良心の呵責(31)
このエピソードを書き始めた時には、すでにヘルパーRは我が家に来て数ヶ月経っていたので、回想する形で書いてきたが、もうエピソードは今現在まで到達している。もうすぐ私は夫と共に新居の準備などのために帰国する。1週間程度滞在して戻った後に入れ違いで彼女が帰国する。彼女は最近、週末の休日を利用してたくさん買い物をしてくる。恐らくフィリピンの家族たちへのお土産を買って来ているのだろう。お昼前に空っぽのスーツケースを持って出掛けて行き、夜9時を回ったこころにそれを重そうに持って帰ってくる。先週に引き続き2回目の買い物だ。フィリピンに帰国する時は自分の着替えなどもあるだろうに、そんなに持って帰れるのか?と余計な心配をしてしまうほど。
そして同時に思う。娘の結婚式を終え、他の子供たちや孫たちにも会い、楽しいひとときを過ごし、また赤の他人である我が家に住んで我が家のために働くのだ。あー、このまま愛しい家族たちと過ごせたらどんなに良いだろう…と思いながらも、お金のため、家族のため…と、ここに戻ってくるんだろうな。お土産を渡し終わって空になったスーツケースに、今度は自分自身のためのたくさんの地元の食べ物を詰め込んで。それなのに、彼女は楽しい里帰りを終えて戻ってきた瞬間に即日解雇だ。エピソード(27)に書いた通り。里帰りから帰ったら荷解きも出来ず、ここに残っている自分の荷物を短時間のうちに更に荷造りしてそのまま出て行かなければならない。もし自分がその立場に立ったとしたら、どれだけの絶望感を味わうのか、と思う。心が痛む。
だったら、そんなことしなきゃ良い…。こういう形ではなく数ヶ月後に実際帰国する時に『私と犬たちだけ日本に帰国することになったの。夫はこの国に残るけれど、ヘルパーを雇う必要が無くなったからごめんね、契約途中だけど契約解除させてもらうね。』 と言う理由であれば、ヘルパーRも納得できる解雇であるし、自分のヘルパーとしての経歴にもさほど傷がつかない。そして彼女を雇う時、本当はこのようにするはずだった。
夫は、このことが発覚した時でさえも、当初の予定通りの解雇方法で良いんじゃないかと言っていた。許し難い事ではあるけれど、どっちにしろ辞めてもらうことは決定しているんだから、その理由は穏便な方がいいのではないか?と。でも、私はそこまでの優しさを持っていなかった。ヘルパーRは、私たちが何も知らないと思って騙したのだ。実際の損失は大したことはないけれど、自分たちヘルパーは法律によって守られている、当然の権利だ、と言ってありもしない健康診断をでっちあげている。今もバレていないと思っている。そして出す必要のない飛行機代負担させようともした。被害は無かったが部屋で暴れたこともあった。この家族はちょろい!とバカにされたようなものだ。日々の彼女のイラッとさせる行動も、一つ一つは小さいことかもしれないけれど、積もり積もって私のストレスになっている。やっぱり、私はそれを無かったことには出来ない。何度も書いてきた通り、私たち夫婦はヘルパー初心者。『もしかして、ヘルパーってこう言うもんなのかな?』『私たちが神経質なのかな?他のヘルパーはどうなのだろう?』と友人・知人にも事あるごとに相談してきた。そして皆が皆「お宅のヘルパーみたいな人、家だったら即解雇してる!」とか「雇い主に対する態度でそんなこと信じられない!」と言うことだらけだった。私たち夫婦にとってはヘルパーRの言動しか『ヘルパー』を実際に見ていないし知らないので、キーーー!っとなっても、いあ、もしかしてこのくらいのことって普通にある事なのかな?と感覚が麻痺していた部分もあるようだ。周りの人のほとんどと紹介所でさえ「それはない!」と言っているのだ。それゆえ、彼女の傷にならないように…という配慮をするのは出来ない、というか、しない!という最終判断をする。
解雇の仕方は鬼だ。彼女が来たことで助かっている部分もあるし、こんな最後は可哀想だ。けれど、私たちのココロだってこんなにも疲弊させられている。嘘をつかれたり変な態度をされて傷ついている。それなのに、彼女が傷つかないように…などと考えてあげられるほど私は神じゃない。




