不犯札 第三話
熱した頃合いは過ぎ、稲穂が垂れる季節……かつて水木御所があった近くに誰も耕さぬようになった土地があり、そこに多くの他国者が移り住んでいた。その場所を榊村と名付け、嘉茂助という者が先頭に立って指導している。そして入植して最初の秋……実りは豊かに、在来の者も含めて誰もが豊かに暮らす。そこへしばらく後……生玉角兵衛らの集団が密かに入った。衣はたいそう汚れ、布のほつれなど見苦しい限り。嘉茂助はため息をつき、角兵衛へ苦言を呈す。
「ここに集まった他国者は、地道に努めていこうとする者ばかり。奪うことをせず、堰を作り、田畑を広げていく……。お主も落ち着いたらどうだ。」
角兵衛は首を振った。
「いや。お前らは運よく、誰もいなくなった土地に入ることができた。残った者はどうする。水路も整っていないところで一から作れというのか。」
「角兵衛殿。もしあなたがそうなさるのなら、私どもも協力いたす。同じ他国者なのだから。」
“ふん”と鼻で笑う角兵衛。嘉茂助の話は理想論としか思えない。もちろん武士だった者が生きるために鍬を握ることは仕方ない。しかしエゾ衆の土地が手にはいれば、最上の事。川に近く、水路も作りやすい。のうのうと土地に草を蓄えさせておくのは不服だ。それに奴らは和人の土地に住む “狄” ではないかと……。つまり、蔑んでもいい存在。このように口々に文句を言う角兵衛に、嘉茂助はあきれ顔で “おちつけ” と諭す。
「だがその結果、お主らはお尋ね者だ。エゾ村には南部の目が付き、襲おうものなら徹底的にやられる。」
そして、“ただし浪岡では驚きだったようだな” と続ける。角兵衛は身を乗り出して “どういうことか”と。嘉茂助は渋りながら……ひとまずは無言で目の前の茶をすする。少し苦く、後味に残っている。舌触りもあまりよろしくなく。




