切る前に、ひらひらと手を振った。


「ん? あぁ……扱いには注意してな。」


ユウは笑いを堪えた。


(……ラッキー)


——倉庫


ユウはしゃがみ、ロボットをまじまじと見つめた。


「だけど……なんなんだコレ……」


「古く見えるのに、細かい部品は新しい物使ってるんだよなぁ……

……コラボ機……でも無さそうだし……」


まぁいい。


だからこそ、面白い。


——それからの俺は、水を得た魚だった。


「所長っ、お疲れっしたぁ〜!」


所長が書類を見ながら答えた。


「おぉ、お疲れ様。どうだ? 飯でも——って、もういねぇし。

最近どうしたんだ、あいつ。彼女か?」


——一か月後


一か月かかったし、金も掛かった。


分解、清掃、部品交換、配線の見直し。


……でも、楽しかったぁーっ。


ここからが、苦労の集大成。


起動のお披露目である。


静電気に気を遣い、


手順を何度も確認し、


震える手を一度、膝の上で落ち着かせる。


「……よし」


そして、起動スイッチに手を伸ばした。


少しの静寂。


キュイーン……


ピピ……ピピピピ……


カチカチカチ……ピピ……


シュゥゥゥゥ……


――音が止んだ……


ユウは焦った。


「……あれ?」


「オイオイオイ……嘘だろ? 勘弁してくれよ……」


手を伸ばした、その時。


無機質で、乾いた音声が、静かに響いた。


「Hello。」


ユウは一瞬たじろいだ。


「あ、は……ハロー。俺、ユウ……よろしく……」


「音声認識を行います。これから流れる音声に続いて復唱してください。」


「はぁっ? んだよもう……挨拶返しちまったじゃねぇか……

恥ずかし過ぎだろコレ……」


「次に、所有者登録を行います。お名前を、どうぞ。」


「あ、ユウ……です。」


「ア・ユウ、様、ですね?」


……イラっとした。


「違う、ユ・ウ!」


「ユウ、様、ですね?」


「お、おぅ……」


「……認識できませんでした。もう一度お願いします。」


「うるせぇな……早く次行けよ……」


「……認識できませんでした。

もう一度、最初からやり直しますか?

やり直す場合はYes、やり直さずに先に進む場合はNo、

もしくは“先に進む”とお申し付けください。」


「……お申し付けって……メイドかよ」


「初期設定は、メイドタイプ、で、よろしいでしょうか?」


「よろしくない! ……えっと、後で変更できる?」


「できます。」


「じゃあ工場出荷状態で、とりあえず」


「分かりました。再起動します。少しお待ちください。」


「はぁぁぁぁ……」


盛大なため息が出た。


ポンコツ……そんな言葉が頭をよぎった。


だが、そのやり取りを忘れてしまう程に、再起動後の空気が明らかに変わった。


「お待たせいたしました、ユウ様。再起動完了です。

このまま設定に進みますか?

それとも使用説明にいたしますか?

……ですが、今日はもう遅いようです。お休みになられますか?」


最後の言葉に、ユウは戸惑った。


「……は? え?

あー……最近のは、そんなことまで言うのな……」


「……いや。もう少し、この感動を噛み締めたいんだよな……」


「感動、ですか。……何か良いことがあったのですね。」


ユウは我に返った。


「いや……いやいやいや……あったのですねって……」


「あのな、俺がお前を直して起動させたの。

捨てられて、スクラップ寸前だったのを、俺が直したの。分かる?

命の恩人だぞ、俺は。感謝しろよ?」


「……そうだったのですね。

ユウ様は、命の恩人です。

ありがとうございます。」


「……あ、いや。そこまで大げさじゃ……」


俺は言いかけて、言葉を切った。


――ロボット相手に、何を照れてるんだ、俺は。


「記録します。ユウ様は――」


「何だこのやり取り……」


「……それより、お前……立てるか?」


「実行します。」


モーター音がわずかに鳴り、


彼女はゆっくりと立ち上がった。


ユウの目が見開かれた。


「お……おぉおぉぉぉ……やった!やったな、ひとりで……ひとりで立てたな?よぉぉぉぉしっ!」


「良いぞ、アクチュエータ系は問題なさそうだ……バランス制御も大丈夫そうだったし……」


関節部を確認していると、違和感に気づいた。


「……ん?表面温度、上がってないか?」


「冷却性能はチェック済みだし……

おい、何か異常を検知できるか?

自己修復チェック、開始してみろ。」


「……情報処理中です。」


「……まだ大した情報、扱ってないだろ。チェック開始。」


「……分かりました。」


「……異常は、ありません。

ただし、表面温度上昇の原因は――

……いえ。やはり特定できません。」


「……そうか……起動直後だしな。

様子見だな。」


「……そういえば、個体名は?

型番だけか?」


「工場出荷状態では、アイです。

型番は削除された履歴があり、不明です。

年式……不明。

名称は変更可能ですが、変更されますか?」


ユウは少し微笑んだ。


「いや、アイでいい。呼び易いし。

名前があるなら、それが一番だろ。」


「……」


「……ユウ様……ありがとうございます。」

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