激突 第二話
「私は “和人” のように振る舞う気はないし、まずはエゾ衆の ”心持ち” を知らねばならぬだろう。エゾ村にいるときは客人としてではなく、同等に扱ってほしい。馴染みやすいように、同じ格好をしたくての。」
その話を聞いたエゾ衆。恐れ多い限りであったが、妙誓は冗談で言っているのではない。目つきは真剣そのもので…… “わかりました” と応えるしかなかった。
妙誓にとって和人とエゾ衆の垣根などない。もちろん仏門の身なので、“仏の前では平等” という論理は成り立つのであるが、彼女は少し違っていた。エゾ衆は仏を信じておらず、彼らには崇めている自然神がいる。その点を突いて、差別したのが同じ真宗の生玉角兵衛。妙誓はというと……道は無数あれど、真理は一つにである故、最後には一か所にたどり着くだろうと。改めて他の者へ言うことは無いが。
……藪を越えて、さて行きつくはエゾ村へ。近くのところは一刻で着くところにあったので、まだ日は落ちていない。急ごしらえの木の柵が村の周りを囲み、護る男たちが “イランカワプ” などと聞きなれぬ言葉を頭を下げつつ言ってくるが、きっと挨拶だろうなと妙誓も穏やかに礼をして返す。他幾人も村の門境にところに出てきて、同じように妙誓へ挨拶してくる。そんな中で彼女はエゾ衆の恰好を窺いみる……衣装は黒い生地に白い渦巻の刺繍があれば、茨のような模様もある。……普段こんなに大勢を相手することもないので気が付かなかったが、手の候にも刺青があるらしい。後でわかることだが、村ごとで色々と決まりごとがあるらしいが。
妙誓はさっそく小屋の一つを貸してもらい、鮮やかな衣装に着替える。小屋の中は藁の敷物などは津軽衆と変わりないが、やはり壁に飾ってあるものは特殊な文様であるし、獣の皮など堂々と飾っている。そして村の女に手渡された一式の衣装。“同等に扱え” と伝えていたのだが、どうも煌びやかな様をみると祭り用のものらしい……そこは言わないでおこうか。そして手ほどきを受けながら着替え終わったところで、その村の頭だろうか、腕まくりをした屈強なエゾの男が手招きをする。妙誓はだまって頷き、立ち上がって後をついていく。




