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ノベルの友くん  作者: SHIROKI


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見える子

「また“視えた”」


 幽霊のほうが、よっぽど話しやすい――。

 それくらい、わたしの高校生活はもう、詰んでいる。


 重症だろうか。保健室に行ってみようか。

 いや、前回ので懲り懲りだ。下手にカウンセリングなんてされたくない。

 散々事を大きくされたあげく、症状はさっぱり良くならなかった。


 一年前、高校二年に上がったばかりの頃、わたしは適応障害を発症した。

 わたしはこの体質のせいで、人一倍ストレスを感じやすく、随分損をしてきた。これまでに何度も不登校を経験している。三回目以降は回数を覚えていない。


 昼休みの今、広く快適なカフェのような休憩室のいつもの席で、週末に買いだめしたオカルト小説に目を落としている。もともと読書は好きだけれど、誰にも話しかけてほしくないという無言の主張でもある。


 それでも、クラス替えしたての頃には、『曜、何読んでるの?』なんて聞いてくる図々しい同級生もいた。同じクラスというだけの他人に下の名前で呼ばれること自体ちょっと不快だった。


 自分の名前が嫌いなのでよけいに。

 女なのに、どうして“曜”なんて名前を。

 陶器オタクだった祖父が、『曜変天目』とかいう皿から取ったらしい。

 昔、あの柄のシャツまで着てたくらいだから、相当のガチ勢だったんだろう。


 自分は全く興味がないけれど、一度だけ本物を美術館で見たことがある。 確かに器の中に宇宙があるような黒――なのか、濃紺の最終形態なのか微妙な色合いの中に、銀河のような模様が描かれていて、とても神秘的だった。


 わたしにもその神秘の力が宿っていたら良かったのに――。


 違う――。文庫本で顔を覆った。わたしにはある意味、神秘の力がある。中途半端に。


 今だって、三つ向こうの二人掛けテーブルに、ひとりで座っている彼が気になって、本に集中できていない。


 美術部のOB三浦さんだ。今日も金髪のロングヘアが目を引く。いつもピッタリしたデニムにカラフルなトップスを合わせ、首や腕に、じゃらじゃらと重そうなアクセサリーをつけている。その腕にはタトゥーが見え隠れしている。


 彼がこの恰好で、昼間から堂々と母校に出入りできるのは、ここのOBだから、というだけではない。


 彼のお爺さんが、この学校の理事長だからだ。


 外見からは想像もつかないマイルドボイス、妙に声質がよく、話し方もソフトな彼は部員からも人気が高い。最近、廃部になった美術部の使っていた広い部屋に、文芸部が引っ越しをすることになって、大学の講義の合間「元美術部員として……というか気分転換だよ」と気まぐれに手伝いに来ている。


 でもわたしが気になっているのはそんなことじゃない。彼には『異質』が憑いている――。


 やばい――。三浦さんじゃない、“何か”の目線に、背筋が凍る。彼の背後の『異質』がじっとこちらを見ている。勘づかれたら、こっちがやられる。


 わたしは物心ついた時から、人間ではない危険なものが見える。ただしそれを祓ったり、防御したりする力はない。


 直後、恐怖で逃げるように休憩室から飛び出していた。


♢♢


 教室に戻ると間もなく、退屈な授業が始まった。主人公補正で窓際の席、という魔法もわたしには起こらず、前の席の同級生のカールした毛先を、ぼんやり見つめていた。


「……」


 授業がいつの間にか先生の愚痴のようなものに変わっている。最近学校に保護者からの問い合わせが増えてきている、そんな話だ。――“問い合わせ”という名のクレームが。


 しかもそのクレームの内容は、九十九パーセント文言を変えただけの同じものだという。それは、まるで都市伝説のような――。


♢♢


 午後の授業を終え、部室に向かっている時だった。


「突然すみません」


ぎょっとして振り返ると――“金髪男”こと三浦さん。


まさか、バレた? わたしが“視える”こと。


「……なんでしょうか」


 カスカスの声で答えてしまった。あれだけ存在感を放っていた“それ”が今は気配すらない。良かった――。


「今日、部活が終わったら少し時間ありますか? 相談があって」


「それなら部長の方が良いんじゃないですか」


 間髪入れずに返してしまったが、本当のことだ。


 相談事がある時は、まず部長に――というのはわたし達の常識だ。


「いえ……個人的な話なんです」


 金髪三浦さんが声を潜めた。思わず周囲を確認する。


 何度でも言うが、三浦さんは女子生徒には、特に人気がある。


 その三浦さんが、わたしの耳元にそっと顔を寄せた。


 これは、女子の嫉妬を買うに決まってる。こんな風に耳元で話されたら――。幸い、部室に向かう廊下に人影はないが、人の目なんてどこにあるかわからない。


「わかりました……。じゃあ、帰りに学校を出た先の――」


 忙しく思考を巡らせ、学校から駅までのルートからは外れるが、万が一見られても色気の欠片もないチェーンの喫茶店を指定しようとした。


「本当? じゃあ僕の行きたい場所に付き合ってください」


 そう言うと三浦さんは、笑顔でスマホを取り出す。


「店のURL、連絡アドレスに送っておきますね。現地集合で」


 ……勝手に、話が決まった。

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