まつろわぬ民 第四話
「ならぬ。」
薄暗い城内の広間に為信の声が響いた。ただしこれは浄満寺に籠る兵や民らを殺すなということではない。大浦三家老はただならぬ物言いに押されひれ伏しつつも、これを譲る気はない。……他の家来衆も見守る中、兼平が初めに言葉を発する。
「しかし誰かが責を負わねばなりませぬ。無論、最悪の事態を迎えるなどと決まりこそせぬが……もしそうなった場合、我らが恨みを一身に浴びる覚悟でございます。」
これに対し為信は、またも声を荒げる。
「では悪者はお主らか。お主らが勝手にしたこととすれば、町衆は納得するか。そういうわけではなかろうて。」
兼平は異を唱えようとするまえに、今度は森岡が話し出す。
「かといって殿が命じたということにしてしまえば、恨みは大浦家全体に向かいまする。ならば我ら家来衆の誰かが被ればよいのです。そこで我らが被ると申しておるのです。」
「許さぬ。私が志を失ったときに支えてくれたのはお主らではないか。そんなお前たちに汚名を着せるわけには参らぬ。」
しかし……と兼平と森岡は顔を見合す。小笠原は……腕組みをし、黙って思案したままだ。
「そうだ。私こそ汚名を着るのがふさわしい。かつて噂になったろうに。小笠原殿の娘が多田殿へ嫁ぐのを、横取りしようとしていたとかなんとか。」
それを当の小笠原殿の前で言うか……。しかもこの場所で。
「真か嘘か別として、他にもあるぞ。エゾ衆が襲われるところを黙って見過ごしたとか何とか。義父の息子を計略で殺したとか。……そしてこの度、再び南部を裏切った。回しく穢れ役は私だ。」
広間は静まり返ってしまう。ただし気持ちとは裏腹に夜の闇は今にも抜けんと、外の霧に薄い光が差し込み始めている。この場所ももう少しで明るくなるか……。
ここで一人にやけて笑い出す者あり。三家老の横で侍ていた沼田祐光である。手元に置いてある扇子を開き、わざと口元を覆いながら話し出す。
「ならば……ここは白取殿にでも指揮をとらせるのはいかが。彼も南部を裏切って、此度の戦を起こした張本人ですぞ。どうでしょう、お手前は。」
沼田は白鳥へそのいやらしい笑顔を向けた。……急に名指しされた白取は狼狽えてしまい、すぐにモノを言い返すことはできなかった。だろうの……と沼田は彼をバカにしつつ、為信へ体の向きを変えた。扇子は畳の上に置く。
「誰が汚名を被るや噂が悪いなど、一致団結した大浦家の前には論議不要なこと……。これまで殿が行ってきた政治に、領内の民は感謝してもしきれませぬ。自信をもっていいことかと存じます。ただし油川の町衆に対する領主奥瀬の政治も、大変よきものでございました。これを忘れて大浦に尽くせというのは、難しい話……。しかれども大事なのは戦の後。我らがこれまで行ってきたことを油川にも施す。これを徹底するしかございませぬ。此度のことは残念ながら避けようならず。己の頭でも考えつかぬ事。こればかりは無念でなりませぬ。」




