嘆き 第一話 +高田小館絵図
「頼英殿……どうなされました。このような時に。」
慌ただしさを増す城内に入ってきた老僧。さも焦っている素振りで奥瀬の元へ寄る。そして耳元でコソコソと伝えるのだ。
「これは寺の小僧が見てしまったことですが、驚かれることなきよう。」
「この際だ。何を話しても許そう。」
頼英は唾を呑み、少しだけ善悪に伴う躊躇いこそあるものの……意を決して口を開く。
「山菜取りの小僧が伝えるに、あちらの山の中は兵でごった返しているとのこと。そこで上の者が密かに見に行くと、おおよそ二千もの兵らが山で潜んでおりました。」
ほう……大きく出たな。
「旗印は “錫杖の先”。真ん中には大きな卍の旗もございました。おそらくは……大浦軍。為信は我らを裏切ったのです。」
……二千。真偽はともかく、兵の過多に疑いこそ残るが……奥瀬は悩んでしまう。
仮に頼英が真の事を申し伝えたとしても、夜襲ならば火など点けずにそのままここに攻めてくればよい。なのに攻めてこない。それとも火をつけて怯えさせようという魂胆ならば、その二千とかいう兵らすべてに松明を持たせればよいではないか。意図が分からぬ。一方でそんな奥瀬にお構いなく、頼英は話をまくし立てる。
「そのまま身を潜めて兵らを窺っておると、ありえぬ話も聞こえて参りました。すでに浪岡は寝返り、白取は為信に従った模様。いずれ街道筋からも兵らが攻めて参りましょう。」
もう訳が分からぬ。
白取が……。為信を見下していたあの白取が……。ここで奥瀬は己の馬鹿さ加減に笑えてきた。真偽は据え置くとして、もしそれが本当なら……為信にしてやられた。婚儀の話ははなから罠だ。何を私は油断していたのだ。堤氏が暗殺され、よく考えれば為信にとって絶好の機会。大浦の領内で争い事が起きていたので外へちょっかいを出す余裕などないと考えてもいたし、そのような彼らにとって婚儀の話は助け船だったはず。南部氏に属する一豪族として、未来永劫裏切ることなく居続けると……。もちろん奥瀬と大浦が手を結び、白取を浪岡から原別に戻すというのが表向き。ただし南部の大きな権力を後ろ盾に、大浦が内側の不平を抑えようという考えはなかったか。
ここでまさか、為信と白取が繋がってしまった。
高田小館絵図
https://18782.mitemin.net/i410964/
2018/02/15 挿絵に関して
出典元:特集 津軽古城址
http://www.town.ajigasawa.lg.jp/mitsunobu/castle.html
鰺ヶ沢町教育委員会 教育課 中田様のご厚意に与りまして掲載が許されております。小説家になろうの運営様にも、本文以外でのURL明記の許可を得ております。
光信公の館
〒038-2725
青森県西津軽郡鰺ヶ沢町大字種里町字大柳90
http://www.town.ajigasawa.lg.jp/mitsunobu/
TEL 0173-79-2535
鰺ヶ沢町教育委員会 教育課
〒038-2792
青森県西津軽郡鰺ヶ沢町大字本町209-2
TEL 0173-72-2111(内線431・433)




