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そろそろ日差しも強くなってきた、五月、初夏。特徴のないことが特徴な、自称進学校。チャイムの音で、ノートをとっていた私、藤園花子はゆっくりと顔を上げた。
「では、次の授業までに今説明したところ、解いておくように」
先生の号令とともに、皆が動き出す。五月の生ぬるい空気が揺蕩う。
(どうして数学ってこんなに重たいんだろう)
一問一問の質量が大きい。まだ、国語の読解で筆者の気持ちを百字以内で書いている方がいい。
「んん……んあーっ、数学乗り切ったぞー……っ」
「寝てたじゃん」
「眠気に抗ってもどうせ内容なんて入ってこないしー…」
「それは同意」
気が抜けてしまいそうになる、間延びした声。私の隣の席で背伸びをしているのは、西宮真奈美。女子には羨ましがられ男子の目を釘付けにする体格、襟元で緩くカールされた栗色の髪、社交的でよく笑う、明るい性格。並の男子より高い身長、飾り気のない短髪、無愛想な性格の私とは正反対だ。この間、真奈美のファンクラブがある、という話を聞いた。
「はなちゃーんっ、お手洗いいこっ」
「一人で行きなよ」
「えー」
(藤園…西宮さんの誘いを断るなんて……)
(万死に値する……ボソボソ……)
(……理不尽)
真奈美は入学して同じクラスになって以来、なぜかずっと私と一緒にいる。私といても、と一度言ったことがあるが、
「一緒にいちゃダメ?」
と言い返されて、私はそれ以上何も言えなかった。
(だって―――)
次の授業は英語。小太りの英語教師の、あのボソボソとした声は、私の耳に届くまでに日本語ではなく子守歌に翻訳されるに違いない。机に教科書を出した私は、眠気を覚ますにはちょうどいいか、と、真奈美の後を追うように席を立った。
お手洗いから戻ってくる途中。
「はなちゃん、次の授業なんだっけ?」
すっかり機嫌を直した真奈美は、私の横で笑顔を浮かべている。
「英語」
「英語かー……え⁉︎英語⁉︎」
「予習やった?」
「……………」
「……今日、真奈美からじゃなかったっけ?当たるの」
「………はなちゃぁん……」
「ふっ」
「あっ今笑った!」
「笑ってない」
「見たよぅ!笑ってたじゃん!」
むー、とにらみながら、私の右腕をぐいぐい引っ張られる。
この後どうやって、からかいながら予習内容を教えてあげようか。膨れながらも、目の前で問題と向き合いながら、たまに目線でわからない、と訴えかけてくる彼女を見ていれば、私を夢の世界に誘おうとする睡魔もきっと、肩をすくめて去っていくだろう。
なぜって、そのときの私は、きっといつもより少しだけ、機嫌がいいから。
つまるところ、私は、西宮真奈美が好きなのだ。




