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津軽藩起始 油川編 (1581-1585)  作者: かんから
第五章 安東氏、為信と再び和睦す 天正十一年(1583)秋
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不犯札 第二話

 生玉(なまたま)角兵衛(かくべえ)の率いる集団は馬に跨り、エゾ村より外へ駆けて行った。入れ違いに各村より集めたエゾ衆の男ら、二百人ほどが到着。両者が争うことなかったのは双方にとって幸運な事であり、妙誓も胸をなでおろした。そのまま煙の元を消しにかかり、水が多くあるわけではないので、火元の小屋を大きな棍棒などで取り潰す。ドガドガと激しい音が辺りに響き渡り、躍起になって潰す男たちには “戦わずに済んだ” という安堵の気持ちと “いつか仕返しをしたい” という恨み。様々な想いが交差しながら作業をこなす。そうしているうちに煙はなくなり、日は八甲田より昇った。


 誰もが疲れ果て、家々の壁に横たわっている。生半可に目を開け、日の輝る方をぼんやりと……そんなとき、妙誓(みょうせい)は閃いた。もしやこれは活きるのではないかと。急ぎ近くの者に紙と墨を持ってこさせ……地べたに広げてそれも達筆に書き始めた。その様はスラスラと、よどみなく文字が記されていく。



“村を襲うべからず。村を虐げることなきよう。これを犯さば正義が罰を加うる。

  油川明行(みょうこう)寺、住職妙誓”




 周りにはこの文章を読めるエゾ衆はいないので、妙誓はまず読んで聞かせた。次に少し和語の心得ある者は “これはいい” と手を叩いて喜んだ。なんだなんだと他のエゾ衆も集まってきて、各々声を上げ “イヤイライケレ” と笑顔で騒ぎ立てた。


 不貞集団が大勢のエゾ衆の見ずして去ったのは誰もが知るところ。つまり……妙誓が来たから。さらにいえば妙誓の背後にある権力。彼女と対立すればすなわち、油川の奥瀬氏、さらには浪岡郡代や堤氏、最後は南部氏をも敵に回す結果となるかもしれぬ。大浦氏もこれまで通り見て見ぬふりもできぬ。




 ……妙誓はしてやったりの笑みで皆々に伝えた。


「これをエゾ村の全てに貼りなされ。奴らは結局、俗に弱いのよ。」



 村には限りなく明るい光が差し込んでいる。


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