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津軽藩起始 油川編 (1581-1585)  作者: かんから
第九章 浄満寺戦争 天正十三年(1585)三月二日午後より
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まつろわぬ民 第四話

「ならぬ。」


 薄暗い城内の広間に為信の声が響いた。ただしこれは浄満寺に籠る兵や民らを殺すなということではない。大浦三家老はただならぬ物言いに押されひれ伏しつつも、これを譲る気はない。……他の家来衆も見守る中、兼平が初めに言葉を発する。


「しかし誰かが責を負わねばなりませぬ。無論、最悪の事態を迎えるなどと決まりこそせぬが……もしそうなった場合、我らが恨みを一身に浴びる覚悟でございます。」



 これに対し為信は、またも声を荒げる。


「では悪者はお主らか。お主らが勝手にしたこととすれば、町衆は納得するか。そういうわけではなかろうて。」


 兼平は異を唱えようとするまえに、今度は森岡が話し出す。


「かといって殿が命じたということにしてしまえば、恨みは大浦家全体に向かいまする。ならば我ら家来衆の誰かが被ればよいのです。そこで我らが被ると申しておるのです。」



「許さぬ。私が志を失ったときに支えてくれたのはお主らではないか。そんなお前たちに汚名を着せるわけには参らぬ。」



 しかし……と兼平と森岡は顔を見合す。小笠原は……腕組みをし、黙って思案したままだ。


「そうだ。私こそ汚名を着るのがふさわしい。かつて噂になったろうに。小笠原殿の娘が多田殿へ嫁ぐのを、横取りしようとしていたとかなんとか。」




 それを当の小笠原殿の前で言うか……。しかもこの場所で。



「真か嘘か別として、他にもあるぞ。エゾ衆が襲われるところを黙って見過ごしたとか何とか。義父(ぎふ)の息子を計略で殺したとか。……そしてこの度、再び南部を裏切った。回しく穢れ役は私だ。」



 広間は静まり返ってしまう。ただし気持ちとは裏腹に夜の闇は今にも抜けんと、外の霧に薄い光が差し込み始めている。この場所ももう少しで明るくなるか……。


 ここで一人にやけて笑い出す者あり。三家老の横で侍ていた沼田祐光である。手元に置いてある扇子を開き、わざと口元を覆いながら話し出す。


「ならば……ここは白取殿にでも指揮をとらせるのはいかが。彼も南部を裏切って、此度の戦を起こした張本人ですぞ。どうでしょう、お手前は。」



 沼田は白鳥へそのいやらしい笑顔を向けた。……急に名指しされた白取は狼狽えてしまい、すぐにモノを言い返すことはできなかった。だろうの……と沼田は彼をバカにしつつ、為信へ体の向きを変えた。扇子は畳の上に置く。


「誰が汚名を被るや噂が悪いなど、一致団結した大浦家の前には論議不要なこと……。これまで殿が行ってきた政治に、領内の民は感謝してもしきれませぬ。自信をもっていいことかと存じます。ただし油川の町衆に対する領主奥瀬の政治も、大変よきものでございました。これを忘れて大浦に尽くせというのは、難しい話……。しかれども大事なのは戦の後。我らがこれまで行ってきたことを油川にも施す。これを徹底するしかございませぬ。此度のことは残念ながら避けようならず。己の頭でも考えつかぬ事。こればかりは無念でなりませぬ。」


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