【浸食された意識と度重なる後悔】
俺と咲はジャンさんに装備の見直しと調整をしてもらっていた。
「本当に行くのですか?」とジャンさんが作業をしながら聞いてきた。
「うん。これ以上…ヒルコに悪い事をしてほしくないの。」
「あの、聞いてもいいかな。ヒルコと咲ってどういう関係なんだ?」
「……。」
咲はとても言いたくなさそうな顔をしていた。
「はぁ。やってしまった事は仕方ないだろう。りき…咲はヒルコに魅惑をかけた。魅惑にかかると君が咲に抱いてるような感覚になる。ただの魅惑じゃない……運営の力を使った強制的な魅惑だ。ヒルコの能力の高さに心地よさを感じた咲は…魅惑を解かずに…最後の瞬間まで…。」
咲は自分の服をぎゅっと握りしめていた。
「でも、最後はヒルコさん咲を倒そうとしたんですよね?」
「当時の魅惑は今ほど完成度の高いものじゃなかったので倒してしまえば、魅惑が解けると思ったらしいですよ。時々魅惑が解けるんです。最後はもう魅惑状態から必死に抗った結果…とでも言うのでしょうか。」
咲は脅えていた。【リアル】で脅えた感情をもつと顔が青くなるから分かる。
「咲、何をそんなに脅えてるのか言ってくれないか?」
「………。」
俺はため息をついた。
自分なりに考えてみた。咲がどうして黙っているのかを…そういえば前にヒルコはソルっていうキャラが好きでそれを取り上げられて怒った的な事を聞いたことがある。俺に嘘をついた事がバレたのが原因かな?よし、それなら…
「咲、俺は俺と出会う前の咲が何か悪い事をしてたとしても今はそれに対して責めないし嫌いにもならない。今の咲はそれが悪い事だって事もわかってるんだろ?だから俺に知られるの嫌なんだよな?」
咲の青い顔が解除された。
「ごめんなさい!!私…悪い事してた。」
「うん、今はそれでいいから。それよりもやらなきゃ前に進めない事があるんだろ?」
「うん…。」
咲の目から涙がポロポロとこぼれはじめた。
「……コホンッ。いつかは話さないといけない話だ。今話せるだけ話したほうがヒルコと戦う時に迷いが無くなる…でしょう。」
「でも、ヒルコが私を好きだったのも事実なの…ミシェルが現れるまでは。ミシェルは現実世界でのヒルコのお嫁さん。私はヒルコの心変わりが気に食わなくてヒルコを魅惑したの。凄く…子供だった。ダメだね。…りきに励まされてるようじゃ…全然大人じゃない私。」
「そっか。でも、どうしてヒルコを倒してしまわないといけないんだ?」
「ヒルコは、私を倒せば魅惑が解けると思ったみたいだけど…違うの。ヒルコがペナルティを受ける事によって魅惑が解除されるの。」
「なるほど…。」
「今のヒルコは…魅惑が変にかかったままで、更にアプデが重なりに重なって変な呪いみたいに変わってるっぽくて、ログインするたびに正気を失ってる気がする。一度ペナルティに入れてしまえば…うまくいくと思う。」
「わかった。咲を倒した相手に勝てるかちょっと不安だけど頑張るよ。」
「勝てるわ。あの時の私は色々と慢心してて…でも小人達が傷つく事を一番に恐れてて…その迷いのせいでヒルコに負けたの。りきなら勝てる。」
「俺の鍛え直した装備を信じてもらいたいものです。武器も防具も性能を上げておきましたよ。ゲートは俺が開きましょう。さぁ、装備を。」
ジャンさんから装備を受け取って装着し、開いてもらったゲートへ咲と手を繋いでくぐろうとした時、トントンとジャンさんの部屋をノックする音が聞こえてジャンさんに待てと言われて、ゲートの前で留まると、ジャンさんがドアを開きに行って開いてみるとシンだった。
「シン!」
「りき!…絶対無事に帰ってきて!待ってるから!」
「うん。」
「それ…だけ。」
「ありがとう。じゃあ行ってくるよ。」
シンとジャンさんに見送られながら俺と咲はゲートをくぐった。
金ピカの床に赤い絨毯がひかれた部屋についた。ほとんどの装飾品が金ピカだ。
「おやおや、ミルフィオレの雑魚がどうやってここへ?」
目の前に大きな机があって、椅子がくるっと回転してヒルコさんの姿が見えた。
俺はぎゅっと拳を握って「お久しぶりですね。」と言ってみた。
「久しぶりだと?」とヒルコさんは眉をひそめる。
「久しぶりね。ヒルコ。」
咲の声を聞いてヒルコさんは大きく目を見開いた。
「そ…んな。まさか。ソル…様…。」
「ヒルコ、聞いて。ヒルコがペナルティになれば魅惑が解けるの。私が貴方にかけてしまった酷くねじ曲がったプログラムが。」
「はっ。私は倒れるわけにはいかないのだよ。ここに…このゲームに人生の全てを投資した。一回でもペナルティになれば、ソル様の残したこの国と…それからギルドが崩壊してしまうではないか。」
「………ギルドは解散しておくべきだったわ。それから国も…壊しておくべきだった。」
「何を…何を言っている?私がこれまで…どれだけこの国と…このギルドに全てを…かけ…。」
ヒルコさんは苦しそうに顔を歪める。
「ヒルコさん?」
「ヒルコ…どうしたの?」
異様な様子に後退りする咲
「ソル…様。……お出ましください。」とヒルコさんが言うとヒルコさんの隣に、金髪ロングにピンク色の瞳をした女性AIが現れた。
その女性AIはどこか咲に似ていて、黒と金を基調としたフリフリドレスを着ている。
咲は酷く驚いていて「うそ…どうやって…?」と…腰が抜けたように座り込んだ。
女性AIは「ヒルコ、ユダを呼んで。」とヒルコさんに命令した。声が咲と同じで俺も驚いた。
「かしこまりました。」とヒルコさんはスマホを触る。
「……貴女は誰?」と咲は震えた声で聞く。
「それはこっちが聞きたい。お前は誰だ。ヒルコとどういう関係だ?何故、私と同じ声をしている。」
「ヒルコ?…もしかして…ムーンバミューダから私のIDを買ったわね?」
「はっはっはっはっはっ……そうではない。コピーを頂いたのだ。心の入ったコピーをな。でなければ…発作が起きてしまった時、自我を保てなくなるんでね。運営からの補填だ。」
前にヒルコさんを見た時はとにかく恐ろしくてヒルコさんを見ようと思わなかったけど、なんだか…気のせいかもしれないけど苦しそうに見えた。
「ヒルコさん。俺と決闘してもらえませんか?」
「決闘だと?」
ゲートが開いて、見知らぬ男性が現れた。
「ユダ、お願い。ヒルコの変わりにギルド長と国の権限を持っててほしいの。」と女性AIが言った。
「かしこまりました。ソル様。」とユダと呼ばれた男性はそれを引き受けた。
「ヒルコ、権限を渡して。」
「はい…。」
そのやり取りはとても不思議な光景だった。
先ほどまで人生の全てをかけたと言っていた男性がいとも簡単に大事な全てを渡してしまったのだ。
おかしいにもほどがある。
「ヒルコさん、俺を覚えてますか?りき…ですけど。」
「りき…だと?……まさかあの時の…。」とヒルコさんは大きく目を見開いた。
「ヒルコ、私とパーティーを組んでソイツと決闘するの。」と女性AIが命令するとヒルコさんの目がすわり「はい。ソル様…。」と何かに操られているかのように従った。
ふと咲を見るとポロポロと泣いていた。
「…私……私っ。」
「咲、今は…早くヒルコさんを楽にしてあげよう?」
「うんっ…うんっ…。」
ヒルコさんから決闘を申し込まれてカウントダウンが開始された。
「多分ね、ヒルコは悪くなかったみたい。」
「うん。わかるよ。こんな状態じゃ…まともにプレイできないよ。」
「…私が…いけなかったんだ。」
俺は咲の震える手を握った。
「絶対に倒そう。」
「うん。」




