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津軽藩起始 油川編 (1581-1585)  作者: かんから
第七章 浪岡無血開城 天正十三年(1585)三月一日
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人の道 第五話


 ただし奥瀬善九郎は落ち着いていた。他の者が好きなように騒ぐ中、冷静に山の方を見つめる。



“ざっと光の多さを考えると、松明の持ち手は二百ほどでも、兵全体では五百ぐらいだろうか”


“油川へ直接攻めてくるのであれば、浪岡にも何らかの調略は済んでいよう”



“しかしだな……火の揺らめきがない。夜討ちするならば点ける意味はないし、おそらくその場から動いてもいない”




 奥瀬は全容までわからないものの、何やらおかしいことを見抜いていた。さすがは油川を治める武将である。我の激しい油川町衆が穏やかに暮らせることは、やはり彼の力によるところが大きいのだ。

 彼は油川の本館から出でて、周りで騒ぐ兵らにまず “落ち着け” と一括。普段は見せない般若の形相に一同たじろぎ、瞬く間に静まり返った……。そして暗闇の中に、奥瀬の姿は冴える。




「いいか。夜討ちといえど、相手は五百程度。我らが今から支度をすれば十二分に討ち払える。さあさあ戦の支度をせよ。婚儀の舞台など捨て置け。」



 そうだそうだと兵らは気を引き締め、急ぎ武器庫へと足をせかす。他にも馬の納屋へ向かう者、女であれば炊事場へ向かって、戦の前に握りでも食べさせてやろうと考える。各々がそれぞれのやるべきことのため、人が城内で入り乱れている。そんななか城をでて何やら遠くへ去る者もいたり……つまりは敵方なのだが、予想外の動きに為信方の間者も急ぎ伝えに走る。彼にとっても山に火を掲げるなど伝え聞いておらぬのだから。


 奥瀬は軍配を持ち、もたもたしている者には直接口で指示を出す。かつ全体の動きによどみがないか観察し、そして次には真西の山を見る。……やはり火の揺らぎがない。何か裏にあるぞ……とありとあらゆることを考えてみるが、結論は出ぬ。見えているモノは事実。事実なのだが……あれは何を示すのか。



 すると荒れ狂う城内へ、小走りに入り込む老僧があり。




 頼英(らいえい)だ……。

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