人の道 第四話
山の中は油のきつい臭いが漂い、嗅覚が鋭い者はきっと悶絶するだろう。現に船手伝いでやってきたという小五郎という者は吐き気を催し、草の上で横たわっている。……だが彼の苦しみは今しばらく続くだろうが。
太い棒の先には、油で湿させておいた布が巻きつけられている。それに僧侶らは順番に火をつけていく……。さあ光よ、油川まで届け。星の明るさには当然勝つし、かえって月のない夜でよかったとも思える。この否応なき暗さに人為的に灯された火は、山すべてを光源となす。
赤い煙は高々と上がりゆき、嫌な臭いもさらに漂う。これまでの油臭さに加わり、さらには焦げ臭さ、煤を肌にかぶり、衣は細かい黒の粉を浴びる。しかし片手には松明を持ち続けるのが銭をもらう条件。熱さは目の前から伝わるが、我慢してくれ。
…………
その明るさは闇夜に輝き、油川の者らは“何事か”と騒ぎ立てはじめる。町には遠地より商売にきた者や船を動かす者が多いので、彼らは結構夜遅くまで起きているので、当然ながら変化に気づきざるを得ない。油川での短い夜を楽しもうと酒で酔っているので、なおさら騒ぎ立てるのだ。すると静かに寝静まる在来の町衆も起こされてしまい、同じく事態に気付く。何も知らぬ者は “何かのお祭りか” と平和ボケして訊くが、夜に何かするなど一切聞かぬ。しいて言えば奥瀬と大浦の婚儀のために、長い行列が夜が明けたら油川へ着くことになっている。その祝いのために我らは準備をしていたし、それ以上のことはまったくわからぬ。
いや……、それでもありえぬ。為信が戦を仕掛けるなどと申すことは。浪岡に白取氏がいる限り、“為信” がもし裏切っても浪岡で戦が始まるはず。それに奥瀬と大浦は今まさに血族とならんとしているときに……ありえぬではないか。
理解が及ばぬし、思考が停止する。




