【目には見えない武器】
護が旅立って1週間が過ぎた。
今日の晩餐にも出席なし…か。王宮の広間での晩餐にも慣れてきた。次第に人が減りつつある。明日は月曜日だから早めに寝る人が多いのかな。
俺もそろそろ寝ないといけないなぁ。現実世界では夜の11時…そろそろ寝ないと本当にヤバイ。
晩餐が終わって自室に帰ろうとした時に「あぁ、失礼。少しよろしいですか?」とパンデミック卿に呼び止められた。
緑と白の仮面に黒いシルクハット…よく見ると髪は銀色をしていた。
「はい。なんでしょう?」
「初めまして、私 朝の幹部 パンデミック卿と申します。以後お見知りおきを。」
そうだった。ちゃんと挨拶はしたことがなかった。ていうかこの人…なりきりタイプかな?
「あ、初めまして。えーっと。ルナ班のりきです。よろしくお願いします。」
「突然で申し訳ないのですが、食後の運動等いかがでしょうか?…なんせりきさんは学生で平日の午前中は基本的にログインが難しいとの事。私も夜勤がございますので、基本的には土日…のみ。今の今まで激務に追われておりまして…今しかない…と。」
「は…はい。えっと…AIありですか?」
「1対1でもよろしいですか?」
「あ、はい。かまいません。」
「ではでは練習場へ行きましょう。」
「咲、どうする?見に来る?」
「もちろん。…負けないでよ?」
「頑張る。」
パンデミック卿が練習場へのゲートを開いてくれて、それに入るとダリアさんと千翠さんが戦っていた。
「おや?先客ですか。では練習場2の方へ。」
「待て。」とダリアさんがパンデミック卿の肩をつかんだ。
「はい?」
「練習試合か?」
「そうですが?」
「やっていけ。」とスタイリッシュにジャンプして観客席に座るダリアさん。
「珍しい組み合わせですね?これはこれは。」と千翠さんはフワリと宙に浮きダリアさんの隣に座る。
「ふむ、観客がいるのはあまり好きではありませんが…始めましょうか。」
…観客嫌いなんだ…見た目的に好きそうだと思ってたけど。
練習試合を申し込まれてカウントダウンがはじまった。
パンデミック卿はステッキを持っている。
タクトを握って7人の小人達を出していつも通りハクとハナビを使った攻撃に移ろうとした瞬間に嫌な音…それは凄く微かな音で咄嗟に後ろで飛んで回避した。その後すぐにフウの力で浮遊する。
「ほう、空をも飛べてしまうのですね。」
また嫌な音がして、それを避けた。
いったいパンデミック卿は何をしているんだ?一切動かず、攻撃してるように見える。
ハナビに魔力を注がないといけない。タクトをハナビに向けて魔力を注ぐ。
ハクがパンデミック卿の正面から攻撃をしかけてパンデミック卿の帽子が破壊されて長い銀の髪がさらさらと波打つ。
「あっははー。凄い破壊力だ。結構耐久値には自信があったんですが。残念です。」
シュシュッと何かが飛んでくるような音が聞こえた。
でも何も見えない…。
「この馬鹿げた回避方法を本当に体得しているとは…正直驚きました。練習でどうにかなるものなんですねぇ。……いえ、ね?私どうも音ゲーというものが不得意でして…長い時を修練しましたが全く体得できませんでした。」
………ハナビの詠唱が完了した…ここまでで酷い状況になっていた。
ハクの肌が黒く滲んでいく…まるで何かに汚染されていくかのようだ。
スゥがそれを必死に食い止める…そしてそれはハルにも…
浮遊組には影響無さそうだ。
ハナビ…ごめん。詠唱キャンセルでマグマプールを詠唱しなおしてほしいとお願いした。
それからスゥにハクを治療するのではなくハルに治療を…。
ハクを放置してしまう事に酷い罪悪感を覚えながらもハナビとスゥに魔力を注ぐ。
エイボンこれは何だ?と聞いた。
「これは恐らく…闇属性と無属性の混合魔法ですね。合成武器です。」
「ふむ。では種類を変えてみましょう。」とパンデミック卿が言う。
種類を変える?…嫌な予感がする…ウォール…俺の守護を解いてハナビを守護するんだ。
「しかしそれでは…りきが死んでしまっては元も子もない。」
大丈夫。もうこれしかない気がする。
シュッ…ヒュッ…と小さな音が鳴るたびに見えない何かをかわす。それを繰り返していたが…チクリと痛みがきた。
その瞬間強烈な痛みにが襲ってきた。
「------っ!!!!!!」
ガラスの破片が皮膚に刺さってるような痛みだ…それから熱い…
スゥ…ハルの体力維持を…俺はまだ…いけるから…。
体力が3分の1を切ったら全回復をかけてほしい。
スゥの体にも黒いシミが…
俺は地に足をつけて膝をついて痛みに耐える。
パンデミック卿は持っていたステッキを細い剣に変形させて俺に向かってくる。
スゥの全回復が一度入ってからパンデミック卿に肩から腰まで切りつけられて酷い痛みに襲われた…
「聞いてた話よりも弱いですねぇ。こんなものですか?」
もう…指一つ動かすのも辛い…それでもハナビに魔力を注ぐ。
「……さきほどから何を?」
ふと…観客席の千翠さんに目がいく……
千翠さんの口癖「これはゲームです。」…それを思い出した。
深呼吸をするんだ。これはゲームだ…痛みは…錯覚。
今までの精神汚染ダンジョンを思い出した。
いける…まだ…もう一度浮いてパンデミック卿と距離をとる。
「ほう?まだ動けますか。」
「手合わせ…ありがとうございました。」
ハナビのマグマプールの詠唱が間に合って練習場はマグマの海に飲まれる。
全身黒くなって虫の息のハクがパンデミック卿の足に刀を刺して動けなくした。
「足がっ!!」
マグマの海に飲まれたパンデミック卿の体力が0になり試合が終了した。
数秒後体力が全回復して小人達の状態異常も全て解除された。
パンデミック卿のシルクハットも元通りになり、長い銀色の髪がまた帽子の中にしまわれてしまった。
痛みの恐怖が…まだ…消えない。
今までの痛みと比べ物にならなかった…。
「あの…パンデミック卿の武器…いったい何だったんですか?」
すると観客席から降りてきた千翠さんが「虫ですよ。」という。
「虫!?」
「はい。魔法書と虫型の武器を合成させて作ったノミくらいに小さな武器ですよ。お見せしても目に見える事はないでしょう。ただし…この魔力感知の仮面をつけていれば話は別です。」
と仮面を外して渡してくれた…けど…仮面の下はどう見えても女性にしか見えなくて渡された仮面より顔の方が気になる。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ…。」
「エミリーの仮面の下が女性で驚いているのでは?」と千翠さんが冷静に言う。
「あぁ。」とつけていた指輪を外して「女だと舐められてしまうからね。」と女性の声で言う。
パンデミック卿って…女性だったんだ。しかもエミリーだから外国人?
すっかり忘れてたけど声を変える事ができる指輪があったんだった。
パンデミック卿のつけていた仮面をつけると紫色に光る点のようなものがパンデミック卿の手にたくさん付着していた。
「これ…。」
「見えましたか?」と言って指輪をはめて声を変えて「これが私の武器です。」と言う。
仮面を返すとすぐに仮面をつける。
「りきさん、これは一応幹部だけの秘密ですよ。」と千翠さんに言われた。
「あ、はい。」
「不思議なものですね。りきさんになら言っても大丈夫…な気がしましてね?」
「りきは…勇者っぽいからな。」と今まで無口だったダリアさんに言われた。
「勇者って…俺そんな凄い事してませんよ。ただ…選ばれただけで。」
「りき、そろそろログアウトした方が良いんじゃない?」
「あ、そうだった。じゃあ…」
「俺も寝る。」とダリアさんが目の前で速攻ログアウトした。
「え?…えっと…おやすみなさい。」
「お気をつけて。」と千翠さんに言われた。
自室に戻ってはきたけど…。
「どうしたの?」
「うん、護…大丈夫かなって。」
「ちょっと残って様子みてきたほうがいい?」
「うん。やっぱりちょっと心配で…。」
「わかった。じゃあまかせて。りきは先に寝たほうがいいよ。」
「うん。ありがとう、おやすみ。」
護は俺より大人っぽいし…大丈夫だろうとは思うけど…どうしてか心配してしまう。
大丈夫かな。そういえば…シンカさんも声を変える指輪はめてたっけ…シンカさんの地声ってどんなだろう?




